バックミラーに変わる未来のバックモニター

アヘッド 多機能カメラモニターシステム

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レースの世界では、カメラで捉えた後方の視界を車内のモニターに映すシステムが浸透しつつある。乗用車で言えば、シフトレバーをリバースに入れた際に起動するバックモニターが、常時オンになっているようなものだ。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.152 2015年7月号]
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バックミラーに変わる未来のバックモニター

バックミラーに変わる未来のバックモニター

速度差のある車両が混走するため、前に注意を払うと同様に後ろにも気を遣わなければならない日本のスーパーGTがそうだし、 WEC(世界耐久選手権)がそう。鏡を使ったミラーは縁石乗り越え時などに車幅を把握するのに用い、後方を確認する場合はカメラモニターに頼る。その方が安全で快適だからだ。

ル・マン24時間レースには先進的な車両のための特別枠があり、日産はこの枠を利用して'12年に「デルタウイング」と名付けた革新的な車両を送り込んだ。

このクルマは鏡面式のリヤビューミラーを廃し、カメラで捉えた映像だけで後方確認を行うつもりで開発が進められていた。ところが、土壇場になってレースの主催者から規定どおりのミラーを装着するよう要求されてしまった。その結果、空気抵抗は5%増えたという。

鏡面式ミラーがクルマから消えるのは、レーシングカーより乗用車の方が早いかもしれない。伝えられるところによると、早ければ'16年9月以降には法規の改正が行われ、カメラモニター方式が認可されることになりそう。

システムが故障したときのバックアップはどうするかという課題は残るが、法律的には、鏡面式ミラーのないクルマが認められることになる。となると、レーシングカーほどシビアではないにしても、空気抵抗の低減による燃費向上効果が期待できそうだ。

メリットはそれだけではない。偏平タイヤが認められればそれとセットで導入が進んだ大径ホイールに合った車両デザインが生まれるし、フェンダーミラーからドアミラーに移行したときも、スタイリング革新が進行した。ミラーレスになるインパクトはずっと大きいだろう。

カメラモニター方式によってドライバーが享受するメリットはそんなものではない。視線移動が少なくて済み、雨滴に影響されず暗がりでもクリアに状況を確認できたり、夜間の眩しさも軽減できるのがベーシックな機能。

これらに加え、市光工業が開発する多機能カメラモニターシステムは「多機能」の表現が示すとおり、側後方の状況を車内のモニターで確認できるだけでなく、実に多くの安全機能を盛り込んでいる。ミラーを単純にカメラとモニターに置き換えたわけではないのだ。

広角カメラを用いることによって鏡面式ミラーでは実現不可能な広い範囲を確認することが可能だし、ドアやAピラーによって生まれる死角を解消できる。

複数のカメラを連携させれば、全方位の状況を把握することも可能だ。各種センサーと組み合わせることで、右左折時の歩行者の検出や、死角を走行するクルマやバイクを検出する機能と連動させられる。なんとも夢のふくらむ技術だ。
▶︎写真は、市光工業が開発を進めている「多機能カメラモニターシステム(Multifunction Camera Monitor System)」のコンセプトを表現している。現段階ではまだカメラモニターだけだが、近い将来、一つのカメラで複数の機能を併せ持つシステムが商品化される可能性が高い。www.ichikoh.com/

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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