バイクの神様に選ばれて 松崎 祐子

バイクの神様に選ばれて 松崎 祐子

バイクの神様に選ばれて 松崎 祐子

ドゥカティ スクランブラー (現在所有)

ヘルメットを脱げば、パッと周囲が華やぐような笑顔が輝く。誰にでも礼儀正しくて、人の話をちゃんと聞ける大きな器と、サッと行動に移せる機敏なバネを持ち合わせた松崎さんの周りには、いつも多くのライダーたちが集う。

2013年にフェイスブック上のコミュニティ「バイク女子部」を立ち上げ、すでに参加者は1700人を超えた。ちょうど1000になった時に仲間とともに開催した「バイク女子部」のミーティングには、実に80人もの女性ライダーが駆けつけたという。

その後も不定期でイベントを開催しているが、参加者の中には「本当に女性が主体でやっているので来ました」と言ってくれる女性も多いという。〝女性だけの〟と謳うイベントは数あれど、実は裏で男性が手を引いていた、という話は少なくない。

女性が女性を見る目は厳しく、一度「ああ、やっぱり」と思われたら二度目はない。「バイク女子部」が続いているのは、松崎さんが心から、女性ライダーたちを応援したい、役立つ情報や交流の場を届けたい。そうした想いで自ら行動しているからだろう。

そんな松崎さんは今年4月に、バイクやクルマ好きの女性に向けた情報サイト『Lady Go Moto!』を立ち上げた。クルマに特化した女性向けサイトはいくつかあるが、バイクをメインとする女性向けサイトはほとんどない。まさに、編集者として『MOTONAVI』をはじめとする二輪・四輪雑誌の制作に長く携わってきた松崎さんにしかできないことである。

しかし2年ほど前に、編集者を辞して二輪四輪好きのためのセレクトショップ「モトーリモーダ」の広報担当に転身した松崎さんは、こう語っていた。

「バイク業界のメディアって、クルマに比べ若いスタッフが多いんです。そしてやっぱり編集の仕事はハード。40代も後半になった時にこの先5年、10年とやっていくのはかなり辛いんじゃないかな、という不安が大きくて」

女性が自分の力で生きていくには、ただ「やりたい」という気持ちだけでは務まらないこともある。仕事に真摯に向き合い、その責任の重さを理解している松崎さんだからこそ、出した答えだったのだろうと感じていた。

バイクの神様に選ばれて 松崎 祐子

それでも松崎さんは、再びバイクメディアに戻ってきた。しかも、サイト運営という大変な作業をゼロからスタートしたのである。そこにはどんな決意があったのか、話は松崎さんとバイクの出逢いにさかのぼる。

日本海に面し、世界遺産の五箇山合掌造り集落や黒部渓谷といった、美しい日本の原風景や壮大な自然を有する富山県。そこに生まれた松崎さんは、1歳上の姉と3歳下の妹を持つ三姉妹として育った。幼い頃からファッションが大好きで、当時絶大な影響力を誇ったティーン向けファッション誌『オリーブ』や『mcシスター』が愛読書。将来の夢はファッション関係の仕事に就くことで、クルマやバイクに興味を持つことはまったくなかった。そして専門学校でファッションを学ぶべく、上京したのが18歳のことだった。

しかし20代の頃は、松崎さん曰く「面白そうと思ったことにすぐに飛びつくけど飽きっぽくて、フラフラしてた」日々。専門学校は辞め、職を転々としながら、音楽も好きだった松崎さんは当時人気だったモッズ系バンドにのめり込んだ。ロンドンを発祥として60年代に世界中の若者たちに影響を与えたモッズのライフスタイルには、スクーターがお決まりのアイテム。

その姿に憧れたのが、バイクと松崎さんとの出逢いだった。ライトがたくさん付いたスクーターに乗るモッズと、バイクに乗るロッカーズの対立が見どころでもあるイギリス映画『さらば青春の光』を観て、さらにスクーターに惚れ込んだ松崎さんは、自分も乗りたいと教習所に通い始める。

「憧れていたのはランブレッタのスクーターだったんですけど、教習所でギア付きのバイクに乗ったらそれが面白くなってしまって、結局、免許を取って最初に買ったのはヤマハのSR。未だにスクーターは所有したことがないんです」

バイクの神様に選ばれて 松崎 祐子

▶︎バイクウェメーカーの「カドヤ」からリリースしていた女性ライダー向けのブランド『any-k』。松崎さんも企画に関わったという。

SRと言えば、昨年、惜しくも生産が休止されたが、名車中の名車であると同時に、これぞバイクの原型と呼びたくなるような、美しく整ったデザインにもファンが多い。バイク選びの基本は今も昔も変わらず、見た目、ファッションを優先する松崎さんらしいが、SRの特徴でもあるキックスタートをさして苦にせず、そのSRでバイク便のアルバイトまでやっていたというから恐れ入る。

そして編集部の誰もが驚いたのが、そのあとに続く愛車遍歴である。SRの後に18年くらい乗っていたというヤマハ・セロー225は、スクランブラー風にカスタムされたオレンジブルバードのコンプリートバイク。軽くて機敏で、もはや体の一部のようだったという。次は当時お付き合いしていた彼の影響で、大型免許を取ってまで乗り換えたハーレー・FXE。'79年ごろの、なんとショベルヘッドと呼ばれるモデルに乗っていたという。

女性が乗ることが全く想定されていない本物志向のクラシックバイクだが、古い機械を動かしているという感覚がたまらなかったらしい。その後、ハーレー・スポーツスター(883)、なんともツウ好みなドゥカティ・ムルティストラーダ1000Sときて、現在はドゥカティ・スクランブラー。

どれも、決してファッション感覚だけで乗れるわけではない。センスの良さが光ると同時に、松崎さんが本気のバイク好きであることを物語る愛車遍歴である。

バイクの神様に選ばれて 松崎 祐子

バイク便を辞めてから、トリマー学校に通って動物病院で働いたり、ピンときたものに飛びついては、飽きて辞めるというフラフラな日々だったが、バイクが生活の中心にあるスタイルはいつも変わらなかった。そして登録した派遣会社で偶然、『カーグラフィック』編集部内の雑務をする仕事を見つけたことで、松崎さんの運命が大きく動いていく。編集者・松崎祐子が誕生するのはさらにその6年後になるが、そこから公私ともにどっぷりとバイク漬けの日々が始まる。

取材や撮影でいろんなバイクに乗り、メーカーの人たちの話を聞き、情報を発信する側になった松崎さんは、ある想いを強くしていった。

「基本的にバイク雑誌は、女性ライダーに向けた記事が少ないんです。バイクの横にモデルさんが立ってニッコリ、というのはよくあるんですが、それって女性は求めてないですよね。そこで、2011年に『MOTO BEAUTY』という女性ライダーに向けた雑誌を作りました。いろんな反響をいただいた中で、やっぱり女性ライダーのための情報を求めている女性は多いんだ、と実感したんです」

男性目線ではなく、女性が本当に知りたい情報を女性の立場から発信する。それによって、女性ライダーがもっと快適にバイクに乗れたり、輪が広がったら良いな、と。その想いを形にするにはどうしたらいいのか、松崎さんは長いこと模索していたという。

そして、フェイスブックで立ち上げた「バイク女子部」が盛り上がり、そこから実際に会ってリアルに繋がっていける素晴らしさ、面白さが松崎さんの背中を押した。相互コミュニケーションの場としては「バイク女子部」がある。では、そこで飛び出した女性ライダーたちの悩みや求めるもの、役立つ情報などを発信する場があれば、もっと彼女たちを応援できるはず。そうして誕生したのが『Lady Go Moto!』だ。

例えば『Lady Go Moto!』に掲載されている記事には、こんなものがある。「バイク女子のためのビューティケア(番外編)」として、ヘルメット内側がファンデーションなどで汚れてしまう悩みを解決するのは、「あせワキパット」を貼るのが効果的と紹介。これこそ、女性たちが本当に求めている情報、松崎さんにしかできない発想である。

「今はまだプレオープン状態で、これからもっと充実させて、できればビジネスになるように育てていくことが目標です。でも、飽きっぽい性格なので(笑)、自分一人でなく、バイク女子の仲間と一緒に盛り上げていけたらと思っています」

松崎さんは飽きっぽいと言うが、誰もそんな風には思っていないだろう。確かにフラフラしていたかもしれないが、後先考えずに一歩踏み出すパワーと、違うと思ったら流されずに辞めるパワーは、きっと同じくらい重い。カッコいいと思ったことに一途で正直な松崎さんだからこそ、それができたのではないだろうか。

『Lady Go Moto!』は、その積み重ねの集大成。松崎さんは必ず、ここでもそのスジ金入りの「カッコいい」を貫き、女性ライダーを盛り上げてくれるはずである。

❶ハーレーダビッドソン FXE(ショベルヘッド)
❷セロー 225(オレンジブルバード コンプリートモデル)
❸ハーレーダビッドソン 883(91年式)
❹今年開催したバイク女子部ミーティング
(http://www.ladygomoto.com/posts/4157398?categoryIds=1041958)
❺モトガールズリビカ(ツインリンクもてぎが運営する女性ライダーの会員制度)とバイク女子部がコラボし、ツーリング&サーキット走行体験を企画
❻ドゥカティ ムルティストラーダ 1000S
❼チェロキー リミテッド
❽スマート ロードスター
❾アルファロメオ スパイダー(現在所有)

アヘッド 松崎 祐子

Yuko Matsuzaki
バイク雑誌「MOTO NAVI」や自動車雑誌「NAVI CARS」の編集部に約10年在籍。その後、国内外の二輪四輪アパレルをセレクトする「Motorimoda」でPRを担当。バイクやクルマ好きの女性のためのメディアを作りたいと2018年に独立。webメディア「Lady Go Moto」を立ち上げた。www.ladygomoto.com


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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

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