目指せ!カントリージェントルマン VOL.13 2回目がいいところ

アヘッド メンテナンス

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サーキットを走るとき、素人が犯しやすいミスがある。早めにブレーキングを終えてしまい、ブレーキペダルの踏力を緩めてしまうのである。けれどレーシングドライバーの友人曰く、ブレーキのタイミングは最初が全てであり、セカンドチャンスはないという。

text/photo:吉田拓生 [aheadアーカイブス vol.189 2018年8月号]
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VOL.13 2回目がいいところ

VOL.13 2回目がいいところ

その理由は思いもよらぬものだった。走行中のクルマにはダウンフォースが発生しており、一発の姿勢変化でキレイにブレーキングを終えるとそのダウンフォースの助けもあって制動距離が短くて済むのだという。確かにブレーキペダルの踏力をコロコロと変化させ、ノーズがふらふらと上下する走りが理想的なわけなどないのだが。

これとは逆に素人の手仕事は、最初はダメなのだが2回目にずいぶんと良くなる。連日のように猛暑が続く昨今、朝の涼しい時間にガレージで愛車のメンテをしている。MGBのサイドウインドー周りのゴム類を交換しているのだが、この作業などがまさにそれだ。
セルフメンテナンスは嫌いではない。20代の頃はお金を節約する目的もあって、エンジンの整備からボディの塗装までひと通りの作業は自分でこなしていた。「人にできることは自分にもできる」という根拠のない自信を盾にして突き進むと、まあなんとかカタチにはなる。今でも走る、曲がる、止まるに関係ない部分の作業は自分でこなすことが多い。

そんな“セルフ人生”の中で、けっこう昔から気づいていたのだけれど、なかなか改善できないでいることがある。それは1回目より2回目の方が断然うまくできるということ。仕上がりのレベルは経験した数に比例する、というのは誰にでもわかる話だと思う。進歩の度合いは人それぞれ、しかも毎回一定ではないのだが、それでも最も大きく進歩するのは2回目と決まっている。1回目の反省を踏まえたうえで作業するからである。

その事実のどこに改善が必要なのか? 例えば1回だけで終わってしまう作業であれば、低レベルの仕上がりにしかならない。一方左右で同じ作業をこなすような場合には、最初にやった方がヘタクソで、後の方がうまいということになり、左右で仕上がりが均一にならないのである。
今回のサイドウインドーは右と左があるので後者である。初めての作業なので最初はかなり手こずった。ゴム製のウェザーストリップの交換はコツを要するし、サイドウインドー周りはスペースが限られているので、その分解は知恵の輪のように難しい。巻き上げ機構はしっかりグリスアップしなければならないが、ガラスやゴム部分に油分が付着してはならないというのも神経を使う。

果たして今回も2回目のほうがうまく仕上がった。見た目はもちろん、ウインドーを巻き上げてみた時の感触も後の方が確実にいい。あぁまたこの展開だ、と悲しくなったが今回は諦めないことにした。最初に仕上げた右側をバラして組み直すことにしたのである。

以前から問題の解決法が、組み直す以外にないことはわかっていたのだが、若くてせっかちで「ダメならまた今度直せばいいさ」と考えていた時分のボクにはそれができなかった。成熟したのか、歳をとって「また今度」が来ないことを覚ったのか? ともあれボクはようやく気づき、少しだけ成長した。時間とウデがないからこそ、モノゴトに手間暇を掛けなければならないのである。

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text:吉田拓生/Takuo Yoshida
1972年生まれのモータリングライター。自動車専門誌に12年在籍した後、2005年にフリーライターとして独立。新旧あらゆるスポーツカーのドライビングインプレッションを得意としている。東京から一時間ほどの海に近い森の中に住み、畑を耕し薪で暖をとるカントリーライフの実践者でもある。
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