埋もれちゃいけない名車たち vol.73 涙目の歴史的モデル「ポルシェ・タイプ996(911)」

アヘッド ポルシェ・タイプ996(911)

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〝Life〟という字ヅラを見て何を想うかはもちろん人それぞれ。〝人生〟というホロ苦いヤツに想いを馳せて一杯飲みたくなった人もいれば〝暮らし〟を思い出して明るい気持ちになったりメゲそうな気分になったりする人だっているだろう。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.189 2018年8月号]
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vol.73 涙目の歴史的モデル「ポルシェ・タイプ996(911)」

vol.73 涙目の歴史的モデル「ポルシェ・タイプ996(911)」

僕の場合はヘソマガリなのか、なぜか車名というものの〝寿命〟というかその変遷というか、継続性のようなものを思い浮かべてしまった。ちょうど別の仕事のカラミでポルシェ911の洋書を開いているときだったから、なのかも知れない。

かつての名車の名前があらためてニューモデルに使われる例は、最近になって珍しくも何ともなくなってきているけれど、かつての名車の名前がそのまま継続されて長いこと使われ続けている──つまりは基本思想を大きく変えることなく同じ名前のクルマが生産され続けている、という例はほとんどないといえる。

1936年に最初のモデルが作られた〝走る伝統工芸〟のようなモーガン4/4とその一連は特別な例として、量産モデルとしてはポルシェ911が唯一の存在ではなかろうか?

ポルシェ911の最初のプロトタイプ〝901〟がデビューしたのは、1963年、〝911〟として市販がスタートしたのは1964年。以来54年もの間、その名前は一度として歴史の表舞台から消えたことがなく、世界中で第一線級のスポーツカーとして認識され続けている。しかも車体の後端に水平対向6気筒エンジンを置く2+2シーターという基本的な設計思想を変えることなく。

もちろん舞台裏では何度か消滅の危機があったし、基本レイアウトを変えることが検討されたこともあったが、そのたびに時に細かく時に大胆な進化を繰り返して生きてきた。

この54年間の間に送り出されてきた911は、年式によって幾つかのシリーズに分類することができるのだが、その中には不遇な扱いを受けているモデルというのも存在する。1997年から2002年にかけて生産された、タイプ996がそれだ。

衝突安全のために車体が大型化され、環境問題に対処するためにトレードマーク的存在だった空冷フラット6エンジンが水冷化されるなど、現在の911に繋がるターニングポイントとなった、歴史的には重要なモデル。なおかつパフォーマンス的にも先代といえるタイプ964よりかなり高くなっている。

にも関わらずガチな911ファンから冷たくあしらわれがちなのは、顔つきが911としては唯一の涙目型ヘッドランプを持つ〝らしくない〟デザインとされているからに他ならない。乗り味は911そのものなのに。

逆にそこが力の抜けた感じがして、カブリオレ辺りはマニア臭が皆無でいいんじゃないか? なんて感じるのは、ヘソマガリだからだろうか?

ポルシェ・タイプ996(911)

964型ポルシェ911の後継としてタイプ996がデビューしたのは、1997年のこと。基本レイアウトが同じこと以外はほとんど全てに手が入った911史上初めてのフルモデルチェンジ版で、車体もエンジンも新設計という革新的なモデル。総合的なパフォーマンスも大きく向上している。

このモデルがなければ現在のタイプ991型911も生まれていない。それなのに評価がはっきりと低いのは、ひとえに“911らしくない”と酷評された涙目型のヘッドランプが違和感を与えたから。弟分のボクスターとパーツを共用していたのだ。これはこれで愛らしいと思うのだが……。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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