Letter From Mom 夫と子どもとクルマたち Vol.18 甥っ子の巣立ち

アヘッド Letter From Mom

幼い頃から、私が仕事で借りてきた試乗車を見ては、「乗ってみたい」と興味津々だった甥っ子。サーキットまで私のレースの応援に来たときは、爆音とスピードに大興奮していた甥っ子。発売と同時に手に入れたホンダ・CR-Zもお気に入りで、よく後席に乗せて走った。

そしてあるとき、無邪気にこう言った。「僕、18歳になったらすぐ免許とるから、それまでこのクルマ売らないでね」

10歳かそこらの子どもが言ったことである。まさかね、とは当然思っていた。でももしかしたらと、頭の片隅にずっとその言葉が引っかかっていたのも、実はいまだに乗り続けている理由のひとつだった。

それにしても、赤ちゃんから常に成長を見てきた子がクルマを運転する姿というのは、こんなにもヒヤヒヤするものだろうか。甥っ子には免許を取ってすぐに「いつでもクルマ貸してあげるよ」と伝えてあったのだが、さすがに少し慣れてからにしようと思っていたのだろう。一度もそのオファーはなく、どこかでホッとしている私もいた。

でもそれから半年ほど、甥っ子は家族のクルマであるミニバンを乗り回し、この夏には長野までほぼひとりで運転して行くまでになっていた。そう聞いてホオと思っていた矢先、ついに甥っ子からラインが届いた。

「今度の土曜日、クルマ借りていい?」

もちろん私は、コンビニで手続きできる1日任意保険に入ることを条件に、即OKの返事をした。あの言葉がいよいよ実現する時がくるのだなぁと思うと、なんだかソワソワして落ち着かない。

夫に話すと、「なんだ、彼女とドライブか? いいな若いモンは」と単なるゲスなオッサン化している。しかしそのオッサンまでソワソワしはじめ、甥っ子がクルマを取りにくる前の晩には、ガレージにこもって遅くまでなにやらガサゴソやっていた。翌朝見てみると、しばらくぶりにピッカピカに洗車してもらったCR-Zと、なぜか自分のことのように嬉しそうな夫の姿があった。

きっと私たちは、甥っ子の気持ちに重ね合わせるように、自分が初めて憧れのクルマを運転したときのワクワクや晴れやかな気持ちを呼び覚ましていたのだろう。

ピカピカの洗車は見た目をよくするだけでなく、事故を起こす確率も減るのだと夫は言う。まずクルマを大切にすることが、安全運転と楽しいドライブへの第一歩。果たして夫から甥っ子へ、そんなクルマ愛を伝えるバトンはつながっただろうか。

「ありがとね〜」と言い残し、あっさりと走り去った甥っ子とCR-Z。その後ろ姿を見送りながら、あの言葉が実現した嬉しさと、一つの区切りを迎えたような寂しさが混じり合った夏の終わりだった。

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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

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