ROLLING 50's VOL.118 世界は今、回顧主義か

アヘッド ROLLING 50's

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ディスカバリーチャンネルやナショジオTVなどを観ていると、アメリカやイギリスで製作された、四輪旧車レストア番組やクラシックカー専門番組などが異様に多い。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.188 2018年7月号]
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VOL.118 世界は今、回顧主義か

VOL.118 世界は今、回顧主義か

もちろん最新の自動車を扱った番組も多少はあるが、旧車レストアという超マイナーなジャンルが、それ程に需要があることが不思議でならない。

私自身はそういうジャンルがド直球なので堪らない限りであるが、家の奥様などは、一ミリも食指が動かないらしく、私がそういうチャンネルに噛り付く度に自分の部屋のテレビに移動してしまう。

私はそんな奥様の行動は正しいと思っている。古いクルマをバラバラにして、それを当時の新車状態に作り直していく、または最新部品で改造して現代的にアップデートしていく「趣味」など、マニアック過ぎて興味を持つ方がどうかしていると思う。

またそういう「趣味」は、新型を改造する以上に手間と費用がかかり、まともな神経の方が関わる方が間違っていると思う。その世界が大好きな私自身がそう断言してしまうというのに、世界的なレベルで多くの方が見るチャンネルが、そう言った番組を幾つも放送するというのはどういうことなのだろうか。

この手の有料テレビは冷徹だ。ハッキリとした需要がなければ伊達や酔狂で放送はしないシステムなので、実際に私のようにそのジャンルがド直球な方が世界中にゴロゴロしているということなのだろう。

だがド直球と言っても、このような私でも、実際に四輪の旧車をレストアした経験は無い。好きな気持ちだけは溢れているが、実際に取り組む時間と予算は無い。

この手の番組が世界的にブームだとは言っても、実際には、私のような「憧れ」だけの連中がゴロゴロしているだけかもしれない。番組側のその辺りのマーケティングが出来ている訳なのだろう。

実際に手を出すことが出来る出来ないに関わらず、この世界的な旧車ブームというのはどういったものなのか。自動運転や完全電動化などという、大きなイノベーションが目の前にまで来ていることが関係しているのかもしれない。

20世紀という「ガソリン消費祭」を過ごしてきた私たちとその上の世代が、もうあの頃のような風景画を見られなくなってしまう事実に、右往左往しているようでならない。

私は自分の旧車好きをあまり前面に出すことを良しとはしない。とくに二輪おいては、30年前のバイクを少し前に手放してしまったくらいである。

確かに70年代や80年代の乗り物は二輪四輪問わず独特の世界を持っている。それは急激な技術進化の「百花繚乱」だ。中には実験モデル的なものもあり、製品としては問題があるものまで存在していた時代である。しかしそれ故に、時として「破綻の美」ともいえる魅力がある。

それと同じ濃い味を、技術が完成されている今の乗り物に求めるのは土台無理があるのだ。少しでも変なものを売り出してしまえば裁判沙汰で大企業が傾くリスクがある時代である。挑戦的なモデルなどを大メーカーが売り出すわけが無い。

そういう現実を理解してはいるものの、それでも「あの時代」に対する、私たち世代の憧憬と言うのは揺るがない。夢と終わってしまうのは分かっていても、いつかまたああいう乗り物に乗ってみたという思いを強く持っている。

そんな連中が世界的にゴロゴロしているからこその、旧車レストア系番組が溢れかえっているのだ。その流れを上手く利用してか、数年前までは底値だった、少し前の日本製スポーツカー市場がバブルを引き起こしている。中には七万キロくらい走っている中古車両が、当時の新車値段と同じというようなケースも多々ある。

とくに90年代の日本車スポーツカーは、映画「ワイルドスピード」の影響もあり、海外からの引き合いが凄いらしい。値段と実際の価値が一致しているとは思えない状況だという。

実は私もつい最近、300万円くらいの日本製90年代スポーツカーを買いかけてしまった。イメージだけは当時のままで膨らんでしまっているのだが、実際に実車を見ると現実に引き戻されてしまった。

バイクの場合はその大きさから室内保管ということも珍しくないが、新車価格500万円程度の日本製スポーツカーが20年以上も屋内保管されていたケースは少ない。

外装は何とかなるとしてもね、やはり足回りや奥の部分の痛みは想像以上で、当時のフィーリングを取り戻し、さらにアップデートするまでには、最低300万円くらいはかかるという試算が出た。もっとこだわればそれ以上に予算は膨らんでいくであろう。

つまり何だかんだ言って結果的に700万円くらいすっ飛んでいくことになるかもしれない。するとその店には780万円で数年前のR35GTRが売っていた。走行距離も1万6000キロくらいで新車の匂いがする。私は突然に目が覚めてしまった。

ようするに、旧車レストアなんてものは、とんでもない暇な金持ち意外は、絶対にご法度な世界なのである。

やはり、帰ってディスカバリーチャンネルで我慢しよう。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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