Letter From Mom 夫と子どもとクルマたち Vol.16 切ない覚悟

アヘッド Letter From Mom

Vol.16 切ない覚悟

今回は物損のみだったが、もし他人を巻き込んでいたらと考えるとゾッとして、「オヤジに、もう免許返納するように言おうかな」と悩んでいるのだった。

高齢者のペダル踏み間違い事故は、メディアが大きく報道したこともあって、一気に増えたかのような印象を受けていたが、事故件数そのものは10年前に比べて減少傾向にある。

でも75 歳以上の高齢ドライバーが、ほかの年齢層より高い割合で事故を起こしているのは事実で、こうして身近でも起こると心がザワザワと波立った。うちの父は、大丈夫だろうかと。

身体を壊して何年も運転していなかった父だが、故郷に戻ってからだいぶ回復して、やっぱりクルマがないと不便だと言い出した。中古のコンパクトカーを買い、練習に付き合ってくれと呼ばれた私は、そこで危ないと思ったら運転はあきらめるようにと言うつもりだった。

広い空き地をグルグル走り、車庫入れを練習しているうちに、まぁこれなら大丈夫だろうと判断したのが4年前。もともと慎重な父は、幸いずっと無事故無違反。好きな釣りにもひとりで行けるし、時おりサラリーマン時代の友人たちが東京から遊びに来て、周辺の観光地を巡ったりしているのだと、楽しそうに話していた。

ところが久しぶりに電話してみると、「ちょうどクルマが修理から戻ってきたんだ」などと言う。どうしたの、故障でもしたのと聞けば、いやちょっと擦っただけなんだけどゴニョゴニョゴニョ。なんかおかしいと思って問い詰めると、ショッピングセンターの駐車場で他車と接触事故を起こしたと言うではないか。クルマの擦り傷程度で済んだのは運が良かっただけのこと。

もしそこに歩行者がいたらと思ったら、やっぱり私も震えがきた。父は70歳で、まだ免許返納しろと言うには早いと思っていた。いちばん便利な交通手段がクルマという田舎暮らしで、それを取り上げるのはあまりに酷だとも思っていた。

でも、事故を起こしてからでは手遅れになる。私も悩みに悩んで、男友達にその後どうしたのかと電話した。「それが、オレが知らないうちに自分で免許返納してきたんだよ。やっぱりオヤジも相当ショックだったんだな」。

そういえばうちの母も、「目が悪くなってきたから危ない」という自己判断で、私の知らないうちに免許返納していた。それを聞いた時は、その潔さへの尊敬と同時に、私よりなんでもできたはずの母が、もう運転はできないのだという寂しさが入り混じって動揺してしまった。

きっと私は、父にも同じ想いを抱く瞬間を少しでも遅らせたいのだ。自分の親の老いを受け容れるというのは、なんて切ないものだろう。ひとまず今は、覚悟を決めておきつつ、もっと頻繁に電話したり会いに行ったり、父の変化にいつも敏感でいようと思ったのだった。

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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

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