ROLLING 50's VOL.117 温故知新を卒業

VOL.117 温故知新を卒業

アヘッド ROLLING 50's

そのバイクは80年代バイクブームのラストを象徴するスタイルと性能を持ち、当時の世界最速クラスの有名なバイクである。色々と改造もして、とても大事にしていたのに、どうしてなんですかと、色々な方から言われた。だが理由はとても簡単なことである。

「飽きた」

一言で言ってしまうと、そんな雑な表現になってしまうが、そう言い切れるのは、同時にその気持ちがとても大事だということに気がついたからなのだ。

旧車バイクというものは、投機目的となる旧車四輪とは違い、金儲けにならない故に、逆にリアルな愛情を必要とする存在である。誰かの愛情を絶え間なく受けていないと急速に鉄屑と化していくのだ。

なのでオーナーが「飽きた」ということを感じたのなら、価値のある旧車バイクこそ、愛情を注いでくれるであろう次の「伴侶」の元にいち早く移動した方がバイクのためでもあるのだ。それを変に臆病になったり無駄な執着をしていると、そのバイクはあっという間に機能的な価値を落としていく。私自身、実際にそんなバイクたちの末路を何度も見てきた。

なので、今回の「離別」に関して、私自身は全く後悔をしていないし、英断であったと思っている。そして拘っていた旧車バイクに対しての「飽きた」と言う感情に対しても、無責任だとかいい加減だという負い目も全くない。

私の中でバイクと言うものはどこまで行っても「玩具」であり、それを追い求める気持ちが最優先なのである。バイクがあるから気持ちが向かうのではなく、気持ちが向かう先に何かしらのバイクあるのだ。

それが引っくり返ってしまうと、収集癖に陥るだけだ。消費とまでは言わないが、目的のために使うという気持ちを大事にしたい。また、とある尊敬する二輪ジャーナリストの方から、旧車に固執すると、結局は昔のままでいることになり、新しいことに置いていかれると言われたことも大きく影響している。

私は80年代バイクブームをリアルに経験したことを、バイクライフを語る上でとても誇りとしている。日本中の「男の子」がバイクに陶酔したようなあの時代は、もう二度と来ないであろう。それはお金や努力では得られない経験だ。

当然それは大きな財産でもあるのだが、どうしてもその時代の世界観にこだわり過ぎてしまうきらいがある。そこに縛られて外の世界に目を向けられないのは、同時に不幸なことでもあると気がついたのだ。

「スズキ・GSX-R1000R 2018年モデル」

気持ちの切り替えだけは誰より早い私は、その旧車バイクを手放すや、急転直下に最新最速のハイテクのモンスターバイクを手に入れた。このバイクはレーサーに保安部品を付けただけのようなもので、四輪で言うところの、ポルシェ911 GT3と似たような存在である。

この行動に周囲の仲間も腰を抜かしていたが、行動するならば、最上級の最右翼というのが私のモットーである。

30年前の世界最速クラスから、現在の世界最速クラスへの乗り換えである。その間にあるものとは何だろうと考えた。そしてそのマシンに少しだけ慣れ始めた今現在の気持ちであるが、やはり新しいものに触れるということは、新しい目を持つことになると知った。

その2台の間にある30年という時間。私はそこに、マシンの進化などという数字に表せるものよりも、30年に渡りバイクの進化に対して心血を注ぎ続けてきたであろう、メーカーの開発者たちの巨大なエネルギーを感じた。天才クラスの大勢のバイク馬鹿技術者たちが、30年間も努力し続けると、2台の間に、こういう変化が起きるのだと理解できた。

また私はその911 GT3的なバイクで、サーキットで何かを追い求めたり、漫画キリン的な世界を回顧するつもりはない。二輪におけるそのクラスの性能というのは、色々なものが補助してくれる四輪とは違い、アマチュアでは半分も使えれば良いというものである。

それが分かっているのに、どうしてそんなマシンを手に入れたかというと、ポルシェ911 GT3を持っているオーナーの何割が、実際に富士スピードウェイを本気で攻め込んでいるかということにつながる。300キロからのフルブレーキングで攻め込む必要などないのである。乗り物好きとして世界最高峰の性能に触れ続けているということが大事なのだ。

これは50歳になってやっと気がついたことなのだが、あの時代を知っているこの世代バイク乗りは、どうしても「回し切る」「使い切る」などということに拘りすぎる。そしてそれが可能でないならば、乗る資格がないというようなことを言う輩もいる。

もうその劇画的な世界観はやめようと、やっと気がついた。ポルシェ911 GT3に乗る資格がある者というのは、それを富士スピードウェイで使いこなせる者ではなく、それを余裕で買えるお小遣いを持っている者なのだ。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968

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