Letter From Mom 夫と子どもとクルマたち Vol.15 パパと娘とロードスター

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Vol.15 パパと娘とロードスター

それをついに卒業したのは3年ほど前のこと。生まれてくる娘のため、いやもしかしたら自分が父親になる覚悟を決めるためだったのだろうか。案外すっぱりとロードスターを手放して、3列シートのミニバンに乗り換えた。

そのときに夫と交わした言葉は、今も心に残っている。「次に2人でオープンカーを楽しめるようになるのは、娘がひとり立ちしてからかもね」。そう、確かに話したのだ。まだしばらくは、娘を置いてまでオープンカーで出かける気にはなれないよねと。また「いつか」乗ろうねと。

あの会話はなんだったのか。1ヶ月ほど前に、夫があまりにも唐突に初代ロードスターを買うなどと言い出し、私は唖然としてしまった。なぜだか無性に欲しくなって、何軒かの中古車ショップを物色してきたというのである。怒り爆発寸前の私に、夫は言った。「ほら、アレを売ればほとんど追い金なしで買えるからさ」。

アレ、というのは実家に放置しっぱなしのスカイラインのことである。2年前に、夫がドリフトの練習をするためという名目で買ったのだが、稼働したのは数えるほど。そのくせ税金だのメンテ代だのはご立派で、私はずっと苦々しく思っていたのだった。アレを手放せば、これからますますお金がかかる娘のための備えができる。

なのに、よりによって、古いわ2人乗りだわエアコンはないわ、メンテ代だってかさみそうな初代ロードスターときた。しかし私の反対を予想していた夫は、カウンターパンチを繰り出した。私の留守中に娘を中古車ショップに同行し、「こんなに喜んでたよ」なんて写真まで見せてくる。

そのパンチは、かなり効いた。ここのところ、娘はだいぶ早い「パパ嫌い期」を迎えていて、夫が話しかけても無視したり、抱っこを拒否したり、あからさまに冷たく当たる。夫はそのたびに傷ついてるし、私もどうしたらいいのか悩んでいたのだった。夫と娘の仲睦まじい写真に急所を突かれ、私はあえなく戦意喪失。完全に夫の作戦勝ちである。

そして納車の日。初代ロードスターの助手席には、初めてのオープンカーに興奮気味の娘が乗っていた。走り出してすぐに「わ〜すごいね、さすがパパ。って言ったんだよ」と夫も鼻高々だ。数日後にはお台場へドライブデートに出かけるほど、夫と娘はすっかり盛り上がっている。心なしか、娘が夫を見る目も優しくなったような……。

それにしてもまさか、置いていかれるのが私だったとは。思い描いていた「いつか」と違うのは、3年前の私に「母として2人を見送る立場になる」という発想がなかったからだろう。今なら、それも悪くないなと思える。ロードスターが父娘の架け橋になってくれるなんて、とびきり嬉しい誤算である。

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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

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