EVオヤジの未来予想図 VOL.9 CO2を計算する

アヘッド EVオヤジの未来予想図

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大型の貨物船の電動化の計画があった。あの臭い重油の燃えた匂いもなく、エントツから吐き出される真っ黒な排煙もなく、しかも静かで振動も少ないから乗組員の健康にも良く、きっと疲労も少ないに違いない。

text:舘内 端 [aheadアーカイブス vol.186 2018年5月号]
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VOL.9 CO2を計算する

VOL.9 CO2を計算する

日本は輸出用の自動車やら家電やらを大量に積むたくさんの大型貨物船を持っている。荷物のほとんどは船底に積むわけではない。すると、荷物を積むほどにタンカーの重心は高くなり、少し横波を受けただけで横転する可能性が高まる。

そこで、大量の海水を船底に積む。もちろん、タンカーは重くなり、燃費は悪化し、経費がかさむ。そこで電気貨物船は、海水の代わりに電池を積む。重量は相殺だ。

さて、大型の貨物船はどのくらいの重油を使うのだろうか。たとえば3万2千馬力のエンジンを積む30万トンのタンカーで、平均的な航行速度(時速30~40キロメートル)で、1日約100トンの重油を使う。

この重油で航行距離はおよそ720~960㎞。燃費は実にリッター6~8メートルだ。6~8㎞/ℓではないぞ。1リットルの重油でたった6~8メートルしか進めない。自動車業界にいるとピンとこないが、そうなのだ。

さらに追い込むと、重油のリッター当たりのCO2排出量は2.71㎏。このタンカーは1日の航行で271トンものCO2を排出する。平均燃費が15㎞/ℓという乗用車で、1日1000㎞走ると67リットルのガソリンを使う。ガソリンが1リットル燃えると2.32㎏のCO2を排出するから、この乗用車は1日で155㎏のCO2を排出する。上記の貨物船の271トンは乗用車1750台に相当する。

では、日本の船舶は年間どのくらいCO2を排出しているのだろうか。旅客で46万トン。貨物で860万トン。合計およそ906万トンである。とんでもない量のCO2を排出するわけだが、ひるがえって日本の自動車はどうか。乗用車と貨物合せて年間およそ2億400万トンだ。ちなみに自家用のCO2排出量は営業用乗用車、バス、貨物車を合わせた排出量のおよそ1.5倍である。

ウーン。自動車は船舶の22.5倍のCO2を排出するということなのだ。

自動車をすべて電気自動車にすれば、見かけ上はCO2排出量はゼロである。日本の運輸機関のCO2排出量は全体の18%ほどだから、これがゼロになれば相当の削減である。そのためには、火力発電所ではなく再生可能エネルギーでの充電が必要だ。

では、日本の自動車がトラック、バスも含めて全部EVになったとして、果たして現在の日本の再生可能エネルギーで充電可能だろうか。それとも都市伝説のように停電が起こるのだろうか。

おおざっぱな計算ではあるが、国内の自動車がすべて電気自動車になったとして、そのときに年間の充電電気量は、日本の全発電量の16.2%である。一方、発電可能電力量は消費した電力量の2.25倍である。つまり、いつもの発電量をほんの少し多くするだけで全EVの充電が可能だ。停電は起こらない。

ただし、再生可能エネルギーの占める割合は12.6%なので、残念ながら現時点ではすべてEVになったとして再生可能エネルギーでは充電できない。ところが、世界の再生可能エネルギーによる発電量は22.8%だから、世界の自動車が全部EVになったとしても再生可能エネルギーで充電できる可能性がある。

かなりいいところに世界は来ているようだ。

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text:舘内 端/Tadashi Tateuchi
1947年生まれ。自動車評論家、日本EVクラブ代表。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。’94年には日本EVクラブを設立、日本における電気自動車の第一人者として知られている。現在は、テクノロジーと文化の両面からクルマを論じることができる評論家として活躍。
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