カワサキのWという象徴 ーW800 Final Edition

カワサキのWという象徴 W800 Final Edition

アヘッド W800 Final Edition

そしてもう1台、忘れてはならないのがカワサキビッグバイクの原点とも呼べる650-W1、通称ダブワンだ。'66年に発売されたそれは'74年まで生産され、最終的にW3にまで進化したものの、900スーパー4(Z1)の世界的なヒットを見届けるようにその役割を一度終えたのである。

〝W〟の名が再び表舞台に戻ってきたのが'98年のことだった。W650と名づけられたその車名にオリジナルへのリスペクトがあったのは明らかだが、当時のカワサキはことさらそれを強調しなかった。単なる懐古趣味ではなく、あくまでも未来を見据えて開発したブランニューモデルだという意識があったからだ。

事実、そのプレス発表会の場で開発スタッフはこう語っている。「少なくとも10年間は継続させます。生産台数と開発費とのバランスを考えると、それくらいのスパンで取り組まなくてはいけないのですが、その価値があるバイクだと考えています」

それを如実に表していたのがコスト度外視にも思えるエンジン設計だ。「最新の技術で美しさと機能を追求する」というコンセプトを掲げ、まずはバルブ方式をオリジナルのOHVではなく、SOHCにすることを決定。それだけならどうということはないが、バルブを上下動させるカムシャフトの駆動に一般的なチェーンやベルトではなく、わざわざベベルギア(傘状の歯車)を用いたのである。

アヘッド W800 Final Edition

それがなにをもたらしたかは、エンジン右サイドを見れば一目瞭然だ。シリンダーにはベベルギアとそれを回すためのシャフトが配され、バフ掛けが施されたカバーがその存在を強調。そこには他のエンジンとは一線を画す美しさと力強さが備えられていた。

また、造詣へのこだわりはクランクや冷却フィンのみならず、オイルパンにまで及ぶなど、空冷バーチカルツインというノスタルジックな雰囲気とは裏腹に凝りに凝った加工技術が盛り込まれたのである。

その代償として、まったく新しい設備投資を必要とし、それに付随して高い工作精度を要求されるパーツが多数を占めたことが大量生産を難しくした。既述の開発スタッフの言葉はそれゆえだが、W650には「それでも作る」というカワサキの意地と決意が込められていたのである。

当時は不況の真っただ中にあったにもかかわらず、カワサキは「10年で採算が取れればよし」というその計画にゴーサインを出し、実際にやり切ったことの意味は大きい。'08年に一度生産を終了したのは、単に当時の排ガス規制をそのままクリアすることが難しかったからに過ぎず、2年ほどの改良期間を経て'11年に復活。それがW800である。

アヘッド W800 Final Edition

そんな新生Wの魅力もまたエンジンだ。使う回転域によってフィーリングが異なり、低回転域にはストレスなくストップ&ゴーが繰り返せるスムーズさが与えられ、多用する中回転域では力強い鼓動感を披露。そして高回転域になるとそれが徐々に収束し、再びスムーズさを取り戻す……と表情は豊かそのもの。

意のままにトルクを引き出し、穏やかなハンドリングに身を委ねて流せるW800には、バイクの醍醐味を語る上で欠かせない一体感や爽快感のほとんどすべてが備わっていると言っていい。

ところが年々厳しさを増す排ガス規制を前にして、再び生産終了が告げられたのが2年前のことだ。3度目の復活があるかどうかは分からないが、今や〝W〟もまたカワサキにとってなくてはならないブランドだ。それが安易に忘れられることだけはないはずだ。

W800 Final Edition

●W800 Final Edition
車両本体価格:¥925,560(税込)
総排気量:773cc エンジン:空冷4ストローク
並列2気筒 SOHC4バルブ
最高出力:35kW(48ps)/6,500rpm
最大トルク:62Nm(6.3kgm)/2,500rpm

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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。

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