モタスポ見聞録 Vol.11 タフさを取り戻すダカール

アヘッド ダカール

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5年ぶりにペルーでのステージが復活。ルートの概略が発表された段階で、各チームとも今年は特に前半と後半で難易度の高いステージが連続すると予想した。が、実際の難易度は予想を大きく超えた。

text:春木久史 photo:日野自動車 [aheadアーカイブス vol.183 2018年2月号]
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Vol.11 タフさを取り戻すダカール

Vol.11 タフさを取り戻すダカール

序盤からループ(スタートした同じ場所にゴールするルートのこと)の設定が多用されたのは、ペルーでの「おいしい(険しい)ところ」をフルに活用するためだ。

3日目、ピスコ〜サン・ファン・デ・マルコナのSSで、トラック部門のレジェンド、菅原義正(HINOチームスガワラ)がスタックしてリタイアした。砂丘の大きさ、また砂の深さは、2輪のトップライダーたちに苦戦を強いるほどで、排気量の小さいトラック、市販車部門の4輪には、特に厳しいものになった。

翌日のステージ4、サン・ファン・デ・マルコナのループで、チームランドクルーザーの1号車、クリスチャン・ラヴィエルが冷却系のトラブルで戦線離脱した。

ここしばらく、とにかくハイスピードなSSが多く、2輪部門では、毎日のようにトップライダーがクラッシュして負傷、それによってラリーの流れが決まってしまう、そんなデスマッチのような展開が続いていたが、今年は違った。タフなルートが、人間とマシンをじわじわと苦しめ、同時に、ナビゲーションの成否が明暗を分け、トップ争いはどのクラスでも接戦。スコアボードから眼を離せない日が続いた。
ラリーディレクター、マルク・コマの手腕によるところが大きい、と、菅原照仁(HINOチームスガワラ2号車ドライバー)は言う。「彼が目指しているのは原点回帰のラリーでしょう。スピードだけでは勝てない。タフで、ナビゲーション能力を強く要求するレースです。それが就任3年目になって、はっきりと見えるようになってきた。

実は、去年のラリーもそうだったんですが、悪天候でキャンセルされた競技区間が多かったために、それが見えてなかったんですね」 コマは2輪のダカール王者出身。ハイスピード過ぎるラリーの危険を身体で理解している彼にとって、ラリーのスピードを抑制することは、この仕事を引き受けた大きな理由でもある。

前回の2017年からはウェイポイント(GPSデータ上のチェックポイント)のルールを厳しくした。より正確なナビゲーションを要求し、スピード以外の要素を強く求めるためだ。
「それに加えて、ルート作りそのものも、かなり手間と時間をかけたな、という印象でしたね。ここ数年は、普通の道をそのまま使ったハイスピードなところが多かったんですが、同じエリアでも、その道を外したり、縫うようにしたりと工夫していたようです。難しいといっても、誰も走破できないというようなものではなく、アベレージをあげようとするとキツくなる。持久力が試されるタフさでした(菅原照仁)」

舞台を南米に移してから10年、パリダカールラリーが始まってからは40周年を迎える大会。常に「現代の冒険とは何か」を示し、また自ら模索してきたラリーは、今年またひとつの大きな転機を迎えたのかもしれない。おそらくは、タフなラリーへの回帰だ。全部門をあわせての完走率は54.9%で昨年の69.8%と比較して、その厳しさは明らかだ。
●HINOチームスガワラは、菅原照仁/高橋貢の2号車が、10リットル未満クラス9連覇、そして総合6位という快挙を達成。チームランドクルーザーの三浦昂/ローラン・リシトロイシターがクラス優勝を飾った。

三浦は初優勝、チームとしては市販車部門5連覇である。もう一人のヒーローは、風間晋之介(ヤマハ)だ。リタイア寸前のマシントラブルに見舞われながらも総合44位。初出場から2年連続での完走。81番というゼッケンは、1982年に、父、風間深志が、日本人ライダーとして初めてパリ・ダカールラリーに出場した時の数字と同じ。これもひとつの「回帰」を象徴するものであるかもしれない。

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text:春木久史/Hisashi Haruki
1966年生 北海道在住 ビッグタンクマガジン編集長、frmシニアエディター。自らラリー、エンデューロに出場しながら各誌にレポートを寄稿。戦績: 2006年ISDEニュージーランド大会ブロンズメダル、2001年ラリーモンゴリア総合3位、2006年北京〜ウランバートルラリー市販車部門優勝、2007年ファラオラリー完走ほか。現在の愛車はKTM690ENDURO-R、Husqvarna TE449、KTM250SXF
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