埋もれちゃいけない名車たち vol.67 魔性の色気「フェラーリ・456GT」

アヘッド フェラーリ・456GT

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〝色気〟もしくは〝官能〟というキーワードでクルマを眺めるとき、誰もがパッと思い浮かべるのは、やはりイタリアンだろう。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.183 2018年2月号]
Chapter
vol.67 魔性の色気「フェラーリ・456GT」

vol.67 魔性の色気「フェラーリ・456GT」

ブリティッシュならではのダンディズムから仄かに香る抑制の効いた色気、アムールの国フランスならではのどこか男と女の湿り気を放ってるみたいなセンシュアルな装い。

それらも強力ではあるのだけど、どちらも感覚的に合わない人にはそう大きくは作用しないところがあるし、気づかない人は全く気づかない。対するイタリアンは少しも奥ゆかしくないし理屈に隠したりもしない。美しいモノが好き、艶やかなモノが好き、気持ちのいいモノが好き──。

そうした欲望に対して素晴らしく忠実であり、それをストレートに伝えてくる。そしてその中のトップ・オブ・トップは?と訊ねられたら、ほとんどの人がフェラーリの名を挙げるに違いない。

以前、フェラーリの中にも表舞台を延々と駆け抜けていくモデルもあれば、その影に隠れて忘れられかねないようなモデルもあるということをお伝えしたことがある。けれど、そうしたいわゆる〝不人気モデル〟の中にも、実は強烈な色香を漂わせ、官能性だって相当に高いクルマがある。1992年から11年間にわたって作られた456GTのシリーズだ。

364GTB/4、つまりは名車〝デイトナ〟を連想させる、綺麗なロングノーズのシルエット。なだらかなルーフのライン、絶妙な張りのある面構成、フェラーリ最後のリトラクタブルヘッドランプ。ピニンファリーナが手掛けたスタイリングは美しく、とても魅力的だった。

当初はコノリー、途中からはポルトローナフラウの分厚い革が張り巡らされたインテリアは、いうまでもなく超ゴージャスな雰囲気で、+2のはずの後席ですら居心地よく華やかな雰囲気。

そして何よりもフロントに積む、5.5リッター自然吸気のV型12気筒エンジンだ。どこからアクセルを踏んでもグッと加速していく猛烈なパワーと寛容なトルクもさることながら、そのサウンド! 綺麗に澄み切った、心に直接触れてくるかのような、美しいとしか表現できないそのサウンド! それを耳にするだけで、自分が溶け出してどこかへ流れていってしまいそうな気分にさせられる。

あのサウンドに包まれているときの〝堕ちた〟感というか陶酔感というか、それは類稀な官能の世界そのものだ。かの時代のフェラーリV12とは、そうした魔性をプンプン放っていたのである。

なのに歴史の裏側に隠れてしまっているのは、ミドシップより存在感の穏やかなグランツーリスモだから。そして今のモデルと違い構造的に不出来な部分があって、維持が少し大変だから。持ち崩せるだけの身上が自分にあるなら、今からでも口説きにかかりたいほどなのに……。

フェラーリ・456GT

456GTとそのマイナーチェンジ版であるる456Mは、1992年から2003年にかけて生産された、当時のフェラーリのフラッグシップGTだ。絶妙な面構成で形成されるスタイリングはフェラーリのフラッグシップGTのデザインの流れを変えた新しいものだが、構造的には伝統的なパイプフレームとアルミボディの組み合わせ。

2+2のクーペながら、大人4人がそれなりにちゃんと乗れる室内空間を持っていた。5,473ccのV12DOHCユニットは442psに56.0kgm。0-100km/h加速は5.2秒、最高速度は300km/hと発表されていた。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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