Letter From Mom 夫と子どもとクルマたち Vol.9 夫婦円満のワザ

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Vol.9 夫婦円満のワザ

2年前、ミニバンを買って初めての冬を迎えるときもそうだった。夫の指が止まり、スマホから顔をあげて「あのさぁ」。ほら来た、スタッドレスタイヤを買おうかと思ってるんだと言うんでしょ。でも夫があちこちのショップサイトで見ていたのは、正確には「タイヤ」ではない。「タイヤが着いているホイール」を物色していたはずである。

春先に買い換えたミニバンは、安全装備と長距離ドライブの快適性を優先した私が夫の反対を押し切ったので、夫は外観も内装も気に入っておらず、シートだけは変えさせてくれと社外品のシートカバーを早々にオーダーした。

その出来栄えには満足していたが、外観はずっとガマンを押し殺していたようで、ケンカするとよく不満がポロッと出た。それが最近はめっきり文句を言わなくなり、あやしいなと思っていたのだ。きっと、お眼鏡に叶うホイールを見つけたのだろう。

そして、「スタッドレスタイヤを買う」という名目でホイールまで手に入れ、どさくさにまぎれて外観を夫好みに近づけようという作戦に違いない。

これは妻子あるクルマ好きの常套手段なのか、11月に2人目の子どもが生まれたばかりの知人も、「ミニバンのインチアップと車高ダウンを目論んでいるんだけど、どうだろう」なんてことを夫に相談してきたもよう。

そういえばこないだ会った編集者も、「足まわりを変えたいんですけど、嫁にバレたらまずいんで乗り心地が極端に悪くならないかどうか不安です」などと言っていた。みんな、スタッドレスタイヤの準備にかこつけて、なにをイジろう、どこを変えようと、愛車改造計画に浮き足立っているのが丸見えである。

ついに夫は「これか、これにしようと思ってるんだけど」とタイヤ着きホイールの写真を2枚見せ、「どっちがいい?」と聞いてきた。チラリと見えた値段に目が飛び出そうになったが、そこは見えなかったフリをしておいた。

そして「ホイールまで買う必要ある? スタッドレスだけ買って今のホイールに組み替えれば済むでしょ」という、可愛げのない言葉も飲み込んだ。その代わりに、「どうせ買うなら高い方でね」と言うと夫は唖然としていた。きっと、私にチクリと言われたら、安い方でも妥協する覚悟をしていたのだろう。

けれど私はこの半年で、夫が気に入っていないクルマが我が家にあるということが、どれほどストレスになってしまうのかを思い知った。それがホイールひとつでお気に入りになるなら、楽しい気持ちで乗ってくれるようになるなら、私にとっても娘にとってもそれは幸せなことなのだ。

数日後、夫は「高い方にしたよ」と満足気にホイールを引き取ってきた。出費は痛いが、これでこの冬の私たち夫婦は円満に過ごせるはずである。

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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

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