Rolling 40's VOL.111 水物

アヘッド ROLLING 40's

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最近、今となっては旧車の部類に入るトヨタ・レビン・AE86の改造車に触れる機会があった。久しぶりに見たノスタルジー全開の車種であるが、一番驚いたのはその車体の大きさである。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.181 2017年12月号]
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VOL.111 水物

VOL.111 水物

実は21歳のときから数年、私もこのマシンに乗っていたのでよく分かっているつもりであったが、久しぶりに触れたその車体は異様に小さく感じられた。少しオーバーかもしれないが、今となっては軽自動車と同等のボリューム感である。

記憶の中では1.6ℓにしてはシッカリした車体であったが、実際にはこんなに小さかったのだと、その記憶と感覚のズレに戸惑うほどである。

AE86の実際のサイズを調べてみると、全長は4.18‌m、幅が1.62‌m、という大きさである。後継車とも言われる同社FT86は全長4.16‌m、幅1.76‌mなので長さは同じなのだが、幅が14センチ以上も広がったと言うことだ。

参考までに同時代のセリカXXは全長4.6‌m、幅1.69‌mである。あの時代の中では大きなスポーツカーとしてのイメージがあったが、実際の数値はそんなものなのである。

最先端のR35などは全長4.65‌m、幅1.89‌mなので現代の大型スポーツカーというのは、長さは大きく変わらずに、幅がどんどん広がっているということが分かる。

またホイールベースの変化がさらに顕著で、全長はほとんど同じだというのに、ホイールベースはセリカXXの2.6‌mに対して、R35は2.78‌mという具合に大きく広がっている。

R35はサーキット最速から最高速300キロオーバーのリアル性能なので、その数値と言うのが、現代のテクノロジーで導き出された「黄金比」ということなのかもしれない。

またボディの大型化は、衝突時に乗員を守るスペースを作るクラッシャブルゾーンの概念が確立されたことも大きいだろう。

進化と共に失われてしまったコンパクトなデザイン。小さいと言われる現行のマツダ・ロードスターなども、全長は3.9‌mと短いもののやはり幅は1.73‌mと意外にも大きい。

2人乗りのコンパクトなスポーツカーがその数値なのである。私たち世代のノスタルジーを刺激するコンパクトさというのは、今の時代には望めないということなのだろう。だがその変化は、安全基準やタイヤやブレーキの進化など、色々な要素が関わって算出された数値である。実際に事故にあったときに、そのコンパクトさがどれだけリスクとなって返ってくるかは想像に容易い。

私は時代における進化というものを否定するタイプではない。デザインの良し悪しはあるが、内容的には、やはり新しいものが一番良いはずだ。前作に比べて新型が失敗作だと言われることも少なからずあるが、それはキャラクターと時代のマッチングがうまくなかっただけで、前作より劣るものを何百億円の開発費を使って行う訳がないと思っている。

日本では黒歴史と言われるほどに売れなかったV35スカイラインなどが良い例で、スカG伝説を引きずる日本国内では、そのデザインが過去のイメージと相容れなかったせいなのか、超が付くほどに大不評。

だが不思議なもので、北米では2003年のモータートレンドカーオブザイヤーや、有名自動車雑誌が選ぶベストカーにも選ばれるほどの大人気であった。

この話を聞いたときに、私自身も今ひとつ反応しなかったあのデザインとキャラクターのクルマが、どうしてアメリカでは大人気になったのだろうと不思議に思ったものだ。

その手のことに詳しい方に聞いたところ、アメリカの自動車雑誌での評価がすこぶる良かったからだという。とくに同時代での競合車であるBMWの3シリーズと比べて、ハンドリング、エンジンレスポンス、電子的な快適装備が圧倒的に優れていると評価されたらしい。またあのデザインもアメリカ人にはツボであったという。

皮肉にも日本においては、同時代のBMW3シリーズが大人気であったのは誰もが知っているところだ。これは当時の日本がバブルの名残で、BMWのエンブレムが付いているならなんでも大歓迎であったということは否定できないだろう。

つまりクルマの評価というのは、ある部分においてアイドルの人気と同じくらいに「水物」なのだろう。とくに日本人の場合、リアルな性能の計測ではなく、「洋物」と「老舗」などのブランドを大歓迎してしまう性質があるので、性能の追及以上に、ヒットに結びつくためにはその琴線に上手く触れる必要があるのだ。

もし好きなサイズで、好きなデザインと性能を選ばせてくれるというのなら、どんなクルマを作りたいかと自問してみた。スポーツカーに限定するなら、現実的な方向で言うと、現行86サイズに直6の3.2ℓエンジンを入れた、和風M3のようなマシンだろう。

しかし、今の時代に、それがどれだけ売れるかは別問題である。そういうパッケージが受ける時代でもないような気もする。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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