目指せ!カントリージェントルマン VOL.4 フルフラットに理想はあるのか?

アヘッド キャンプ

※この記事には広告が含まれます

とある自動車メーカーの広告で、ミニバンの車内泊がクローズアップされていた。フルフラットになる室内を映し出し、車内泊を推奨するような内容になっている。だが、この広告を見て憧れを抱いた昭和生まれの人は、少し冷静になって考える必要があるのではないか。

text/photo:吉田拓生 [aheadアーカイブス vol.180 2017年11月号]
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VOL.4 フルフラットに理想はあるのか?

VOL.4 フルフラットに理想はあるのか?

元来、車内泊は渋滞にはまってしまいサービスエリアの中で夜を明かすことになってしまったとか、若くて冒険心に満ち溢れ、しかしサイフの軽い若者によるやむを得ない行為としてあるように思う。

しかたなくやってみると、その晩は寝苦しくて何度も目が覚めたり、蚊が迷い込んで来たりして苦労させられるが、中途半端な宿に泊まるよりもよっぽど新鮮な旅の記憶として残るのである。
けれどハナっから車内泊を目的とするのはどうだろう? おおよそ理想的なカーライフのイメージを振りまいてお客の気を引く、そんな自動車メーカーの広告の使命に則っているとは思えない。

もしそのクルマの最大のトピックが“車内泊可”なのだとすれば、それはクルマ作りのコンセプトにまで戻って考え直すべき悲しい現実だ。もうちょっと気の利いた作り込みをして、キャンピングカーとして売ったほうが筋が通るのではないか。
かく言う僕は車内泊が嫌いなわけではない。19歳で学生生活を勝手に卒業した後しばらく、当時乗っていたアメ車のステーションワゴンに布団一式を積み込んでひとりで四国中を放浪し、特に蒲生田岬の先端の辺境ぶりが気に入って泊を重ねた。サイフは当然のように空に近かったし、親に合わせる顔もなかった。それはつまり逃避としての旅だった。

この業界に飛び込んで数年が経った頃、青春時代の旅の記憶をなぞるべく、再び四国を車内泊で巡った。今度はクラシック・ミニで。車内が狭いだけでなくフルフラットにもならない。どうやって1週間ほど車内泊したのか思い出せないのだが、あれもまだ20代半ばの独り身であり、今となってはいい記憶である。

我が国でキャンプがブームとなって久しいが、それには訳がある。平日は会社に行ったきりで、休日は居間でゴロゴロしているお父さんが、刃物や火を巧みに操ってカッコイイ姿を見せられるからである。しかもグランピングなどと呼ばれる昨今流行りの豪華なキャンプの道具をひと通り揃えても、オトナの趣味に支払う対価としてはたかが知れている。

自宅や宿泊施設に泊まるでもなく、非日常的な場所で夜を明かすという事実だけ見ればそれは車内泊にも似ている。異なるのは、それがやむを得ない現実ではなく、平凡な日常を抜け出した先に広がる夢の時間であるという点だろう。

もしあなたが子を持つ父親であるならば、寝坊して渋滞にはまって車内泊……というだらしない現実に家族を巻き込むのではなく、真夜中に喧騒を抜け出し、然るべきフィールドにせっせと城を築き、大いに父権を振りかざすべきである。
それを実現するためのクルマのスペックやボディ形状は何でもいい。けれど愛車はオーナーの人生観を如実に反映するものであることを忘れてはならない。ともあれ僕は「車内がフルフラットになるミニバン」に理想的な人生を思い浮かべることができない。

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text:吉田拓生/Takuo Yoshida
1972年生まれのモータリングライター。自動車専門誌に12年在籍した後、2005年にフリーライターとして独立。新旧あらゆるスポーツカーのドライビングインプレッションを得意としている。東京から一時間ほどの海に近い森の中に住み、畑を耕し薪で暖をとるカントリーライフの実践者でもある。
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