現代カーデザイン考

イギリスの恒久的な価値

アヘッド 現代カーデザイン考

text:吉田拓生


名を上げたデザイナーが世界中のメーカーを渡り歩き、一方では厳しさを増す安全規則がカーデザインの逐一にまで影響を及ぼしている。もうアメリカ車だからといって闇雲にスケールを拡大することは許されないし、時代が求める全方位的な性能を満たすには、例えMINIでもミニマムではいられない。だからこそ昨今の自動車はエンブレムを付け替えれば、どのブランドの商品にでもなり代われる、そんな臭いがするのだろう。
 
では自動車系の雑誌をついつい手に取ってしまうような好き者の好奇心は、どこへ向けて発散されるべきか。スピードの時代はとっくに崩壊している。流行に影響された表面的なデザインには目を背けるべきだろう。しかし歴史的な背景を軽んじることはできない。模倣に頼らないのであれば、自らが歴史と伝統の持ち主でなければならない。つまり間違いがない選択肢は英国車である。
 
自動車の世界で、機能に先立ってデザインが論じられることが多いのは、それが売り上げに直結する事柄だからである。だからこそ、昨今のデザイナーは流行を捉えることから作業をスタートさせるし、メーカーもマイナーチェンジなどと言っては3年半ごとのお化粧直しに余念がない。もちろん英国車だってお化粧直しはするが、ベースとなるデザインに込められた寿命が決定的に異なる。英国車のデザインはいつの時代も国土や建築、社会構造や国民生活の反映として、ゆったりとしたペースで時を刻んでいる。だからこそ資本のほとんどを他国の自動車メーカーに握られてしまった現代においても、英国車のテイストはぶれることなく個性的なのである。
 
そんな英国車の最新のトピックは伝統に根ざしながらも奇抜だ。それは温故知新などといった生易しいものではなく、純粋な先祖返りのようにも思える。
 
ジャガーは'60年代のGTレーシングカーであるEタイプ・ライトウェイトや、ル・マン・ウィナーであるDタイプのロードゴーイングモデル(XKSS)といった、歴史的なスポーツモデルをごく少数ではあるがリプロダクトし販売している。ランドローバーはつい先ごろ、ブランドの源流に直結していたディフェンダーの生産を終了し、そのラストモデルに草創期の意匠を盛り込んできた。また同社は1940年代に生産されたシリーズ1と呼ばれるオールドモデルを徹底的にレストレーションし「リボーン(再生)」と題して25台を販売するという前例のないプロジェクトすら遂行している。レプリカの製作やオールドモデルのレストアは、ショップレベルの仕事であり、元来自動車メーカーが首を突っ込む分野ではなかった。なぜなら、過去の産物に光を当て、それを販売するのは、消費を重ねることで進化し成立する資本主義の根幹を揺るがす行為だからである。
 
一方、ロータスからケータハムに生産が移管されたライトウェイトスポーツカーの始祖である「セブン」は来年60周年を迎える。そこでケータハムは、60年代初頭のイメージを忠実に盛り込んだセブンの限定生産を発表したのだが、注文が殺到したため60台限定ではなく期間限定へと主旨変えを迫られた。

「進歩なきは退化と見なす」という傾向は自動車に限らない。だがしかし、英国車シーンは退化しているのだろうか。少しもそうは見えない。彼らは自らの伝統を少しずつ切り売りしてお小遣い稼ぎがしたいのではない。むしろ、勢いがある今だからこそ、自らの過去を再確認し名車を称え、そうすることで未来の英国車のスタイリングに説得力を与えているのである。英国車を形容する時によく用いられるエバーグリーンという言葉はけだし名言である。

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ケータハム・セブンスプリント
来年のロータス・セブン生誕60周年を記念して発売される限定モデル。セブン160と同様にスズキの軽自動車用エンジンを採用。往年のクラムシェルタイプのフェンダーやモトリタのウッドリムステアリング、クロームメッキベゼルのスミスメーターなど、60年代を彷彿させるアイテムを満載。¥4,698,000(税込)

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ジャガーFタイプ プロジェクト7
現行モデルのジャガーFタイプをベースにスーパーチャージャーを追加して575psを発揮する。内外装のカラーリングは50年代にル・マン24hで3連勝したレーシングカーのDタイプをモチーフにしている。日本限定3台¥21,322,000。

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ジャガーXKSS
1957年にジャガーはレース専用モデルであるDタイプの公道バージョンとして「XKSS」を25台限定で販売する予定だったが、工場火災により16台で生産を断念。しかし今年の3月、約60年ぶりに残り9台を再生産することを発表した。

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ジャガーEタイプライトウエイト
1963年に18台生産される予定だったが、実際には12台しか制作されておらず、残りの6台を2014年から製造販売した。1964年の最後に出荷された個体をスキャンしてオリジナルを忠実に再現、価格は約1億7400万円と高価だが即完売。

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ランドローバー シリーズ1 リボーン
今年4月、ランドローバーの原点とも言える1948年に発売されたシリーズ1を完全にレストアして販売するプロジェクトが発表された。価格は6万〜8万ポンドで25台限定。2種あるホイールベースと当時のカラーリングを5色から選択可能。


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text:吉田拓生/Takuo Yoshida
1972年生まれのモータリングライター。自動車専門誌に12年在籍した後、2005年にフリーライターとして独立。新旧あらゆるスポーツカーのドライビングインプレッションを得意としている。東京から一時間ほどの海に近い森の中に住み、畑を耕し薪で暖をとるカントリーライフの実践者でもある。

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