現代カーデザイン考

現代カーデザイン考

アヘッド 現代カーデザイン考

アストンマーティンの黄金比

アヘッド 現代カーデザイン考

text:嶋田智之

 
スーパースポーツカーはドリームカーでもあるわけだから、スタイリングデザインからしてギュッと惹き付けてくれるだけのフォースを持ってないと、嘘だと思う。
 
その分野は基本的にイタリアンの独壇場で、いずれのブランドも自らの個性を極めて華やかなカタチで主張し、競い合うようにしてファン達を絡め取ってきた。けれどここ数年、その傍らで別の方角を眺めながら、英国生まれのアストンマーティンがいる。アストンも充分以上に美しくはあるけれど、抑制が効いていて、ワル目立ちはしないし競ったりもしない。チルディッシュなところが微塵もなく、極めてジェントルな優美さで、逆にそこに心を強く惹かれるのだ。

アヘッド 現代カーデザイン考

アストンマーティンのチーフクリエイティブオフィサーでありデザインディレクターでもあるマレク・ライヒマンは、その秘密について少しだけ明かしてくれた。アストンとレッドブル・レーシングが共同開発を進めているハイパーカー、AM-RB001の内覧会のために来日していて、少しだけ話しをすることが叶ったのだ。
 
目の前にあった001はコンセプトカーの段階だったが、ミドシップのロードカーであり、アストンとしては初めて参入するカテゴリーのクルマでもある。レッドブルのF1デザイナーであり稀代のエアロディナミシストでもあるエイドリアン・ニューウェイとライヒマンのチームの共同作品でもあるというのに、どこからどう見てもアストンマーティンのクルマにしか見えず、「なぜ?」と訊ねたのだった。

「確かにおっしゃるとおり、メカニカルレイアウトは全く異なりますし、エイドリアンのエアロダイナミクスをはじめとするアイデアはもちろん大きな柱として反映されています。ただし、クルマの印象を決めるのはプロポーションなんですよ。プロポーションの作り方がアストンマーティンなんです。
 
私達のチームは、アストンマーティンがどうあるべきかということを徹底的に知り尽くしているんです。彼らはアストンマーティンで長く仕事をしている人達で、同じデザイナーと同じモデラーが、DB11も作ればこの001も作ってるんです。同じ人の手でなされていくことは、とても大切なんです。優秀なシェフの料理は、メニューや素材や調味料が変わっても、そのシェフの味になるでしょう。それと同じことなんですよ。だからフロントエンジンでもミドエンジンでも、サルーンやSUVであったとしても、各部のフォームやラインの関係性などからアストンマーティンらしさを感じていただけるものになるんです。
 
例えばDB11はフロントが長くてキャビンから後ろが短く、001はフロントが短くキャビンから後ろが長い。けれど前後が逆なだけで、実は長さの比率はそう違ってはいないんです。どのモデルにも共通しているのは美しいプロポーションを突き詰めていることで、美しいプロポーションには黄金比と呼ばれるものが厳然と存在しています。それは常に同じ、5000年前も今も未来も変わらない、時代を超えた美しさの基準なんです。だからといって過去を模倣するのではなく、私達はその黄金比にドラマティックなラインを加えていくことで、何年経っても色褪せないスタイリングを作り上げていく。そこに妥協はありません」
 
この言葉の中にアストンマーティンのスタイリングデザインに関する哲学が詰まっているし、美しさの秘密も詰まっている。そして未来に向けたメッセージも。
 
アストンは今年デビューしたDB11を皮切りに年に1車種を目安とし、既存モデルのフルチェンジを含めた新型車を発表していく。それらを見られる日が待ち遠しい。
 
といって、これまでのモデル達の魅力が衰えるような気はしない。スーパーカーは型落ちになった途端に古めかしく感じられたりすることも少なくないが、例えばDB11と現行ラインアップを見較べてもそうは感じられないのだ。既にライヒマンが教えてくれたデザイン哲学が生きてるからだろう。
 
手に入れた1台と一緒にオーナーが心地好く枯れていくことのできる唯一のスーパースポーツカー。アストンマーティンとは、そういう存在なのかも知れない。


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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。

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