特集 「岡崎五朗の」クルマ購入論

自己犠牲的なクルマ選び

クルマなんて壊れずに走ってくれればいい。経済的ならいい。そんなふうに考える人は少なくない。

 クルマを趣味に持つ人間は、とかくそういった人たちを「つまらない人」と考えがちだ。けれど、たとえばスーパーに並んでいる牛乳。牛乳好きにしてみれば、どこぞのメーカーのどの商品が旨いというウンチクがあるのだろうけれど、僕にはその違いがよくわからない。だから値段重視で選ぶ。クルマだって同じだ。どれを選んでもさほど変わらないだろうとか、そもそもなんだっていいと考えていれば、性能やブランドに余計な金額を支払う必要などこれっぽっちもない。

 そんな人にお勧めしたいクルマを考えてみる。なんでもいいと考えている人にお勧めもへったくれもないと思うかもしれないが、さにあらず。そんな人にこそ僕はエコカーをお勧めしたい。それも、安くてシンプルなエコカーを。

 例えばスズキのアルト・エコ。先日のマイナーチェンジでカタログ燃費がついにリッター33㎞に達したこのクルマ、ハイブリッド車のような複雑な機構をもたないため価格は安く、重量も軽い。90万円の廉価グレードは後席にヘッドレストが付いてないから、さすがに後席は絶対に使わないという人以外には勧められないが、100万円のグレードならOK。驚異的な燃費を達成するべく、タイヤ空気圧を300kPa(キロパスカル)というとんでもないレベルまで入れている影響で乗り心地が固いとか、遮音材が少ないため音がうるさいとか、コーナーではグラリと傾くとかいったネガはあるものの、贅沢を言わなければA地点からB地点へとなんの問題もなく乗員を運んでくれる。

 さすがに軽自動車は避けたいと思うなら三菱ミラージュはどうだろう。タイ工場で生産することでコストを引き下げ100万円を切る価格を実現。燃費もリッター27・2㎞と立派な数値だ。乗ってみると、特に感心させられる部分はないが、大きな不満を感じる部分もないので、どんな人にでも安心して勧められる。

 最近はハイブリッド車も安くなった。トヨタ・アクアの価格は169万円。リッター35・4㎞というカタログ燃費も凄い。トヨタにはヴィッツというさらに安いモデルもあるが、いちばん燃費がいいグレードでもリッター21・8㎞止まり。ヴィッツの中間グレードを買うのならアクアのほうが実用車としての満足度は高い。ミニバンだったらフリード・ハイブリッドもいいクルマだ。

 上で紹介しているクルマたちは、惚れ惚れするような美しいデザインを売りにしているわけではなく、走りの良さを狙って作られたわけでもない。はっきり言って、クルマ好きからすれば「つまらないクルマ」だ。けれど、そもそもクルマに走る楽しさといったプラスαの魅力を求めていなければ、これで十分、いや、その人にとっても、社会にとっても、地球にとっても、これほど素晴らしいクルマはない。

 資源環境問題がクローズアップされるとともに、クルマには高い社会性能が求められるようになった。世界にはおよそ10億台のクルマが存在し、新興国を中心にさらに増え続けていくことが予想されている。そんな中、いま問われているのは、限りある資源をどう使いこなし、いかにクリーンな社会をつくっていくかだ。

 そう考えたとき、クルマを趣味の対象として捉え、コダワリをもって選ぶ「クルマ好きの視点」は、必ずしも絶対的正義ではない。面白みに欠けるとしても、あるいは走行性能や快適性に妥協を感じたとしても、そのクルマが社会性能に優れているなら、その部分は正当に評価しなくてはならないのだ。

 クルマは安くて燃費が良くて広ければそれでいいのか、もっと楽しく、美しいクルマを選んで欲しい。そんな問題提起を僕は常にしている。しかしそれはaheadをはじめとする自動車好きを対象としたメディアでの話であって、もっと広い視野にたつなら楽しさや美しさではなく「少しでも燃費のいいクルマを選ぶのが社会のため」という結論になる。

 自己犠牲を払ってエコカーを選ぶべきといっているわけではない。もしこだわりがないのなら、少しでも燃費のいいクルマを選ぶのが正義だということだ。たとえ1%の省燃費でも世界レベルでは約1000万台分のガソリン消費量節約になる。プリウスの走り味が安普請? いやいや、そんなことより何より、評価すべきはあの燃費の良さなのである。

HONDA FREED HYBRID
車両本体価格:¥2,295,000

(ジャストセレクション・6人乗り)

JC08モード燃費:21.6km/ℓ

エンジン:1.5L i-VTEC+IMA・水冷直列4気筒横置

総排気量:1,496cc

最高出力(エンジン):65kw(88ps)/5,400rpm

最高出力(モーター):10kw(14ps)/1,500rpm


HONDA FIT HYBRID
車両本体価格:¥1,590,000

JC08モード燃費:26.4km/ℓ

エンジン:1.3L i-VTEC+IMA・水冷直列4気筒横置

総排気量:

最高出力(エンジン):

65kw(88ps)/5,800rpm

最高出力(モーター):

10kw(14ps)/1,500rpm


MITSUBISHI MIRAGE
車両本体価格:¥998,000(E)

JC08モード燃費:23.2km/ℓ

(M/Gグレードは27.2km/ℓ)

エンジン:DOHC 12バルブ3気筒

総排気量:999cc

最高出力:51kW(69ps)/6,000rpm


TOYOTA VITS
車両本体価格:¥1,360,000(F)

(「SMART STOPパッケージ」)

JC08モード燃費:21.8km/ℓ

エンジン:直列4気筒DOHC

総排気量:1,329cc

最高出力:70kW(95ps)/6,000rpm


NISSAN MARCH
車両本体価格:¥1,036,350(12S V)

JC08モード燃費:21.4km/ℓ

エンジン:DOHC水冷直列3気筒

総排気量:1,198cc

最高出力:58kw(79ps)/6,000rpm


TOYOTA AQUA
車両本体価格:¥1,690,000(L)

JC08モード燃費:35.4km/ℓ

エンジン:水冷直列4気筒DOHC

総排気量:1,496cc

最高出力:54kW(74ps)/4,800rpm


MITSUBISHI i-MiEV



車両本体価格:¥2,600,000(M)

JC08モード・一充電走行距離:

120km(満充電の状態から走行可能な距離)

総電力量:10.5kWh

最高出力:31kw(41ps)/2,000〜6,000rpm


NISSAN NOTE
車両本体価格:¥1,249,500(S)

JC08モード燃費:22.6km/ℓ

エンジン: DOHC水冷直列3気筒

総排気量: 1,198cc

最高出力:58kW(79ps)/6,000rpm


SUZUKI ALTO ECO
車両本体価格:¥900,000(L 2WD)

JC08モード燃費:33.0km/ℓ

エンジン:水冷4サイクル直列3気筒

総排気量:658cc

最高出力:38kw(52ps)/6,000rpm

現実的に選ぶいいクルマ

そうはいっても、燃費だけでクルマを選ぶなんて面白くない。aheadの読者にはきっとそう考える人が多いだろう。もちろん、プリウスやリーフ、アウトランダーPHEVのような電動化されたエコカーを、ある種のファッションとして乗りこなすという方法論も大いにアリだ。プリウスが爆発的人気を獲得した↖理由のひとつに「ハリウッドセレブたちが選ぶ最先端エコカー」というイメージがあったことは否めないし、それによる効果が絶大だったことも事実だ。

 しかし、こだわりをもってクルマを選ぶクルマ好きたるもの、ハリウッドセレブなんちゃらというステルスマーケティングに乗せられるのは面白くないではないか。ましてや乗ってみて面白味に欠けるのであれば、いくらエコでもすぐに飽きてしまうのがオチ。僕自身、アウトランダーPHEVはデザイン以外はとても気に入っている。バッテリーがなくなるまで(満充電でおよそ50キロ)てこでもエンジンをかけずEV状態で頑張り、いざというときにはエンジンをかけて充電しながら走るというコンセプトはとても興味を引かれるし、走ってみてもあの大きなボディがモーターで「スーッ」とスムースに走るのには感動すら覚える。しかしプリウスの薄っぺらい乗り味やリーフのおよそ先進的とは言いがたい内外装の仕上げには、クルマ好きの一人としておよそシンパシーを感じない。

 このように、安くて燃費さえよければいいという視点から脱却し、クルマ好きとして眺めはじめると、カタログスペックだけではどうにも判断がつかなくなる。実際に眺め、室内に乗り込み、走り出してみなければ、そのクルマが魅力的かどうかなど絶対にわからないからだ。

 そうはいっても、時代性を考えれば、大きく重いボディに巨大なエンジンを積んだクルマに乗るというのはできれば避けたいところ。クルマとしての魅力と社会性能を、どれほどのレベルで両立できているかが、現代における「いいクルマ」の条件と言っていいだろう。

 そこでにわかに存在感を増してくるのがアテンザだ。ガソリンエンジンを搭載したモデルも悪くないが、4ℓエンジン並みのトルクをもつ2・2ℓターボディーゼルの出来映えは素晴らしいのひと言。早くて気持ちよくディーゼルとしては異例に静かで、かつ、丁寧に走ればリッター15キロは軽くいく。内外装の仕上げやハンドリング、乗り心地へのこだわりも本格的だ。価格は約300万円するが、10年乗るつもりなら決して高い買い物ではない。

 輸入車で注目したいのはなんと言っても今年半ば頃に日本に入ってくる予定の新型ゴルフだろう。すでに海外で試乗済みだが、快適性は高級車並み。新たに気筒休止機構を搭載した1・4ℓ4気筒ターボエンジンは、実用域での頼もしいトルクと、回していったときの胸のすくような加速感、4気筒としてはトップレベルのスムースな回転フィールを味わわせてくれる。車体関係では、大幅な軽量化を実施しているにもかかわらず、外部騒音、タイヤノイズ、エンジンノイズといった各種騒音の封じ込めは完璧。ワインディングロードやコーナーでの安心感も絶大だ。それでいて燃費も理想的な状況ならリッター20キロに達する。

「性能や快適性を削って燃費を良くするのは本当の技術ではない。走り味と燃費の両立を狙うことこそ本当の技術だ」というゴルフの開発担当者の言葉には心底共感させられた。まさにその通りだと個人的には思う。

 もちろん、燃費重視の固くて乗り心地が悪くて雨の日に滑りやすいタイヤを履いたり、軽量化のために遮音材を省いたり足回りを華奢につくったり…そんな方法で1%でも燃費を良くするのも社会的正義ではある。しかしそれは燃費追求という狭い意味での正義に過ぎず、一人のクルマ好きにとっては必ずしも歓迎すべきことではない。

 社会的正義と個人的指向にどう折り合いを付けるのか。そのジレンマに正々堂々と向き合い、持てる技術を総動員し、模範解答を示してみせたのがアテンザとゴルフだ。両車のエンジニアと話していて感じるのは、クルマである以上、移動空間としての質は絶対に捨てられないという信念。そしてそれが、乗る者に熱く語りかけてくるのである。

RENAULT TWINGO

GORDINI R.S.
足回りは、「ルノースポール」が開発したシャシースポールを採用。エンジンもルノースポールがチューンした1.6ℓ、134馬力の自然吸気。スポーツ性能を前面に押し出した小型ホットハッチ。

●問い合わせ www.renault.jp


MAZDA ATENZA
エンジンからシャーシまで、SKYACTIVテクノロジーを採用したセダンとワゴン。エコ性能もさることながら、「走る・曲がる・止まる」をスムースに繋げることを目指し、走り出しから止まるまで、統一感のある走りを実現した。

●問い合わせ www.mazda.co.jp


VW POLO GTI
VW流の高剛性のボディに、従来のエンジン換算で言えば1.8ℓ級の馬力を発揮する1.4ℓツインチャージドTSIエンジンを搭載。足回りはGTI専用のチューニングが施されている。

●問い合わせ www.volkswagen.co.jp


VW GOLF(7th)
次期ゴルフとして登場がアナウンスされている7代目。現行車からエンジンとプラットフォームを一新。車重も約100㎏もの軽量化を図りながら、クォリティは現行車からさらに進化させた。

●問い合わせ www.volkswagen.co.jp


FORD FOCUS
かつてWRCで表彰台を狙う常連だったフォーカスが新型になって戻ってきた。初期作動はしなやかながら、コーナーでロールすると踏ん張るサスペンションは美点のひとつ。直噴式2.0ℓエンジンに組み合わされるデュアルクラッチ式ATもスポーツライクな走りを支える。

●問い合わせ www.ford.co.jp


SUBARU BR-Z
低重心の水平対向エンジンにFRという駆動方式を組み合わせたスポーツモデル。ロングノーズ・ショートデッキ、流れるようなサイドシルエットラインもスポーツ性を強調する。運転する歓びを純粋に味わえる一台

●問い合わせ www.subaru.jp150


RENAULT MEGANE ESTATE GT LINE
開発にルノーのモータスポーツ部門である「ルノースポール」が携わったスポーツワゴン。速度が上がるに従って操作する愉しさも増す。長距離ドライブを得意とするルノーの真骨頂。

●問い合わせ www.renault.jp


MAZDA CX-5
2012-2013日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞車。エンジンはもとより、ミッション、ボディ/シャーシを同社の「SKYACTIV」思想に則ったものを採用。とくに新世代クリーンディーゼルエンジンの支持が高く、販売の7割近くを占めている。

●問い合わせ www.mazda.co.jp


MITSUBISHI OUTLANDER PHEV
世界初の、4WD SUV プラグインハイブリッドEV車。通常走行時の大部分は電気を使用し、モーターで走行。充電量が減った場合はエンジンが始動し、充電を行いながら走行する。もちろん、充電ケーブルによる充電も可能。

●問い合わせ www.mitsubishi-motors.co.jp


500万円あればクルマは何でも選べる

大金持ちならいざ知らず、血中クルマ好き濃度の高い一般人にとって、常に悩みのタネになるのが予算だ。一度はポルシェに乗ってみたい。AMGってカッコいいね。いやいや自分はマセラティ派だな…。そんな会話の後に続くのは、決まって「宝くじが当たったら」という半ば諦め混じりの言葉。

 けれど、諦める必要はない。新車という括りを外せば、いままで信じられなかったようなバラ色の世界が目の前に拡がっていることに気付くことになる。

 ボクスターなら走行1万キロ程度の個体が500万円以下で手に入るし、僕がいちばん好きな911であるタイプ997も500万円以下のものが出始めている。911の場合、さすがに7〜8年落ちになるからメンテナンス費用もある程度覚悟しておく必要があるけれど、自分で手入れをしながら大切に乗るのも趣味と考えれば悪くはない。そしてこの種のクルマは3年乗っても新車よりずっと値落ちが少ない。値落ちの少なさをメンテナンス費用に充てると考えれば損はない。

 その他、中古車サイトで500万円以下で検索をかければ、新車時で軽く1000万円オーバーの夢のクルマが出てくるわ出てくるわ。マセラティやBMWのM3、AMG・CL63、レンジローバー・ヴォーグ、メルセデス・ベンツSL550、アウディA8、ジャガーXKR、レクサスLSハイブリッド…。

 これはあまり知られていないことだが、日本の中古車は諸外国と比べて圧倒的に安い。新車信仰が強いため、中古車を敬遠する人が多いからだ。それに目を付け、最近では海外から日本の中古車を買い付けに来る業者も多い。ひと昔前はランドクルーザーやハイエースといったタフな実用中古車をロシアや中近東に輸出するケースが多かったが、最近ではポルシェなどのマニアックなスポーツカーが数多く海外に流出している。そう、日本は世界的に見ても希な中古車天国なのだ。

 クルマ好きたる者、そんな絶好の機会を逃す手はない。事実、モータージャーナリストや自動車雑誌の編集者はたいてい程度のいい中古車を買っている。その方が圧倒的に安い予算で素敵なクルマに乗れるということを身を以て知っているからだ。

 もちろん、中古車には故障やアフターサービスといった心配は付きものだが、並行輸入車やタチの悪い改造車でもない限り、整備は正規ディーラーで問題なく受け付けてくれるし、それでも心配ならメーカーの認定中古車を検討してみるといいだろう。認定中古車とは、素性のしっかりした程度のいい中古車をメーカーやインポーターがしっかり整備した上で保障を付けて販売するもの。一般的な中古車よりは若干価格が高くなるが、その分、安心感や優れたホスピタリティが手に入る。新車と中古車の中間的存在と考えればいいだろう。

 いずれにしても、中古車まで視野に入れればクルマ選びの選択肢は飛躍的に拡がる。一例として予算500万円としたが、300万円でもビックリするような素敵なクルマが手に入るのだ。

 この特集を通じて僕が読者の方に伝えたかったこと。それは、クルマとは、かくも広がりのある商品であるということだ。下駄代わりに乗る安くてエコなクルマから、技術の粋を集めてエコと走りの両立を目指したクルマ、そして意外にも身近なところにいる夢のクルマたち。

 どれを選ぶかは貴方次第。答えはひとつじゃない。だからこそクルマ選びは楽しいし、どんな選択をするかによってカーライフはまったく違うものになる。

 個人的には、もっと多くの人にこだわりを持ったクルマ選びをして欲しいし、それによってカーライフをもっと充実したものにして欲しい。しかしその一方で、こだわりを捨てて燃費一本で選ぶ人が増えるのが地球環境的には望ましいというのも本音ではある。

 とはいえ、そんな無責任きわまりない結論で結ぶのはメディアに携わる者としては失格だろう。一人のクルマ好き、あるいはモータージャーナリストとして望むのは、きれい事かもしれないが、楽しく快適で美しく、しかし究極のエコ性能を備えたクルマの登場。人類の英知に限界がないのなら、決して不可能ではないはず。クルマは成熟商品になったと主張する人がいるが、そんなことは決してない。理想のクルマを目指して、これからもクルマは進化し続けるのだ。

-------------------------------
岡崎五朗/Goro Okazaki
1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』に出演中。

アヘッド ロゴ

関連キーワード

この記事をシェアする

最新記事

     
アヘッド Car & Motorcycle Magagine ahead archives