岡崎五朗のクルマでいきたい VOL.51 聖域は、いつかなくなる

アヘッド 岡崎五朗のクルマでいきたい

先日、ドイツの大手総合自動車部品メーカーであるコンチネンタル・オートモーティブ社のトップマネージメントと話す機会があったのだが、彼は大真面目な顔で「20年後の自動車産業はいまとは異なるビジネスモデルになっているだろう」と言っていた。これをどう解釈するか? 僕は「20年後にはわれわれ総合自動車部品メーカーが自動車産業を牛耳るのだ」という宣言だと受け止めた。

 コンチネンタルやボッシュといったドイツの大手総合自動車部品メーカーは、EVだけでなく、ハイブリッドやプラグインハイブリッドといったシステムを自社開発し、自動車メーカーに供給しはじめた。その他、追突防止自動ブレーキシステム、サスペンション、ESC、ディーゼルエンジンの心臓部である燃料噴射システムなど、最新テクノロジーの多くも手掛けている。生産効率のいい大規模組み立てラインやボディ設計など、彼らの力が及ばない部分も残っているが、少なくとも20年というサイクルで捉えると、彼らが狙っているのは間違いなくそこだ。

 これまで異業種からの参入は不可能と言われてきた自動車産業だが、総合部品メーカーの野心と技術力により、参入障壁は今後低くなっていくだろう。それは同時に、アップルのような斬新な発想を武器に自動車産業に参入する企業の登場を促進することになる。既存の自動車メーカーには総合部品メーカーに負けない独自技術の開発に加え、柔軟な発想に基づく魅力的な商品企画力がよりいっそう求められる。それなくして今後の成長は望めない。

スバル XVハイブリッド XV+ハイブリッドの記号性

スバルXVハイブリッドは、インプレッサをベースに車高を上げSUVテイストを与えたXVのハイブリッド版。発売以来大人気で、長いウェイティングリストができている。

 人気の秘密を僕なりに考えた結果、いくつかの理由が思い浮かんできた。

 ひとつはデザイン。インプレッサはスバルらしい真面目なクルマ作りを感じられる良作だが、いかんせんデザイン面でのインパクトが弱い。その点、XVはSUVテイストを与えることによって若々しくダイナミックなテイストを表現できている。

 2点目はアイサイト。ステレオカメラを使って車線逸脱や追突、歩行者との衝突、アクセルとブレーキの踏み間違いによる誤発進などを防ぐアイサイトは、クルマを買い換える大きな理由になり得る機能だ。

 3点目がハイブリッド。プリウスやアクアの大ヒットからもわかるように、日本はハイブリッド車率が世界でもっとも高い国だ。さっぱり売れていなかったカローラもハイブリッドが出たとたん売れ出した。環境意識もさることながら、ハイブリッドに一度は乗ってみたいというマインドが買い換え意欲を促進する。販売店に取材してみても「ハイブリッドなら買い換えてもいいわよ」という奥様がかなりいらっしゃるという。

 そんな理由からXVハイブリッドは大人気なわけだが、実のところ燃費低減効果は27%とさして大きくない(15・8㎞/ℓ→20㎞/ℓ)。燃料代の差で価格差を埋めるには数万キロ走る必要がある。しかしXVハイブリッドの魅力は燃費だけじゃない。モーターアシストによる力強い加速や優れた静粛性、そして何より「ハイブリッドに乗る生活」という付加価値を考えれば、XVに約30万円上乗せしてXVハイブリッドを選ぶ価値は大いにある。実際、納車までかなり待たされるにもかかわらず、XVのハイブリッド比率は70%に達しているという。


軽自動車約1台分(スバル調べ)のトルクを発揮するモーターがエンジンをアシスト。発進時や坂道など、アクセル操作に応じた加速力が得られる。また、アイサイト搭載車には、新開発の「ECOクルーズコントロール」を装備、走行感の良さと燃費向上を両立させている。ボディーカラーは全9色。

車両本体価格:¥2,782,500(HYBRID 2.0i-L EyeSight)

全長×全幅×全高(mm):4,450×1,780×1,550

車両重量:1,510kg 乗車定員:5人

【エンジン】エンジン:水平対向4気筒 総排気量:1,995cc

最高出力:110kW(150ps)/6,000rpm

最大トルク:196Nm(20.0kgm)/4,200rpm

【モーター】最高出力:10kW(13.6ps)

最大トルク:65Nm(6.6kgm)

JC08モード燃費:20.0km/ℓ 駆動方式:AWD

ルノー ルーテシア 「恋に落ちる」という キーワードを持つクルマ

なんて素敵なんだろう! 新型ルーテシアのプレゼンテーションを聞きながらそう思った。はっとさせられるような大胆なデザインが印象的な新型ルーテシア。そこには、ルノーが描くとてもロマンティックなストーリーが隠されている。

 ルノーが打ち出した新しい商品戦略の柱となるのが「The Cycle of Life」という考え方だ。人は恋に落ち(LOVE)、二人で旅に出て(EXPLORE)、家族(FAMILY)を持ち、働き(WORK)、遊び(PLAY)、やがて知恵(WISDOM)を得る。ルノーは今後、上記6つのライフステージに合わせたクルマ作りを展開していくことで、多くのユーザーに豊かなカーライフを提供していくという。

 そのうちの最初のピースとなる「LOVE」をテーマに作ったのが新型ルーテシアである。ガチンコのライバルとなるプジョー208にも「異性を魅惑する」ことをテーマにした208XYというグレードがある。クルマの持つ負の側面(環境と安全)ばかりが注目されがちな日本とは違い、欧州、とくにフランスではまだまだクルマに夢を持っている人が多いのだろう。あるいは、メーカーがそういったニーズを掘り起こす努力をした結果として、ユーザーニーズに違いが出てきたのかもしれないが。

 いずれにしても、新型ルーテシアは本当に艶っぽいコンパクトカーだ。目を奪い、心を惹きつけるのは、デザインのためのデザインではなく、そこに上述したような想いが込められているからだろう。内容的にも、1・2ℓ直噴ターボにDCTという最新トレンドを採り入れ、価格も200万円切りを実現。よくできたシートや優れた静粛性、安心感のあるフットワークなど、ドライブフィールも期待を裏切らない仕上がりになっている。新型ルーテシアで、もう一度クルマと恋に落ちてみてはいかがだろうか。


1990年にデビューした大ヒットモデルの4代目。日常での使いやすさという特徴をさらに進化させつつ、情熱的で機能性に富んだデザインに仕上げた。ボディカラーは全7色を用意。インテリアやホイール、内装パーツなどを組み合わせることで、自分だけの一台をデザインすることもできる。

車両本体価格:¥1,998,000(アクティフ) 全長×全幅×全高(mm):4,095×1,750×1,445

車両重量:1,190kg 乗車定員:5人

エンジン:ターボチャージャー付 筒内直接噴射 直列4気筒DOHC16バルブ

総排気量:1,197cc 最高出力:88kW(120ps)/4,900rpm

最大トルク:190Nm(19.4kgm)/2,000rpm 駆動方式:前輪駆動

メルセデス・ベンツ CLA 超優等生とは異なる トキメキを演出

メルセデス・ベンツが、クーペのような流麗なフォルムを持つコンパクト4ドアクーペ「CLA」を出してきた。ボディサイズはCクラスとほぼ同じ。かなり低く構えているように見えるが、全高はCクラスより15㎜しか低くない。

 Cクラスという、乗るたびに惚れ惚れするような超優等生モデルを持っているのに、なぜメルセデスはわざわざCLAを出してきたのか。ストレートに言えば新規顧客を獲得するために他ならない。Cクラスには興味をもたない若い人、あるいはヤングアットハートな人々に向けてつくられたのがCLAなのだ。

 ボディサイズはほぼ同じだが、ルーフは強い弧を描き、正面から見るとサイドウィンドウも内側に向かって強く倒れ込んでいる。広さよりも見た目を重視したクーペと同じ手法を採り入れることでスタイリッシュさを演出しているわけである。

 当然、後席は狭い。膝元スペースは十分だが、頭上と側頭部の余裕はミニマム。乗り降りの際には上半身を折り曲げないといけないし、後席シートクッションも薄めだ。

 それをもって「メルセデスがこのような軟弱なクルマをつくるのはけしからん」と主張する人もいるが、僕はそうは思わない。デザインの嗜好は人それぞれだし、後席へのプライオリティも人それぞれだからだ。CLAの姿を見て心がときめく人がいるなら(少なくないだろう)、メルセデスの狙いは十分に達成されたと言っていいし、CLAの存在価値はちゃんとある。

 ただし、走行フィールについては改善の余地がある。とくに荒れた路面でみせる粗っぽい乗り心地はメルセデスらしからぬもの。FFのAクラスと同じ基本メカニズムで構築されているのでFRのCクラスとは完全な別物だが、それを差し引いても違いは大きい。今後熟成が進みCクラスに迫る乗り味を手に入れれば、魅力はさらに増すだろう。


ボンネットからルーフ、リアエンドへと流れるようなスタイリングが優れた整流効果をもたらし、量産車最高水準のCd値(空気抵抗係数)=0.23を達成。デザインの美しさだけではなく、静粛性や燃費低減、高速安定性にも貢献したシルエットとなっている。価格は335万円から。

車両本体価格:¥3,350,000(180) 

全長×全幅×全高(mm):4,640×1,780×1,430 車両重量:1,470kg

乗車定員:5人 エンジン:DOHC直列4気筒ターボチャージャー付 

総排気量:1,595cc 最高出力:90kW(122ps)/5,000rpm  

最大トルク:200Nm(20.4kgm)/1,250〜4,000rpm 

JC08モード燃費:17.4km/ℓ 駆動方式:前輪駆動


ジャガー XJR 復活したジャガーが放つ ハイパフォーマンスモデル

ジャガーが好調だ。2013年の世界販売台数は対前年比40%。現行モデルの磨き込みやラインアップ拡充に加え、8月号で紹介したスポーツカー「Fタイプ」の追加など、積極的な商品戦略が好調の原因だ。

 フォードの傘下だった時代、ジャガーはフォード車との棲み分けや部品共有化、開発費微速といった厳しい制約のなか苦戦を強いられた。しかし2008年にタタ・モーターズの傘下になり見事に復活した。ジャガーのエンジニアは皆「フォードと違ってタタはわれわれに自由にクルマを作らせてくれる。本当に感謝している」と言う。つまり、フォードが「カネは出さないが口を出すスポンサー」だったとすれば、タタは「カネは出すが口は出さないスポンサー」というわけだ。

 ご存じのようにタタ・モーターズはインドの財閥系自動車メーカーである。それをもって「いまのジャガーなんてインド資本だろ」と嘲笑する人もいる。しかし現場のエンジニアに話を聞き、また次々に登場する魅力的なプロダクトに触れれば、そういった悪口がいかに幼稚なものであるかがわかる。ジャガーは、タタという英国の伝統に深いリスペクトを抱くホワイトナイトによって見事に蘇ったのである。

 そんなジャガーのフラッグシップであるXJシリーズにハイパフォーマンスモデルのXJRが加わった。日本導入前にひとあし先に試乗することができたのだが、その走りは筆舌に尽くしがたいほど素晴らしいものだった。

 550psを発生する5LV8スーパーチャージャーは刺激的なサウンドを聴かせながらオールアルミボディをわずか4・6秒で100㎞/hまで加速させる。圧倒的な加速だ。それでいて乗り心地は驚くほど上質で、ハイエンドサルーンらしい快適性も味わえる。XJRはジャガー流の洗練された荒々しさを武器に、AMGS63やマセラティ・クアトロポルテ、アルピナB7といった強敵と対峙する。

操作や路面状況に応じて、専用の電子制御サスペンション「アダプティブダイナミクスシステム」が、500分の1秒の反応速度でダンパーレートを調整してくれる。また、トランスミッションは8段ATを搭載、ドライバーの運転をモニタリングし、適切なシフトダウンを行う。

車両本体価格:未定

全長×全幅×全高(mm):5,127×1,899×1,456

車両総重量:1,870kg

エンジン:5ℓV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付

トランスミッション:8段AT 総排気量:5,000cc

最高出力:405kW(550ps)/6,500rpm

最大トルク:680Nm(69.3kgm)/2,500〜5,500rpm

駆動方式:後輪駆動

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岡崎五朗/Goro Okazaki
1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』に出演中。

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