特集 U-2.0のタイトなスポーツカーで決める

岡崎五朗が語るクルマ選び スペックの呪縛から 解放されよう 岡崎五朗

頭ではなく、五感で感じ取る

 業種を問わず、とかく専門家同士の会話には他の人が聞いても理解できない内容が多く含まれるものだ。難しい専門用語とか、業界特有の隠語も理解を難しくしている要素だが、むしろそれ以上に大きいのが、ごく短いセンテンスのなかに、専門家同士だからこそ理解できる「ニュアンス」のようなものが含まれていることだろう。

 たとえばモータージャーナリスト同士の会話。誰かが新車にいち早く乗ったとすると、当然感想を聞きたくなる。「○○はどうだった?」。

 もしそのクルマが最高に素晴しければ「すごくよかったよ」というきわめてシンプルな答えが返ってくる。逆に気に入らなかった場合は具体的な弱点が語られるのだが、この際、弱点の話は横に置いておき「すごくよかったよ」というとんでもなく抽象的な表現に注目していただきたい。

もちろん、試乗記で「すごくよかった」などと書いても読者の方にはまったく伝わらない。けれど、すべてのとは言わないが、価値観を共有できるモータージャーナリスト同士なら、それだけで「十分」に伝わるのだ。

 面白いのは、この場合の「よかった」とは、有り余る動力性能でもなければ驚くほどのコーナリングスピードでもなく、ましてやサーキットのラップタイムとも無関係であることだ。たとえそれがスポーツカーであっても、軽自動車であっても、「よかった」が意味するのは、乗って気持ちよかったとか、楽しかった、に集約されるのである。

 かくの如く、たくさんのクルマに乗りまくっていると、興味の対象はどんどん感覚的なものになっていく。それは同時に、排気量が何㏄だとか、最高出力が何馬力だとか、サスペンション形式がどうだとか、そういうものに対する興味が失われていく(悟りを開く?)ことを意味する。乗ってみて楽しいと感じるか、気持ちいいと感じるか。クルマ趣味というものは、詰まるところそこに行き着くのではないか。もちろん、デザインに惚れるとか、ブランドに惚れるという要素も否定はしないが、それとて大枠で捉えるなら楽しさ、気持ちよさにつながると考えていいだろう。



情報依存がクルマ選びを縛る



 本特集は「排気量2ℓ以下のスポーツカー」を取り上げている。そういう意味では排気量なんてどうでもいいという僕の主張は、特集の意図に背くものなのかもしれない。しかし実態を見ると、案外そうとは言い切れないとも思うのだ。

 走りのいいクルマが欲しい! という衝動に駆られた一人の男性がいたとしよう。webサイトを巡回し、自動車雑誌を読みあさり、ありとあらゆる情報を収集する。せっかくクルマを買うのだ。間違ったクルマ選択はしたくない。当然である。

 しかしその課程に固定概念を植え付ける数々のトラップが潜んでいることに彼は気づかない。想像を絶するターボパワー、自然吸気エンジンならではの鋭いレスポンス、後輪駆動ならではのドリフトコントロール性、4WDにしか望めない強烈なトラクション性能、マルチリンク式サスペンションが生みだす卓越した接地性能…数々の美辞麗句が固定概念を強固なものにしていく。

 もちろん、上記の要素に嘘はない。だから、予算がたんまりあれば好みに応じてポルシェでもフェラーリでもGT─Rでも買えばいい。問題は予算に限りがあるときだ。数々の固定概念に縛られてしまった彼は、一切の妥協をする気になれず、だったらどれに乗っても同じだという考えに至り、「一歩」を踏み出さないまま夢を夢のままで終わらせてしまう。

 しかし僕は「そんなことはない!」と声を大にして言いたい。たとえ2ℓ以下でも、たとえFFでも、たとえどんなサスペンション形式でも、真剣に探せば楽しいクルマは絶対に見つかる。そう、2ℓ程度じゃあ…などという規制を課すことは、楽しいクルマに巡り会う多くのチャンスをみすみす放棄することに他ならないのだ。

 排気量をはじめとするスペックの類から開放され、自由な視点からクルマ選びをすれば、目の前にはいままで気づかなかった素晴しい世界と大きな可能性が拡がっていることに気付くに違いない。

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岡崎五朗/Goro Okazaki
1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』に出演中。


桂 伸一が語るU-2.0 神尾 成

スポーツカーは、軽量であれ

─桂さんは、アストンマーチンV8ヴァンテージでニュルブルクリンク24時間レースに出場されているだけではなく、ロータスカップでも常に上位を走っていらっしゃいます。他にも様々なクルマでレース経験のある桂さんから見て、スポーツカーの排気量による魅力の違いはどこにあるのかをお聞かせ下さい。

桂 まず、排気量が大きいクルマはパワーやトルクがあって速いから、走らせるのはとても面白い。でも、自由に走らせるには場所を選ぶし、ミスったときは質量が大きい分、ダメージがでかくなるよね。

─排気量が大きいクルマは、環境が整わないと楽しむのが難しいし、ある意味で危険だという訳ですか。

桂 公道でスポーツするにはちょっと手に余るというか。見られ方とか他の魅力はともかく、個人的には無理をしてまで大排気量のスポーツカーに乗りたいとは思っていない。排気量が小さくても十分にスポーツドライビングができますよ。ライト・ウェイト・スポーツの代表であるロータス・エリーゼなんかはいい例だね。

─初代のエリーゼは、1・6ℓエンジンでしたが、車重が極端に軽かったこともあり、デビュー早々注目を集めました。

桂 現代のロータスと言えば、アルミバスタブシャーシ。レーシングカーの手法をロードカーに取り入れて、バスタブ型のアルミシャーシをそのまま市販車にしたわけだから衝撃的だった。パワーのあるエンジンではなかったけど、軽量なので操縦性が抜群に良かった。思った時に思ったような車体姿勢にできるっていうのには感動したよ。

─乗り心地がどうとか荷物の積載がどうとかではなくて、軽量化を推し進めたスポーツカーとしての割り切り感がありましたね。

桂 そこだよ。スポーツカーにとって軽さは命。エンジンパワーでいくら補ってもダメなんだ。車重は運動性能にダイレクトに効くからね。

─スポーツカーメーカーとして名高いロータスのクルマ造りのお家芸は、シンプルで軽量ですから。

桂 ハンドリングのロータスと言われたように、ブレーキングに頼らなくても、ハンドル操作だけでスーっと抜けていくみたいなクルマは他にはないよ。これぞ軽量化の賜物。ロータスは、本当の意味でのスポーツカーはこうだよ、と示してるんだ。

─スポーツカーというのは、その名の通り、運動性能が高いクルマのことですから、排気量やパワー云々以前に、まず軽量であることが重要だということですね。

目的の異なる2種のエリーゼ




─2年前にデビューした現行型のエリーゼは、自然吸気の1・6ℓエンジンです。最近発表されたエリーゼSは、1・8ℓにスーパーチャージャーを追加した究極のライトウエイトスポーツカーといえるクルマです。両車の違いや存在意義はどこにあると思われますか。

桂 1・6ℓという排気量の自然吸気エンジンは、ライトウエイトスポーツカーの基本みたいに言われていて、多くの人が馴染める特性なんだ。駆動力が余すところなく動輪に伝わるのでしっかりとグリップさせることができる。素のエリーゼは急に滑り出したりする怖さがないのでドライバーの技量に関わらず、誰もがすぐにロータスのハンドリングを味わえるよ。それに高回転まで回してパワーを使い切れるのも魅力だな。ただドリフトだとかのアクションを与えたいと思った時に、スライドさせるだけのパワーとトルクが足りないというのがちょっと弱いところ。その点エリーゼSは、パワーとトルクが何段階か上がっているので申し分ない。エリーゼSの1・8ℓスーパーチャージャーエンジンは、低回転からでもトルクを引き出せるので瞬間的な加速もできるし、ブワっとトルクが盛り上がる感じは、1・6ℓの自然吸気エンジンにはない魅力だ。エリーゼSは、スポーツカーというよりもスーパーカーに近いクルマになったと思う。2ℓ以下のスポーツカーに限って言えば、エリーゼSの運動性能が一番だと言えるよ。

─エリーゼSは、ライトウエイトスポーツカーという枠を越えたスポーツカーだと言うことですね。

桂 そういうことになるね。正直に言って、やっぱり少し牙がある方が面白いじゃない。排気量のでかいのが牙を剥いたら完璧にお手上げになっちゃうけど、エリーゼSならその危うさも含めて愉しめる範囲にあるよ。それに、エリーゼSは、DPM(ダイナミック・パフォーマンス・マネージメント)が付いているから、ドライバーの好みにパフォーマンスを変更することもできる。

─この2台のロータスエリーゼを総括すると。

桂 素のエリーゼの方は扱いやすいし、純粋にドライビングを楽しむことができるのが最大の魅力。それに、自然吸気の1・6ℓエンジンを積んだ伝統的なライトウエイトスポーツカーだというところも見逃せない。エリーゼSは、ライトウエイトスポーツカーの可能性を発展させたクルマ。基本的に同じシャーシ、同じボディだけど、求めるものが違うから好みの分かれるところだね。

ロードスターは熟成の域に

─日本には不動の名車、マツダのロードスターがあります。現在は、3代目となりますが、初代のロードスターが発売されたのは23年前の1989年でした。

桂 初代のロードスターに乗った時、ロータスと同じで、あぁ意のままになるってこういうことだよなぁ、ロータスエランってこういう感じだったんだろうなぁって。とにかく〝意のまま〟感が強かったね。でもホントに感心したのは、それをよくスチールのボディで実現したよなってこと。おまけに1・6ℓで。しかもスポーツカー用のエンジンではない、ごく普通の量産車用エンジンを積んでたわけだからよくできたなって思った。

─手に入れやすい価格で、エリーゼほど、とがった印象もない。荷物もそこそこ積めますし、普段使いができるスポーツカーですね。

桂 とがり方は明らかに違うよね。それはスポーツカー好きに向けて造っているか、より一般の人に向けて造っているかの違い。同じ〝意のままに扱える〟と言っても、エリーゼは間違った操作をすると、そのままクルマの挙動に現れる。でもロードスターはそこはもう少し寛容に受け止めてくれる。よりロードカー向きなのがロードスター。

─2005年に発売されたNC型からボディサイズも一回り大きくなり、日本では2ℓエンジンが搭載されました。ファンの中にはネガティブな声も多かったようですが。

桂 アメリカが大きな市場でもあるから、そこからの声を吸いあげると仕方のない面もある。社会の要求だからね。でも思った時に思ったアクションを起こそうとするには、排気量の拡大によるトルクアップは決して悪いことじゃない。むしろクルマの動きを作り易くする。それに機械としても確実に進化しているから、僕はネガティブな印象は全く持っていないね。乗り比べてみると、その進化の度合いも感じられると思う。

─その後のマイナーチェンジでは、鍛造クランクを採用するなど、あまり
例のない熟成のされ方をしています。

桂 そこがマツダの偉いところ。何でもコツコツ続けて、受け継ぐべきものを理解したうえで煮詰めていく。

─今年7月にマイナーチェンジされた新型について聞かせて下さい。

桂 まずは、歩行者保護のためのアクティブボンネットの採用。従来の方法だと全長を3㎝伸ばす必要があったらしいけど、今のサイズで収まるように頑張った。バンパーやホイールなどを見直して実際の重量増も4キロに留めてるし。そして最も注目したいのは、操作系の改良だね。

─アクセルとブレーキの特性を変えたという部分ですね。

桂 今までのロードスターは、アクセルを踏んだ途端に吹け上がる印象だった。今回の改良で踏み込んだ分だけしか反応しないようにしたんだ。ブレーキは、コントロール性もだけど、戻していくときのフィーリングに拘った通な変更がされている。

─スポーツカーは、少し踏んだだけで、エンジンが吹けた方が良いというイメージがありますが。

桂 そういうクルマが多いね。ただ吹かすだけなら「スゴい」「レスポンスがイイッ」なんて感じるわけだけど、それは間違ってることなんだ。そんなんでクラッチミートしたら飛び出しちゃうでしょう。例えばロータスなんかは、コンピュータでエンジンを制御して歩く速度でどこまでも行けるようにしている。踏んだ分だけ反応するアクセルやブレーキじゃないとスポーツドライビングに集中できないからね。スポーツカーに限らず、これはクルマの基本なんだよ。今回の開発責任者の山本修弘さんは、自身もレース経験者なので、自分のスポーツカー観から、操作系を見直して、さらにロードスターを進化させたということだよ。

─そういうところがスポーツカーの本場であるヨーロッパで、高く評価されている所以なのですね。


水平対向が生んだBRZと86




─そして今年の初頭から注目を集めているのが、スバルのBRZと、トヨタ86の兄弟車です。

桂 まず最初に、名車と言われてるかつてのハチロクは、最初から名車だったわけじゃないんだ。若い人でも買える価格の、カローラレビンとスプリンタートレノ(型式名のAE86からハチロクと呼ばれた)というクルマを、ショップチューナーやレース屋が、速く走るクルマに改造してイメージを変えていった。そして、それに乗り、レースに出たドライバーが有名になるのと相前後して、クルマそのものも名車になったんだよ。

─当時のチューナーやドライバーが名車に育てたということですね。

桂 そう。その辺は、メーカー側もちゃんと理解していて、今回の86もさまざまな仕様をショップやパーツメーカーに造ってもらっているでしょう。レース仕様だけじゃなくて、ドリフトのD1仕様やストリートチューンドカーだとか。少し意味は違ってくるけど、スバルのBRZは、スーパーGTのGT300クラスにまで出場している。これは、スポーツカー好きに愛されて名車になった先代のハチロクと同じように、より良いスポーツカーに育ててもらおうというメーカーの気持ちの現れだ。

─先の2種と違い、大人が4人乗れてラゲッジスペースもしっかりとっているクルマですが、スポーツカーとしての印象はいかがですか。

桂 最初に感じたのは、着座位置の低さだね。日本車の多くは、シート位置が異様に高いんだけど、かなり低くしていたので、スポーツカーを造りたかったんだという作り手の意志がすぐに伝わってきた。走り出してみても、クルマそのものの重心の低さが感じられるので、これは、スポーツカーなんだと主張してくるよ。

─水平対向式エンジンならではの〝低重心〟が、このクルマをスポーツカーにしているということですか。

桂 もちろん。このクルマは、水平対向エンジンなくしては生まれなかったスポーツカーだ。水平対向式は、一般的な直列式と比べて構造的に重心が低くなるから、余計なピッチングが抑えられるし、路面に貼り付いてる感じも出る。BRZのエンジンは、トルクも出てるから意図したときにパワーオーバーステアができるし、ドリフトにも持っていける。これは、スバルが水平対向エンジンに拘ってきたからこそ造れたんだよ。あと、4人乗りのクルマとは思えないほど前後バランスがとれてるのでドリフトが決められて、アンダーステアも出にくい。スポーツカーと言える要素はすべて揃っているな。

─パワーオーバーステアができることや、ドリフトのコントロール性が良いというのは、スポーツカーにとって重要なのでしょうか。

桂 まずカッコイイじゃない。それが決めれたらドライバーとしてワンランクあがった感じがするでしょう。つまり真面目にいうと、パワーオーバーステアは、アクセルで後輪をスライドさせてクルマを内側に向かせるので、車体に応じたエンジントルクがないとできない。前後輪をスライドさせるドリフトを決めるには、車体のバランスの良さが求められる。そういう意味でクルマの善し悪しが出るんだよ。それに、タイヤのスライドをコントロールするのは、ドライバーの歓びでもあるし、スポーツカーの醍醐味でもある。

─そうなると、スポーツカーは、後輪駆動車だけに限られてしまうように思えますが。

桂 FF(前輪駆動車)でもスポーツカーはあり得るよ。個人的にスポーツカーは、後輪駆動の方が好きなだけ。それに本当は、スポーツカーには、定義なんかないんだよ。乗ってる人がこれがスポーツカーだと思えれば、そのクルマは、スポーツカーなんだ。ただ、ひとつ言いたいのは、せっかくスポーツカーに乗るのなら、ちゃんとスポーツカーらしく走ろうよってことだね。

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神尾 成/Sei Kamio
1964年生まれ。神戸市出身。新聞社のプレスライダー、大型バイク用品店の開発、アフターバイクパーツの企画開発、カスタムバイクのセットアップ等に携わり、2010年3月号から2017年1月号に渡りahead編集長を務めた。現在もプランナーとしてaheadに関わっている。



SUBARY BRZ

○車両本体価格:¥2,330,000

○全長×全幅×全高(mm):4,240×1,775×1,300

○車両重量:1210kg

○エンジン:水平対向4気筒2.0 DOHC 16バルブ デュアルAVCS

○総排気量:1,998cc

○最高出力:147kW(200ps)/7,000rpm

○最大トルク:205Nm(20.9kgm)/6400〜6600rpm

○駆動方式:後輪駆動


MAZDA ROADSTAR
○車両本体価格:¥2,330,000

○全長×全幅×全高(mm):

4,020×1,720×1,245

○車両重量:1,110kg

○エンジン:水冷4気筒DOHC16バルブ

○総排気量:1,998cc

○最高出力:125kW(170ps)/7,000rpm

○最大トルク:189Nm(19.3kgm)/5,000rpm

○駆動方式:後輪駆動

嶋田智之が語るU-2.0のクルマ選び 「手が届く範囲」にある クルマがいい 嶋田智之

ウエスタンブーツもワークブーツもそうだけど、足に馴染んだゴツめのブーツは、実は誰もが思ってる以上に心地好いものだ。少々重くて手応え、いや、足応え(?)があるのも確かだけど、何歩かすると忘れてしまうし、履いてしまえば何も気にすることなく、とりあえず大抵の場面では快適だ。けれど、それで全力疾走するのは御免被りたいし、例えばサッカーするなんてあり得ない。

 といってストイックなサッカー専用のスパイクに履き替えたりしたら、フィールドでは蝶のように舞って蜂のように刺せるかもしれないけど、そのまま街に出たら歩きにくくてしょうがないし足を痛めたりもしそう。

 それって実は、クルマにも全く似たようなことが当てはまると思う。

 僕はスポーツカーが大好きだからそれを引き合いに出しちゃうけれど、500馬力も600馬力もあるスーパーカーを日常的なシーンの数々に置くことを考えてみれば、すぐ解るだろう。構造上どうしても車体はコンパクトにならないから、結果として当然、狭い道では持て余す。買い物した荷物は積む場所がないし、100円パーキングなんかには停められない。何よりジレンマなのは、あり余るパワーが文字通り余っちゃうことで、あれば使い切りたいのが人間のごく自然な欲求だというのに、その辺を走るなら持てるチカラの半分すらも使えず仕舞い。それでもスーパーカーが刺激的な存在であることは否定できないけれど、ごくごく日常領域において、こと爽快さという面でいうならば、軽自動車を全開で走らせる方がよっぽど爽快だったりするというのも事実なのである。

 同じようにレーシングカーを一般道で走らせてみると、とんでもないシロモノを転がしてる妙な優越感はあるし、激辛なテイストそれ自体は最初のうちこそ楽しいのだけど、あまりにダイレクト過ぎる乗り味は次第にしんどくなってきて腰が我慢できても胃がついてこなくなるし。そんなわけだからとてもじゃないけどデートやロングドライブに乗り出すには難があり過ぎる。当然だけど。

 つまりは特別なクルマはそれなりのシチュエーションで乗るから特別に楽しいわけで、過ぎたるは及ばざるが如しではないけれど、毎日をともにする相棒としては〝ちょうどいい〟ヤツを選ぶに限るというわけだ。

 ならば〝ちょうどいい〟の基準はいったいどこにある? ということなのだけど、ぶっちゃけてしまうと、正確なところはあなた自身の心の中にしかない。環境だとかパーソナリティだとかによって、必要条件が変わってくるからだ。が、これまでの自分の経験からあえて述べるなら、所有してきた543㏄から3199㏄までの様々なクルマの中で、いろんな意味でバランスがいいと感じたのは、昔でいうところのテンロク・クラス、つまり1・6リッターをちょっと下回るくらいのクルマだった。それも車体が適度に小さくて、それなりに軽く、エンジンのパワーよりもシャーシの方がちょっと勝ってるような、そんなヤツ。ただし心に残ってるその2台はそれぞれ'80年代と'90年代のクルマ。それ以降、クルマが時代とともに大きく重くなることを強いられてきた末の昨今の基準に照らし合わせるならば、2リッターくらいまでのクルマ、となるだろう。つまり言い換えるなら、僕達の手が届く範囲にこそ〝ちょうどいい〟ヤツがゴロゴロしてるということだ。

 その気になれば使いきれるくらいのパワーとトルク、パワーの数字を補ってスポーティに走れるよう作られた素早いシャーシ、程よく小さな持て余さないボディサイズ、可能な限り軽い重量──。そんなところを探りながら、クルマ探しをしてみるといい。日本車にも欧州車にも、新車にも中古車にも、それはもう驚くほどたくさんの候補車があることに気づくはず。もちろんそれ以前に誰にだって好みというものがあるのは百も承知だし、少々放言じみてるように思われるかも知れないけど、僕はその候補車の中からどの車種をチョイスしたとしても、実はかなり気持ちよく楽しい日々を過ごせるんじゃないかと確信してるのだ。

 ──なぜか? 理由は明白。ひょいと出掛けるときに自然に選ぶのは、サイズのピタリと合ったスニーカー。フットワークも気分も軽やかだし、疲れないし、無意識に心地良さを感じてるスニーカー。そうでしょ? 要はそういうことなのだ。日々をともに過ごすなら、それがベストチョイス。ましてやフットウェアのようにパッパと履き替えるわけにはいかないのがクルマなのだから──。

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嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。

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