責任と品格

責任と品格

アヘッド 責任と品格

photo:長谷川徹  撮影協力:ウイザムカーズ ファクトリー
Norton Dominator SS ¥5,292,000(税込み、日本限定10台)

モータージャーナリストの責任

アヘッド 責任と品格

text:岡崎五朗 photo:長谷川徹


「なに者にもまして価値のある意見を吐く批評家は大衆である」とマーク・トウェインは言った。これが真実であるならば、人類史上、いまほど「価値のある意見」が溢れている状態はない。アマゾンのブックレビュー然り、カカクコムの家電レビュー然り、みんカラのクルマレビュー然り。ネット上には様々な人の意見が溢れている。
 
実際、僕も家電を選ぶ際には参考にさせてもらっているが、残念ながら決め手を欠くものが多い。わずかな欠点を大袈裟に書きたてたり、自分が購入した製品を賞賛することがそもそもの目的のような内容だったり、あるいは知りたいポイントとずれていたり。

もちろん、キラリと光るレビューも中にはあるけれど、膨大な量の書き込みの中からそれを見つけ出すのはかなり骨の折れる作業になる。かといって、家電の場合、専門家によるレビューはほとんどなく、あったとしても新機能の紹介に終始しているケースがほとんど。カタログには載っていないが実際に使う上で重要な情報を入手するのはとても難しい。
 
ここで自らを振り返る。ならばわれわれ自動車メディアは読者の方々に「価値のある情報」を本当に提供できているのだろうか、と。コールリッジは「批評家たちは自己の才能をためして失敗したので批評家に転向したものだ」と述べた。たしかに僕らはクルマはおろか、ネジひとつすらまともに設計できない。
 
そんなわれわれに誇れるものがあるとすれば、軽自動車からスーパーカーまで、ほぼすべてのクルマに試乗していることだ。開発エンジニアですら他社商品に試乗する機会は意外に少ない現実を考えると、年間150台前後の新車に試乗する職種などおそらく他にはない。

だからこそ、先代モデルとの比較ではなく、ましてや7年乗って下取りに出したクルマとの比較ではなく、いま売られているほぼすべてのクルマたちとの関係性のなかで評価を下せる。そこが、われわれモータージャーナリストの強みである。
 
もう一点、重要なのが自動車メーカー&インポーターの懐の深さだ。こと自動車業界においてメディアと企業の馴れ合いはない。正当な批判であるなら、ネガティブなことを書いても彼らはクレームを付けたりはしない。それどころか、現場のエンジニアからは「批判してもらったおかげでマイナーチェンジに向けた予算を獲得できました」という感謝の言葉をもらうことすらあるほどだ。
 
にも関わらず、弱点には目をつぶり、誉めることを前提で書かれたような記事があるのはとても残念なことだ。もちろん、商品を誉めてもらえばメーカーは喜ぶ。特に広報部や営業部はそうだろう。しかし自車の弱点をいちばんよく分かっているエンジニアはその記事を書いたライターを信用しなくなる。信用されなくなれば取材時に本音を引き出せなくなり、ますますつまらない記事になってしまう。

そして何より、そういったレポートは、僕らの生命線である読者の方々からの信頼を裏切ることになる。目利きのプロに求められるのは「安くて広くて燃費がよくて素晴らしい!」と手放しで誉めることではなく、もし欠点があれば「安くて燃費がよくて素晴らしいけれどここはダメ」と言い切ること。僕がMCを仰せつかっているテレビ番組で紹介するクルマの○と×を明記している理由はそこにある。
 
ワイルドは「批評家はもろもろの美しいものから受けた自己の印象を、別な手法、または新しい材料に移植することのできる人間だ」と述べた。われわれはハードウェアをつくりだすことはできない。けれど様々なクルマに乗った経験から得た有形無形の「いいクルマ像」をそれぞれもっている。

それが一人でも多くの読者の心に届くよう説得力を磨き、責任と勇気をもって発信していくことが、いまモータージャーナリストに求められていると思うのだ。

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text:岡崎五朗/Goro Okazaki
1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』に出演中。

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