大の大人のクルマ事情

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●レクサス RX200t
車両本体価格:¥5,790,000(F SPORT/2WD、税込)
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ
総排気量:1,998cc
最高出力:175kW(238ps)/4,800〜5,600rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1,650〜4,000rpm
駆動方式:前輪駆動
トランスミッション:6 Super ECT(スーパーインテリジェント6速オートマチック)
乗車定員:5名
燃料消費率(JC08モード):11.8km/ℓ

ジャーマンスリー神話の真実

text:岡崎五朗


80年代中頃、バブルを迎えた東京の街にはそれまで見たことがないほどたくさんのメルセデスやBMWが出現した。当時高校生だった僕はと言えば、みんな高いクルマ買ってるなぁぐらいにしか思っていなかったが、免許をとっていろいろなクルマに乗るようになると、ドイツ車の圧倒的な出来のよさに目から鱗が落ちた。ゴルフもスゴかったが、メルセデスの560SELにいたっては、いま乗ってもため息が出るほどの傑作車である。
 
あれからおよそ30年。ドイツ車はいまなお大人気だ。日本の輸入車販売のトップ5を独占し、シェアも軽く6割を超える。いち早く日本に現地法人を設立しディーラーネットワーク整備に注力してきたことや、他の輸入車と比べて信頼性が高かったことなどあるが、成功の最大の理由はハードウェアの優秀性だろう。

持ち前のハードウェア性能に磨きをかけ続けた結果、彼らは「いいクルマといえばドイツ車」というイメージを定着させることに成功した。言い換えれば、圧倒的なハードウェア性能と、それが醸しだすプレミアム感こそがドイツ車の生命線ということだ。
 
気がかりなのは、最近になってその部分に僅かなほころびの気配が出はじめたこと。誤解のないようにいっておくと、ドイツ車は走行性能においても、内外装の作り込みにおいても、エンジンやトランスミッションの開発力においてもいまだ世界をリードする存在だ。しかし、そのアドバンテージがかつてのように「圧倒的」かと問われると、そこまでではないなと。

たとえばメルセデス・ベンツEクラス。現在考え得る最高の先進安全装備や多種多様なパワートレーン、妖しさ満点のインテリアなどは高く評価できるものの、肝心の乗り味が僕の考えるメルセデスクォリティには達していない。ブレーキをかけながら、あるいはカーブを曲がりながら路面の凹凸を乗り越えると、ガツンという角の立った直接的なショックが伝わってくる。

車体や足回りに大きな負荷がかかる状況でも涼しげな顔でショックを吸収してこそ「さすがメルセデス」なのだが、それができていない。Cクラスもそうなのだが、メルセデスを特別な存在たらしめていたある種のオーバークォリティ感は影を潜め、とてもよくできた普通のクルマになってしまった。
 
拡販競争を動機とした車種の乱発も気になる。典型的なのがBMWで、ついに2シリーズグランツアラーという3列シートのコンパクトミニバンにまで触手を伸ばしてきた。そのベースになった2シリーズアクティブツアラーはBMW初のFF。小型SUVのX1にもFFモデルがある。

BMWといえば、「前後重量配分50:50のスポーティーなFR」というクルマ作りをまるで憲法のように大切にしてきたメーカーだ。そのBMWが、そこにマーケットがあるからとFFモデルを出してきたのは、憲法解釈の変更どころか憲法改正に等しい。乗ってみればステアリングやエンジンのフィーリングにはBMW味が漂っているものの、プロポーションは嘘をつかない。

フロントにストレート6を積み後輪を駆動することを象徴するロングノーズと短いフロントオーバーハングは消え去り、そこにあるのは従来のBMW像とはかけ離れたドテッとしたカタチ。キドニーグリルだけがBMWであることを伝えてくる。
 
それでも販売が好調なのはBMWの高いブランドイメージのおかげだ。しかし、あまりカッコよくないクルマにキドニーグリルを付けて売るという行為は、ブランド価値を消耗しながら売っていることであり、今はよくてもやがて立ちゆかなくなるだろう。アウディも「技術による先進」という独自性が薄まり保守的になってしまった。
 
このように、メルセデス、BMW、アウディのジャーマンプレミアム3は熾烈な台数競争をするあまり、自分たちの本来の立ち位置、個性、強みを忘れてしまっているように僕には見える。以前、彼らに抱いていた畏敬の念ともいうべき感情は、いまや尊敬レベルまで低下した。ドイツ車でいまなお畏敬の念を抱けるのはポルシェだけ。これはとても残念なことだ。

とはいえ、この状況を嘆くのではなく、ドイツ車一辺倒だったクルマ選びを見直し、新しい対象に目を向けるチャンスなのだと捉えるのが建設的な態度というものだろう。レクサス、マセラティ、ジャガー、ボルボ、テスラ…世の中にはドイツ車以外の選択肢が豊富に用意され、それぞれが独自の輝きを放っているのだから。

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▶︎メルセデス・ベンツ Sクラスの2代目となるW126。1979〜1991年まで製造販売された。岡崎五朗をして「いま乗ってもため息が出るほどの傑作車」と言わしめた560SELはその中でも上級モデルのロングホイールベース車である。W126はSクラス史上もっとも人気が高く、日本でメルセデス・ベンツを”憧れのブランド”に押し上げた立役者といって良いだろう。

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text:岡崎五朗/Goro Okazaki
1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』に出演中。

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