名車になる条件

アヘッド 名車になる条件

「失敗したくない」と考えるか、「育てよう」と考えるのか 森口将之

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テレビを見ていたら、わが母校の早稲田大学のサークル活動を取り上げていた。驚いたのは、サークル選びを指南するためのサークルが存在したことだ。学業やサークルとの両立を図るためにはバイトは3日にしたらいいとかを、そこでは教えていた。集まった新入生たちは「サークル選びで失敗したくないから」と入会の理由を答えていた。

「失敗したくない」。日本人のマインドを象徴するような言葉だ。農耕民族だからか、島国ゆえか、恵まれているためなのか、理由は分からない。けれど、とにかく僕たち日本人は、リスクを避ける傾向にある。成功することよりも、失敗しないことをまず考える国民性だ。
 
「だから国際社会で勝てないんだよ」という話は脇に置いといて、名車というテーマについても、この国民性が絡んでいるような気がする。誰かが名車を選んでくれるのを待ち、それに相乗りするというパターンだ。一般のクルマ好きだけに留まらず、自動車ジャーナリズムに身を置くプロの面々にも、そういう考えの人は少なくない。

新入生と同じように、「失敗したくない」という意識が強すぎるんじゃないか。別に失敗してもいいじゃない。人間もクルマもやり直しが効くんだから。
 
50年前に登場したポルシェ911は、多くの人が名車として認める1台だが、デビュー直後はハンドリングなどに賛否両論が巻き起こった。半世紀をかけて、欠点を克服したから今がある。つまり生まれた瞬間から名車が決まるわけではない。
 
視点によっても異なる。僕が国産車でお気に入りの1台である「スバル・XV」は、昨年の「日本カー・オブ・ザ・イヤー」では10ベストに残らなかったけれど、「グッドデザイン賞」のベスト100には選ばれた。ベスト100に入った乗用車は、スバル・XVを含めて4台しかない。
 
僕は日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員とグッドデザイン賞審査委員を掛け持ちしているので、両賞の違いを理解しているつもりだ。簡単に言ってしまえば、前者は道路の上を走るモノ、後者は社会の中で使うモノとしての評価に力点が置かれていると考えている。もちろんどちらのジャッジも正しい。

ただ最近の国産車で目につく、価格と燃費だけが取り柄のクルマが、こういう評価を受けるのは難しいだろう。価格や燃費などの数字は、やがて追い越される運命にあるからだ。最近の日本の工業製品に傑作品が少ないのは、数字にとらわれ過ぎているからだと思う。携帯電話の世界を見れば一目瞭然だ。表面的な数字より、奥底にある思想や文化が大切だという気がする。
 
デザイナーやエンジニアに、プロダクトに対する思い入れがあるか。自分たちのブランドを理解し、ブレないものづくりをしているか。僕たちが共感できる思想や文化を持ち合わせているのか。真の評価はそこで決まると思っている。スバル・XVはその条件を満たす、異色の国産車ではないだろうか。

「スバル・インプレッサ」のデザイナーにインタビューしたときのこと。彼の口から出た、「二枚目ではなく野武士を目指した」という言葉が忘れられない。グリルをガッと開け、ライトを見開いて、しっかり主張するのがスバルのデザインだという。その瞬間、開発の本拠地が群馬県であることを思い出した。

今の国産車では1位、2位を争うほどスタイリッシュなのに、「かかあ天下とからっ風」の気風が伝わってくる。フォルクスワーゲンからドイツらしさ、ルノーからフランスらしさを感じるのと同じ。スバルらしさを感じるのだ。しかも中に収まる水平対向4気筒エンジンと左右対称4輪駆動のメカニズムは、40年以上の歴史を誇る。同じように4WDをウリとしているアウディより歴史が長い。それに、XVはスバル初のハイブリッドカーにも選ばれた。メーカーが力を入れている証拠だ。

40年前に日産と提携していたスバルは、今ではトヨタと手を結んでいる。これに限らず、スバルの歩みは順風満帆ではなかった。でも水平対向エンジンと4WDを止めなかった。むしろ燃費は良くなり、4WDは電子制御になるなど、着実な進歩を果たしている。ブレないものづくりの典型と言える。

世の中には、国産車は名車になれないとか、スポーツカー以外は名車として認めないとかいう人もいるので、万人が僕の意見に賛同はしないだろう。でもスバル・XVは、少なくともデザイン筋からは高い評価を得ているし、思想や文化も感じられる。あとは僕たちが育てていけばいいだけの話。そうすれば「失敗したくない」人たちもついてくるはずだ。

SUBARU XV
総排気量:1995cc
最高出力:110kW(150ps)/6200rpm
最大トルク:196Nm(20.0kgm)/4200rpm
車両本体価格:¥2,467,500(2.0i-L EyeSight)
SUBARUコール:TEL 0120(052215)

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text:森口将之/Masayuki Moriguchi
1962年東京生まれ。モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・テレビ・ラジオ・講演などで発表。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、グッドデザイン賞審査委員を務める。著作に「パリ流 環境社会への挑戦」「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」など。

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