パリジェンヌ Parisienne

アヘッド パリジェンヌ

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“パリジェンヌ”——日本人の女性にとって、この言葉は特別な響きをもっている。絶対的な憧れと、少しの引け目。私たちがパリの女性たちから学べることは何だろう?旅行者以上在住者未満の嶋田智之氏が、絶妙の距離から見つめる“パリジェンヌ”とは…。

text:嶋田智之 photo:神戸シュン(モノクロ)/嶋田智之(カラー) [aheadアーカイブス vol.125 2013年4月号]
よくもこれほど毎月毎月…と思うほど、いつも必ずどこかの女性誌の表紙に、〝パリ〟という文字が踊ってる。流行りのファッション、コスメ、メイク、ショップ、ビストロにカフェにプチホテル。次々にネタを見つけたり創り出したりする手練には感心させられるばかり。しかもそれは昨日や今日に始まったわけでもない。〝パリ〟というキーワードはやっぱり普遍なんだな、と感じる。

いきなり鼻持ちならないことをいうようだけど、僕は自動車関連のモノ書きでありながら、全く種類の違う身内の仕事に関連して、パリに滞在していることも少なくない。年に4回〜7回、期間は現地2日から半月近くとまちまちだけど、そんな暮らしを10年近く続けてる。
全てがキラキラと輝いて見える旅行者の段階はとうに過ぎていて、市内であれば住所を頼りにどこにでも行けるが、といって現地の社会に溶け込んでるわけでもない。いわば宙ぶらりんの状態で街を歩いたり人と会ったりする、半端な滞在者だ。

でも面白いことに、慣れきってるわけでも溢れるような感動に包まれるわけでもない、どっちつかずの状態だからこそ気づくことというのもあるらしい。

そのひとつが、いわゆるパリジェンヌ達が美しく見える謎、だった。僕のそうした事情を知る人達から、ときどき何かのついでに「パリの女性って本当に綺麗だよね」みたいに言われることがあるから、おそらく滞在中にボンヤリと観察してたのだろう。

いつしか「これは日本のメディアで見かけがちな〝パリジェンヌのメイク術〟だとか〝この着こなしであなたもパリジェンヌ〟なんていう記事をマネしたところであまり意味はないな」と考えるに至ったのだ。重要なことは、きっとそんな表面的な部分にはないのだろう、と──。
確かに総体的な女っぷりのよさではパリジェンヌこそ世界断トツかも知れない、と感じるところはある。 本来的には戸籍上の〝パリ市内の病院で生まれた〟女性を表すものであり、転じて今ではパリで暮らす女性、パリで生まれ育った女性、パリで仕事をしている女性の総称となっているパリジェンヌ。

日本のメディアがこぞって讃美の言葉を重ねるパリジェンヌ。けれど彼女達は本当の本当に、誰もが羨むような容姿に恵まれた美女達なのだろうか?

その答えはイエスであり、そしてノーでもある。驚くほど整った顔立ちや男の目が釘付けになっちゃうような姿態を持つ恵まれた人は、やはり少数派。
丸顔の人も四角い顔の人も、目々パッチリな人も切れ長シャープの人も、鼻の小さな人もコロンとした人も、スレンダーな人もふっくらした人も、パリジェンヌにだって色んなタイプの女性がいるわけで、単純に人体の造作だけでモノを申すなら、パリの女性達だけが特別なわけでもないのだ。

けれど不思議なことに、個々の女性それぞれを全体像として捉えると、とっても綺麗に感じられる。というか〝綺麗〟という一面観の単語じゃなく、〝美しい〟〝魅力的〟という多面性のある言葉の方がしっくりくるかも知れない。ひとりひとりがしっかりと輝きを放っていて、誘われたら男として断ることはできないな、と思わせられるほどだ。誰も誘ってくれないだけで。
彼女達はメイクの仕方ひとつ、服の着こなし方ひとつ、どこをとっても実はとても個性的で、もちろん流行じみたものはあるのだろうけど、その枠内なんかには決して収まったりしていない。ブランド物に頼ったりなんかもしていない。

それに、ここに気づいたときにはかなり新鮮で感動的ですらあったのだけど、例えばキツめの顔立ちの女性は目元をさらにシャープに見せるようなメイクを施して安易に微笑んだりもせず、ときどきニコリと笑ったときのギャップで魅せてくれる。例えば唇がふっくらと大きめの女性は、わざと派手めなルージュでくっきりと形どって、艶かしい時間を連想させる。

例えば標準よりふくよかな女性は、ことさら体にピタリとした衣を身につけて、そのやわらかさと豊かさを強調する。ともすればコンプレックスに感じてしまいがちな自分の特徴的な部分を、他人に真似することのできないチャームポイントに昇華させているのだ。
加えてもうひとつ。小娘達よりも大人の女性達に美しい人が多い。30代、40代、50代の女性達にこそ、人目を惹きつけるようなオーラをまとっている人が多いのだ。ふとした瞬間にコドモが頑張っても醸し出せない色香をさらりと匂わせ、艶然としてる。

そしてそれは日本のいわゆる〝美魔女〟達と違い、外側ばかりひたすら念入りに整えた結末なんかじゃなく、もっと内側から滲み出てくるような類のものに感じられる。

それらは一体どういうことなのか、残念ながら僕には説明する言葉が見つけられない。女っぷりのいいパリジェンヌに秘密をピロートークで教えてもらえるほど男っぷりがいいわけでもない。

そこで2月の渡仏のとき、古くからの友人でもあり、自らを〝世界美女ウォッチャー〟と称する皮膚科専門医にして美容ジャーナリスト、岩本麻奈先生に教えを請うてみた。彼女はフランス在住17年、パリ在住14年。肌だけに留まらず、日本人女性を美しくするための様々な活動を、日仏間を往復しながら展開してる著名な美容専門家だ。

「フランスは〝個〟を重んじるお国柄だから、個性というものをとても大切に考えるんです」。
 
という言葉から始まった麻奈先生のお話は比較文化論的にも興味深いもので、全てをお伝えしたいところだが、ここは要約するしかなかろう。
 
そもそも、フランス人にとっては〝自分はどうあるべきか〟が最も重要で、他人を基準にしたりはしない。見た目も中身も自分のいいところはどこか、それを活かすにはどうすべきか、自分をもっと高めていくにはどうするべきか、ということを自然に考えて行動に移す習慣が身についてる。つまりパリジェンヌ達は幼い頃から個性と自分なりの美を並行して育んできてるわけだ。

だからオリジナリティのある魅力的な女性に育つのは当たり前といえば当たり前。加えて自分の努力でそれらを得てきた実感が自信に繋がり、それがさらに女性を美しく見せる。その流れは年令を重ねても変わらず、むしろ年々磨かれていく感性、仕草、風体、センス、増えていく知識、教養、人生経験といった全てが糧になり、大人の女性の女っぷりはさらに上がっていく。

「トシだから」「母親だから」と〝女〟であることを抑制したりはせず、いつまでも〝女〟であることを楽しんでいる。若い娘も大人の女性も常に恋愛を強く意識していて、相手を自分に夢中でいさせ続けるため、手抜かりなしに自分の魅力を追求しようとし続ける──etc。

僕の疑問はそれでかなり解消されたわけだが、もうひとつ「なるほど!」と感じさせられた言葉があった。

「でも、そうだなぁ…負の気持ちを溜め込むのが嫌いな人達だから、ときとしてダイナミックに思えるほどストレートな行動に出るんです。そのストレスのない生き方が、パリジェンヌを魅力的でいさせる一番の要因なのかも知れませんね」。

視線の先には40代前半らしい女性の乗る小さなルノーがあった。僕達のいたサンジェルマン通り沿いのカフェの前を、信号が変わるやいなや元気よくスタートし、2速で引っ張って全開で加速していく。楽しそうな横顔──。なるほど、クルマもちゃんとこうして一役かってるわけか。


お国が変われば文化も環境も変わる。それは確か。けれど、近頃の日本が、昔の〝標準こそ正義〟みたいな雰囲気から逸脱した人達に対して寛容になってるのも確かだ。パリジェンヌ達のように、日本の女性達が自分の個性を大切にした〝自分だけの美しさ〟を追求するようになれば、雑誌やテレビといったメディアが量産する〝他人の価値観〟じゃなく〝自分の価値観〟に則った自分の魅力を見つけることができたら、きっと女性達は精神的にも(そして経済的にも)楽になるだろうし、結果、街の風景も変わるんじゃないか? と思う。

上機嫌な女性が増えれば周りの男達もつられて御機嫌になるから、それは〝風が吹けば桶屋が儲かる〟式に世界平和に繋がったりもするんじゃないか? なんて思ったりもする。

僕は日本人女性こそ世界一だと思ってるから、悩みや迷いを押し付けられがちな日本の女性達に、エールを贈りたい気持ちで一杯。がんばれ! じゃなくて、女性ならではの人生を臆することなくのびのびと楽しんで、と。そして僕達男どもを、思う存分に惑わせたり泣かせたり微笑ませたりして欲しい。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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