ブランドとは何か

世界中の メディアを集めた 「NISSAN360」 世良耕太

アヘッド ブランドとはなにか

日産自動車は「NISSAN360」と題したイベントをロサンゼルスの近郊に位置するアメリカ・カリフォルニア州アーバインで開催した。会場は元飛行場。このフラットで広大な土地に、プレゼンテーションを行う仮設のホールを設営しただけでなく、全開で周回するのに、1分近く掛かるハンドリングコースを設けたり、オフロード専用の走行路を設けたりした。

試乗車は約130台で、「日産」がグローバルに展開するモデルをそろえた。日本でおなじみの「ノート」もあったが、ヨーロッパで販売する5速MTのディーゼル仕様だったり、日本では展開のない〝インフィニティモデル〟が並んでいたりする。また「NV400」や「フロンティア」といった商用車、トラック・バスまでそろっていた。

アメリカで発売になったばかりの「インフィニティQ50」(日本では「スカイライン」として発売されるはず)は目玉のひとつだったし、同乗走行とはいえ「GT-R・GT3」というレース車両に乗れたり、「GT-R」のパワートレーンを「ジューク」のボディに押し込んだ「ジュークR」にも試乗できた。執行役員のひとりは「クルマ好きのディズニーランド」と評したが、言い得て妙な表現である。

開催期間は約1ヵ月。その間、世界中のメディアやジャーナリスト数百名を集めた。なぜか。「日産自動車はクルマが好き。クルマを必要とする世界中の人に対してどんなことができて、どのようなことをしようとしているのかを、このイベントを通じて感じ取ってほしい」という思いからである。

「NISSAN360」の「360」には、360度いろんな角度から日産の活動を体感し、理解してほしいという願いが込められている。第1回は、’04年にサンフランシスコで開催された。そのときのテーマは「業績の転換と回復」だった。’08年にポルトガルで開催された第2回のテーマは「グローバルな事業の拡大と成長」。そして今回のテーマは「ブランド戦略」だ。

日産自動車は「日産」ブランドと、プレミアムブランドの「インフィニティ」の2本立てで長らく展開してきたが、しばらく眠っていた「ダットサン」を最近復活させた。3本柱になったところで、それぞれのブランドの位置づけや戦略を明確にしておこうという意図である。

「日産」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。〝技術の日産〟だろうか、モータースポーツ活動に積極的なイメージだろうか。それとも「リーフ」のイメージから、電気自動車が思い浮かぶだろうか。個々の製品が気に入る、気に入らないより以前に、「日産だから安心」「日産だから大丈夫」と思わせるのがブランドの価値というものである。

その価値をひもとくと、競合他社との差別化にたどり着く。「日産」にはあって、他のブランドにないものは何だろうか。「リーフ」のようなイノベーションを象徴するクルマと、「GT|R」のようなエキサイトメントを具現化したクルマの両方をそろえているブランドは珍しい。でも、それだけでは不十分。「日産」の強みは、先端のテクノロジーもスーパースポーツも大衆化してしまうこと。それが「日産」らしさで、多様性と言い換えてもいい。

一方、プレミアムブランドの「インフィニティ」は、明確な方向性がある。80年の歴史を持つ「日産」は確固とした地位を築いているが、後発の「インフィニティ」はチャレンジする立場だ。「BMW」や「アウディ」を選択していた層を振り向かせなければならない。それには何より差別化が大事だ。

香港という世界都市に「インフィニティ」のグローバル本社を設立したのは、差別化のためのアイデアをひねり出すための策だという。「インフィニティ」がF1でトップに君臨する「レッドブルレーシング」のタイトルスポンサーとテクニカルパートナーを務めるのは、技術の進歩を追い求め激しい競争を生き抜くという意味で、本質的に共通しているという考えからだ。

最新の「Q50」は、3年連続F1チャンピオンを獲得した「セバスチャン・ベッテル」が開発に携わっているが、それこそが「インフィニティ」の価値だと認めるユーザーもいるだろう。
 
以前、「日産」に統合した「ダットサン」を復活させたのは、インドやインドネシア、ブラジル、ロシアといった新興国において、新たなブランド価値を定着させるためだ。これら新興国では、初めて買うクルマとして「ダットサン」を検討してもらいたい。

そのためには、信頼性が高いといった、〝旧ダットサン〟が備えていたイメージはそのままに、初めてクルマを買うユーザーが自ら満足し、家族や周囲に自慢したくなるような存在である必要がある。それが、〝新生ダットサン〟の価値だ。

新興国では「ダットサン」が急成長を遂げ、プレミアムブランドでは「インフィニティ」が競合を蹴散らし、グローバル市場における多様化したニーズに対しては、大衆化した「日産」が受け止める。そうして16年度までにグローバルの市場占有率8%を達成するのが中期的な目標だ。

実にチャレンジングだが、南カリフォルニアの広大な敷地に集まったクルマはどれも個性的かつ魅力的で、日産自動車の人々はモチベーションにあふれていた。とても「絵に描いた餅」とは思えない。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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