ブランドとは何か

アヘッド ブランドとはなにか

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良い製品、良いクルマを作れば売れるという時代は過去のこと。世界的に有名な自動車メーカーであってもそれは同じ。特にクルマという商品は、ブランドイメージに売り上げが大きく影響されるという。

日本でもトヨタや日産が「レクサス」、「インフィニティ」といった自社名を名乗らないブランドを立ち上げて久しい。なぜ同じメーカーでありながら別ブランドが必要なのか、クルマのブランドとは何を意味しているのか。そして今、クルマはブランドの変革期に来ているという。

text:まるも亜希子、世良耕太、小沢コージ photo:長谷川徹 写真提供・日産自動車  [aheadアーカイブス vol.131 2013年10月号]
Chapter
25周年を迎えた 「レクサス」の第二段階 まるも亜希子
世界中の メディアを集めた 「NISSAN360」 世良耕太
日本人的ブランド構築論 小沢コージ

25周年を迎えた 「レクサス」の第二段階 まるも亜希子

夏の終わりに、一通のインビテーションが届いた。ファッションブランドの新しいショップがオープンしたか、新進気鋭のシェフがレストランを構えたか。そんな印象を受けたあと、贈り主を見て驚いた。記されていた「Lexus International」とは、昨年6月に独立したレクサスのヘッドオフィスである。そして、はじめのひと言がスッと心に響いた。

〝都市とつながり、人と人、人とクルマが交わる〟。こんなテーマのもとに、レクサスが考えるライフスタイルを体験できるスペース「INTERSECT BY LEXUS TOKYO」が、南青山にオープンしたという。これまでのレクサスが持っていたラグジュアリーな空気感は同じながら、もっとずっと開放的でフレンドリー。コーヒーでも飲みに、ぶらりと立ち寄ってみたいと自然に思えた。

1989年にアメリカで誕生した「レクサス」は、もうすぐ25周年になる。順調に成長を続け、今では安定した顧客に恵まれているものの、エントリーユーザーの獲得競争は熾烈さを増すばかり。その中でどう勝ち残っていくのか。そして日本への導入は2007年と、若いブランドゆえ、「セルシオ」などトヨタのかつてのプレミアムモデルが、いまだに見えない敵となっている。

メルセデス・ベンツ、BMW、アウディというドイツのプレミアムブランド御三家の牙城を、どう打ち崩していくのかも悩ましい。こうした課題をそれぞれに抱える中で、今、レクサスは大きく変わり始めた。レクサスはどこへ向かっていくのだろうか。
それについてコメントを仰いだ、Lexus International PRコミュニケーション室長・本間英章氏の言葉は印象深かった。

「我々は覚悟を決めました。これまで、日本から生まれた初めてのグローバルブランドとして、その価値を発信してきたつもりでしたが、もしかするとまだ甘いところがあったかもしれません。でも今回は、レクサスを真の意味でのグローバルプレミアムブランドとして確立していくという覚悟を決め、そのためにさまざまな取り組みを行っています」

まず最初にやったことは、とことん議論することだった。ブランドとは何か。ラグジュアリーとは何か。デザインへの意識や、社会性、自然回帰についてなど、社外の人の意見にも積極的に耳を傾け、これからのレクサスというブランドの価値観を突き詰めていったという。とくに、レクサスが持つべきブランド価値として、大きく3点を明確にした。

ひとつは「ひと目でそれと分かるデザイン」だ。これまでレクサスは、車種ごとにガラリと違ったデザインを採用していたが、スピンドルグリルに代表されるように、思い切ったイメージチェンジをし、レクサスとして統一したデザインを取り入れている。ふたつめには、エモーショナルな走りなど、動力性能もアドバンテージを持つことだ。

アウトバーンを日常的に使うことを想定したドイツ御三家。それと並ぶくらいに走りを磨くことを自らに課したことになる。そして最後は、最先端の技術を取り入れることである。これは、世界をリードしているハイブリッド技術、環境技術を柱としていくことだ。この3点は新生レクサスへの布石として、昨年フルモデルチェンジした「GS」から展開している。

そして次は、それをどうコミュニケーションしていくかだ。「昔のトラディショナルなラグジュアリーではなく、プログレッシブ・ラグジュアリーを伝えたいということです。ゴージャスではなく、コンフォタブル。排他的ではなく、開放的。そういったものを提案できるブランドでありたいと思っています」と本間氏。しかもそれには、時代を先取りしていくスピードが欠かせない。「Lexus International」への組織改革は、意思決定のスピードを得るためでもあったというから、レクサスは本気だ。

実際に訪れてみた南青山のスペースは、壁一面のオブジェやテーブル、本棚、カップやシュガーポットなどすべてがセンスよく、過ごす時間や人を思いやる温かさがあり、とても居心地が良い。客層は若い女性グループから、打ち合わせらしきクリエイティブ系の人たち、ひとりくつろぐ男性など、周辺のカフェやバーと変わりない。

そもそも、銀座でも六本木でもなく南青山という場所のチョイスが、すでにこれまでのレクサスとは違うことを物語る。

「ただ来客数を稼ぎたいのであれば、銀座だったでしょう。でも我々は成果を急ぐのではなく、別の指標を持っています」。

クルマに乗らずとも、レクサスの価値観を共有してもらいたい。そしていつかクルマを買う時に、レクサスを思い浮かべてもらいたいのだと。何年掛かるか分からない。伝わるのかどうかも分からない。でも、それをやらなければ真のグローバルプレミアムブランドへのストーリーは始まらない。覚悟を決めた「レクサス」の姿は、日本が世界に誇るべきサムライと重なっている。
INTERSECT BY LEXUS -TOKYO
住所:東京都港区南青山4-21-26
TEL:03(6447)1540
営業時間:1F CAFE&GARAGE 9:00〜23:00
               2F LOUNGE&SHOP 11:00〜23:00
URL:www.lexus-int.com/jp/intersect

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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。
ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

世界中の メディアを集めた 「NISSAN360」 世良耕太

日産自動車は「NISSAN360」と題したイベントをロサンゼルスの近郊に位置するアメリカ・カリフォルニア州アーバインで開催した。会場は元飛行場。このフラットで広大な土地に、プレゼンテーションを行う仮設のホールを設営しただけでなく、全開で周回するのに、1分近く掛かるハンドリングコースを設けたり、オフロード専用の走行路を設けたりした。

試乗車は約130台で、「日産」がグローバルに展開するモデルをそろえた。日本でおなじみの「ノート」もあったが、ヨーロッパで販売する5速MTのディーゼル仕様だったり、日本では展開のない〝インフィニティモデル〟が並んでいたりする。また「NV400」や「フロンティア」といった商用車、トラック・バスまでそろっていた。
アメリカで発売になったばかりの「インフィニティQ50」(日本では「スカイライン」として発売されるはず)は目玉のひとつだったし、同乗走行とはいえ「GT-R・GT3」というレース車両に乗れたり、「GT-R」のパワートレーンを「ジューク」のボディに押し込んだ「ジュークR」にも試乗できた。執行役員のひとりは「クルマ好きのディズニーランド」と評したが、言い得て妙な表現である。

開催期間は約1ヵ月。その間、世界中のメディアやジャーナリスト数百名を集めた。なぜか。「日産自動車はクルマが好き。クルマを必要とする世界中の人に対してどんなことができて、どのようなことをしようとしているのかを、このイベントを通じて感じ取ってほしい」という思いからである。

「NISSAN360」の「360」には、360度いろんな角度から日産の活動を体感し、理解してほしいという願いが込められている。第1回は、’04年にサンフランシスコで開催された。そのときのテーマは「業績の転換と回復」だった。’08年にポルトガルで開催された第2回のテーマは「グローバルな事業の拡大と成長」。そして今回のテーマは「ブランド戦略」だ。

日産自動車は「日産」ブランドと、プレミアムブランドの「インフィニティ」の2本立てで長らく展開してきたが、しばらく眠っていた「ダットサン」を最近復活させた。3本柱になったところで、それぞれのブランドの位置づけや戦略を明確にしておこうという意図である。

「日産」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。〝技術の日産〟だろうか、モータースポーツ活動に積極的なイメージだろうか。それとも「リーフ」のイメージから、電気自動車が思い浮かぶだろうか。個々の製品が気に入る、気に入らないより以前に、「日産だから安心」「日産だから大丈夫」と思わせるのがブランドの価値というものである。

その価値をひもとくと、競合他社との差別化にたどり着く。「日産」にはあって、他のブランドにないものは何だろうか。「リーフ」のようなイノベーションを象徴するクルマと、「GT|R」のようなエキサイトメントを具現化したクルマの両方をそろえているブランドは珍しい。でも、それだけでは不十分。「日産」の強みは、先端のテクノロジーもスーパースポーツも大衆化してしまうこと。それが「日産」らしさで、多様性と言い換えてもいい。
一方、プレミアムブランドの「インフィニティ」は、明確な方向性がある。80年の歴史を持つ「日産」は確固とした地位を築いているが、後発の「インフィニティ」はチャレンジする立場だ。「BMW」や「アウディ」を選択していた層を振り向かせなければならない。それには何より差別化が大事だ。

香港という世界都市に「インフィニティ」のグローバル本社を設立したのは、差別化のためのアイデアをひねり出すための策だという。「インフィニティ」がF1でトップに君臨する「レッドブルレーシング」のタイトルスポンサーとテクニカルパートナーを務めるのは、技術の進歩を追い求め激しい競争を生き抜くという意味で、本質的に共通しているという考えからだ。

最新の「Q50」は、3年連続F1チャンピオンを獲得した「セバスチャン・ベッテル」が開発に携わっているが、それこそが「インフィニティ」の価値だと認めるユーザーもいるだろう。
 
以前、「日産」に統合した「ダットサン」を復活させたのは、インドやインドネシア、ブラジル、ロシアといった新興国において、新たなブランド価値を定着させるためだ。これら新興国では、初めて買うクルマとして「ダットサン」を検討してもらいたい。

そのためには、信頼性が高いといった、〝旧ダットサン〟が備えていたイメージはそのままに、初めてクルマを買うユーザーが自ら満足し、家族や周囲に自慢したくなるような存在である必要がある。それが、〝新生ダットサン〟の価値だ。

新興国では「ダットサン」が急成長を遂げ、プレミアムブランドでは「インフィニティ」が競合を蹴散らし、グローバル市場における多様化したニーズに対しては、大衆化した「日産」が受け止める。そうして16年度までにグローバルの市場占有率8%を達成するのが中期的な目標だ。

実にチャレンジングだが、南カリフォルニアの広大な敷地に集まったクルマはどれも個性的かつ魅力的で、日産自動車の人々はモチベーションにあふれていた。とても「絵に描いた餅」とは思えない。
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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

日本人的ブランド構築論 小沢コージ

今や何かと「ブランディング」が叫ばれる時代である。自動車メーカー、家電メーカーはもちろん、食品メーカー、アパレルメーカー、あげくの果ては個人までもがブランディングだ。確かに個々のプロダクト以上に、企業なり、ブランド全体のイメージが大切なのも分かる。だが、自分にはどうもピンと来ない。

先月参加した「NISSAN360」もそうだった。これは今回で3回目になる恒例のグローバルイベントで、文字通り日産自動車を〝360度〟味わい尽くすといった主旨のイベントのことだ。今回はカリフォルニアのアーバインで行われたが、日本でお馴染みの「GT-R」や「ジューク」のようなクルマはもちろん、北米専用の「タイタン」のようなピックアップトラックからアチラがメインのSUV、「インフィニティQX」シリーズ、来年発売予定のセダン、「インフィニティQ50」、中国で発売されている「ヴェヌーシアD50」、「R50」。さらに今後インドで展開する「ダットサンGO」のショーモデルまで展示されていた。

まさに世界はブランディングの時代なのだ。確かに「日産」ってこんなグローバルなクルマを作っていたんだとイメージは変わった。しかしこれは、日本人主導ではなく、外国人が運営しているのではないかというのも感じられた。それはいつの間にやら〝カラー道着〟が導入された「JUDO」のようなものと同じ。そして我ながら日本人はブランド展開に疎いと思ったのだった。
先日別のメーカーのエンジニアと会話していると「良いモノさえ作れば評価されると思ってましたが、グローバルで考えると『良いモノの基準』すら変わってくる。今後はもっと考えないと」と語っていた。まさにその通りで日本人は未だに心の奥底で「良いモノを作っていればいつかは…」と思っている部分がある。

特にエンジニアはそうなると思う。それは「良いことをすれば神様が見てる」と子供に教えてるようなもので、要は作り手が語るなんて野暮。できあがったモノを見てくれの世界だ。それは個人のアピールも同様で未だに「男は黙ってサッポロビール」みたいな文化がある国なのだ。

だが、やっぱり良く喋るヤツには敵わない。それは恐ろしく可愛い子が、良く喋るロンドンブーツの片割れみたいな男と付き合う状況に似ている。僕らは実は逃げているのだ。「自分をプレゼンする」という状況から。未だに日本はクチ込み社会で「回りに褒められた方が上に行ける」「出る杭は打たれる」という状況もあり直接アピールは好まれない。
だが、「NISSAN360」を見て思うが、世界は自画自賛の時代なのだ。それを上手に出来ないと負けるのだ。実はそこに我々日本人の最大の矛盾があり、一歩世界に出れば自画自賛が求められるが、国内では〝出る杭は打たれる〟。だから「NISSAN360」みたいなイベントが最初はピンとこなかったのだ。

久々にこのイベントで会った高校時代の同級生は、一見外国人みたいなオーラを放っていた。つくづく自分はまだまだだと思ったのだった。

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text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の “バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、トヨタ iQなど。
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