粋 〜クルマの美学〜

粋 〜クルマの美学〜

アヘッド 粋

photo:長谷川徹


粋であるということは、ある価値観を持った美意識であり生き様なのである。
果たしてクルマやバイクを粋に乗るとはどういうことなのだろうか。
本来、粋を語ること自体が無粋であり野暮なことだと思う。
しかし今回はクルマやバイクに関わる粋を考えてみたい。


●レクサス GS F
車両本体価格:¥11,000,000(税込) 
エンジン:V型8気筒DOHC 総排気量:4,968cc
最高出力:351kW(477ps)/7,100rpm
最大トルク:530Nm(54.0kgm)/4,800-5,600rpm

●トライアンフ スラクストン 1200R
車両本体価格:¥1,790,000(税込)
排気量:1,200cc
最高出力:97ps(72kW)/6,750rpm
最大トルク:112Nm/4,950rpm

ジャガーにみる英国流の粋

アヘッド 粋

text:吉田拓生


粋という言葉はよく見かける活字だが、それを詳しく表現することは難しい。我々は普段、カッコイイことをひっくるめて「粋」としてしまっているからである。そんな体たらくなので「クルマ世界の粋とは?」というテーマを掲げられて大いに頭を悩ませた。

スタイルがカッコイイということであればスポーツカーとも符合するし、ブランドがカッコイイのであればそれは高級車ということになる。混沌とした定義の中でひとつだけ確かなことは、現代車の中で「粋」が薫るのはジャガーである、ということである。

先日、本邦デビューを果たした新型のジャガーXFに乗り込んで、その室内の狭さにニヤリとさせられた。狭いと言うと語弊があるのだけれど、ジャガーは伝統的に車格に対して室内がタイトに感じられるように設えられているのである。

これは、室内をミリの単位で広く確保しようとする、所謂大衆車とは全く異なる趣向から生まれる産物だ。ウエストラインも高く、グラスエリアも決して広くはないので室内は暗くなり、その空間の中でスポットを当てたいところにだけ光が当たって、陰影の見事な「粋」な小空間を作り出す。

粋な英国車、というと王室であったり貴族的といった言葉が思い浮かぶ。だが貴族が階級制度の上に成り立っていることを忘れてはならない。ジャガーの創始者であるサー・ウィリアム・ライオンズの名前に箔を与えるサーの称号は、ジャガーという自動車メーカーをイギリスを代表するようなブランドとして作り上げた功績に対するものであり、ライオンズの出身が貴族だからというわけではない。

アヘッド 粋

ジャガーの前身はスワローサイドカーカンパニーと言って、読んで字の如くモーターサイクルに装着するサイドカーを作る工場だった。

スタイリッシュなサイドカーで一世を風靡することに成功したライオンズは、次に大衆車オースティン・セブンのボディをスタイリッシュなものに交換する業務に手を染め、これも成功させた。こうした「スタイリッシュたらん」という意思で下積みを続け、よくやく自らの「ジャガー」に辿り着く。

つまりジャガーは、チャールズ・スチュワート・ロールスのロールス・ロイスやライオネル・マーティンのアストン・マーティンのように出自が貴族的なわけではないが、ブランドが誕生した瞬間から高級車であり、飛びっきりの「粋」を身に着けていたのである。

しかし粋なジャガーが創始者の閃きひとつで生み出されることがないのも事実で、英国には様々なお手本が存在した。アームストロロング・シドレィやインヴィクタ、ディムラー、リーフランシス等々。さらにはタルボ・ラーゴやヴォワザンといったフランスのクルマにも影響を受けているに違いない。

クルマ世界における「粋」とは、ことほど左様に、人物ではなく国が、そして国というよりも国の歴史が作り上げてきたようなところがある。だからこそ技術的な視点から徹底的に速さに拘ってクルマ作りをしてきたドイツ車や、便利さを追求した日本車には「粋」を感じることができないし、前輪駆動ばかりになってしまった現代のフランス車からも、「粋」な精神は蒸発してしまっている。

現代のアメリカ車ではキャデラックがかなり頑張って再び「粋」な匂いを発しているが、それだってタッカーやデューゼンバーグといった歴史的な流れがあるからこそ作り込める。

クルマに例えればイメージとしては理解してもらえると思うのだけれど、それでもやはり「粋」という言葉をはっきりと説明するのは難しい。だがそれこそ、我々がクルマのみならず、あらゆる英国的なものに憧れる気持ちの源泉となっているに違いない。

アヘッド 粋

● ジャガー XF
車両本体価格:¥6,680,000(25t PRESTIGE、税込) 
総排気量:1,998cc
最高出力:177kW(240ps)/5,500rpm
最大トルク:340Nm(34.7kgm)/1,750rpm

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text:吉田拓生/Takuo Yoshida
1972年生まれのモータリングライター。自動車専門誌に12年在籍した後、2005年にフリーライターとして独立。新旧あらゆるスポーツカーのドライビングインプレッションを得意としている。東京から一時間ほどの海に近い森の中に住み、畑を耕し薪で暖をとるカントリーライフの実践者でもある。

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