"女性とクルマ"のコンシェルジュでありたい

クリックして開いた画面は、まるでファッション誌の特集を見ているように、すっと心に寄り添った。インテリア小物やファッショングッズの紹介もあれば、今度の休日に真似したくなるような旅のレポート、持って出掛けたい手作りランチメニューまで。登場している女性たちの笑顔には、なんだか元気をもらった気持ちになり、いつしか夢中で眺めてしまう。そんなウェブサイトが『カーユニウーマン』だ。

従来、「女性とクルマ」を題材にした雑誌やウェブサイトは、なかなか女性たちに受け入れられないことが多かった。広告がらみで内容が偏っていたり、制作側が男性ばかりでコンセプトが的を射ていなかったり、理由はさまざま。長く自動車業界に身を置く私自身、この『ahead』の女性版に出会うまでは、どんな女性向けのクルマ記事を見ても心惹かれることはなかったし、自分でトライしようとして失敗したこともあった。『カーユニウーマン』は、そんな私から見て理想的な世界だったが、少なくとももうひとり、そう感じた女性がいたようだ。それが、本誌の若林葉子さんだった。

まだ梅雨明け切らぬ東京で、若林さんと私は『カーユニウーマン』を運営するオフィスタマの代表、鈴木珠美さんに会いに行った。いったいどんな女性が、どんな気持ちで、どんなふうに運営しているのだろう。若林さんはそう素直に興味を持ったという。

出迎えてくれた鈴木さんは、ふわりとした笑顔がキュートな、それでいて聡明な雰囲気ただよう素敵な女性だ。サイトで紹介されているグッズがディスプレイしてある、オシャレな隠れ家のような空間で、私たちは鈴木さんの生い立ちから聴きはじめた。

「本当は、というか今でもなんですけど、作家になるのが夢なんですよ」 いきなりの意外な言葉に驚きつつも、どんどん引き込まれていく。

三重県鈴鹿市出身、父親が鈴鹿サーキットの仕事に携わるという環境で育った鈴木さんだが、男まさりになることなく、柔らかな心を持つ女性として育ったことが窺える。「作家になるには、まず裏方を学んだ方がいいだろうと思って、もう小学生くらいから出版社に入りたいと思っていました。雑誌づくりにも興味があったんです」 クルマ雑誌ではなく、好きなファッション誌の編集者を目指したが入社試験に落ちてしまい、本人いわく救ってくれたのが自動車全般の専門誌をメインに扱う三栄書房だった。

アヘッド 女性とクルマ

「やりたい雑誌とはぜんぜん違う世界でしたけど、『オートスポーツ』は小さい頃から家にあったので、馴染みがありました。サーキットにも慣れていたし、マシンの音や走る姿、ガレージの開く音なんかが好きだったんです。でも、車種が分からない、ドライバーの顔も名前も分からない。配属になった時には、もう必死で覚えました」

そしてようやく知識が追いついてきた矢先に、異動になった。カスタムやチューニング系雑誌の王様、『オプション』編集部である。「この時は泣きましたね。クルマの専門知識が必要なことはもちろん、編集部員は自分でカスタムしないと仕事にならないという感じだったので、ぜったい無理だと絶望的な気持ちになったんです」 それでも、鈴木さんは逃げ出したりしなかった。カスタムするにはまず、クルマの構造を隅から隅まで知らないと話にならない。「もう人生でいちばんと言えるほど、受験の時よりも猛勉強しました。カムシャフト(エンジン部品)の記事を書かなければいけなくなった時には、とうとう頭にハゲがいくつもできてしまって、みんなに名誉のカムハゲだと言われたほどです」

記事を書くスタンスも『オプション』ではガラリと変わった。「以前は企画会議の時に提案する内容が、『○○を教える』というような上から目線だったんです。でも『オプション』では、読者の方が知識も経験もすごい人ばかり。当時の編集長の稲田大二郎さんに、〝あのな、タマが読者に教えてあげることなんて何もないぞ〟と言われてハッとしました。実際に、全国のショップさんと読者のみなさんが私の先生だったんです。このスタンスは今でも私の中で続いていますね」 その後、愛車を徐々にカスタムしはじめて、音が変わることの楽しさなど、それまで知らなかったいくつもの世界を味わうようになる。「クルマの楽しさ、走る楽しさを私に教えてくれたのは、『オプション』でした」

いつの間にかどっぷりと浸っていたクルマの世界だったが、鈴木さんは本来のやりたいことであった女性誌・一般誌への道も忘れていなかった。独立を機に集英社が立ち上げた女性向けウェブサイト『Sウーマン』で仕事をするようになり、女性の生き方マガジンとして創刊した『アッティーバ』(徳間書店)にも携わった。

「とくに印象深いのは、『ゆるゆる北海道旅』という特集で、北海道をドライブで切っていく旅企画だったんです。こういう記事ができたことが、今に生きていることは間違いないですね」 編集者としてのキャリアを積んできたとはいえ、女性誌の記事づくりはまた違ったやり方が求められた。鈴木さんはここで、女性誌づくりの基本をしっかり学ぶことができたという。

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「女性誌の魅力は役割分担が明確な点。何人ものプロの集合体で一つのゴールを目指せる。異なる点はあれど、雑誌作りという観点では『専門誌も一般誌も同じ』ということが分かったことは大きな収穫でした」

クルマ雑誌と女性誌、それぞれのものづくりと魅力を知った鈴木さんのもとに舞い込んできたのは、三栄書房から創刊されるフリーマガジン『アンテーヌ』の編集長という大舞台だった。テーマは〝女性のためのカーライフマガジン〟という漠然としたもの。でも鈴木さんにはすでに、いろいろなアイデアが沸き上がっていたという。「当時はフリーペーパーの全盛時代でした。駅などに置いてあるマガジンラックがあふれ返っていて、その中からどうやったら手にとってもらえるだろうと考えましたね。いきなりクルマと謳ってしまうとダメだと思い、表紙は花をメインにしました。でも、どこかにちょっとだけクルマの一部分が見え隠れしている。それをだんだん増やしていこうと思ったんです」

そんな『アンテーヌ』は狙い通りの結果を生んだ。可愛いと思って持って帰ったらクルマの雑誌と分かり、こんなのがあるんだと驚く声があちこちから聞こえてきた。

「もうメールが主流になりつつあった時代でしたけど、1号で200〜300通くらいお便りが届いたんです。これは嬉しかったですね。毎号、しっかりアンケートを入れていたので、いろんなデータ集めとしても役立ちました」

鈴木さんがまず感じたのは、〝隠れクルマ好き〟がいるということだった。自分ではクルマ好きじゃないと言いつつ、車内にこだわりの小物を置いていたり、洗車をするのが好きだったり。お便りには、女性たちが思い思いにクルマを楽しむ様子があふれていた。

「女性たちは、クルマ好き、と言うにはもっとマニアじゃないといけないと思い込んでいるんです。だから潜在的に女性ユーザーはいると思ったし、女性に向けてクルマを語る媒体があってもいいんだと確信しました」 多くの女性たちは、クルマのことについてもっと知りたいと思っているし、運転が上手くなりたいと思っている。でも、ひとりで街中で学ぶことができなかったり、彼氏や旦那様にどうやって教わればいいのかが分からない。そして、自分で調べてまでそれをクリアするところまでは、なかなかいけないのが現実だ。

この話には、若林さんも私もおおいに賛同するところがある。「クルマの運転って、人の命にまで関わってしまうことだから、ほかのことに比べてトライ&エラーがしにくいのよね」と若林さん。「女性がちょっと上手くなりたいと思った時に、気軽に学べる場所があればいいのにね」
私はそれに加えて、もっと女性が理解できる言葉でクルマの情報を伝え、電話やメール一本でいつでも何でも質問することができる〝コンシェルジュ〟のような存在が必要ではないかと思っている。

そして鈴木さんは、教習所でのレッスンも考えており、「教習所の教本には載っていない、道に出る人たちのためのマナー講座」のようなものがあったらどうかという。私たちはしばし、ああでもないこうでもないとアイデアを出し合って盛り上がった。

「いろんなことを学ばせてくれた『アンテーヌ』だったんですけど、残念ながら休刊になってしまったんです。でも、私には妄想していたやりたいことがたくさんあったので、それを実現するために立ち上げたのが『カーユニウーマン』なんです」

鈴木さんはカーライフ・アドバイザーという肩書きを名乗っているが、それは今乗っているクルマをどういうふうに楽しむか、というレシピを考える人なのだという。「みんなに自分に似合うクルマを選んで欲しいんです。そのためには、今乗っているクルマが楽しくなければ、絶対に次にいかない。そこをサポートするために私がいると思っています。〝ちょこっとLike〟が合い言葉です」

鈴木さんと私は同じ時代を同じクルマ業界で歩みつつ、育ってきたバックグランドは違う。でも今、感じていることは私とまったく同じだった。
「私が思い描いている理想にはまだまだ遠いんです。スクール、座談会、撮影会、イベントと、やりたかったことを少しずつリアルに落とし込んでいるところだけど、もう私ひとりじゃ限界。これからは、どことコラボレーションして同じ気持ちでやっていくかが課題です」と鈴木さん。

この瞬間に私たちが出会ったことは、偶然ではないのかもしれない。なにか大きな波を起こすための、小さな風が巻き起ころうとしている。そんな予感が胸に押し寄せていた。

きっと、鈴木さんが描く女性とクルマの世界はこれから、もっともっと輝きを増していく。そんな『カーユニウーマン』がひとりでも多くの女性に届き、すべての女性が幸せなカーライフを送れる日がくることを信じたい。

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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。
ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

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