もう少し、夏

仲間とレースで 夏祭りを作ろう

アヘッド もう少し夏

text:まるも亜希子

前髪からしたたるほどの汗と、あとからあとからこぼれ落ちる涙とで、目の前の景色がみるみるにじんでいった。あの夏、私は生まれてはじめて「フィニッシュドライバー」の大役をもらい、死んでもゴールするんだと何度も自分に言い聞かせながら走っていた。無我夢中のままチェッカーフラッグを受けた瞬間から、ヘルメットを被ったままで、わんわん泣いたことを懐かしく思い出す。

それは私にとって、2年目のチャレンジだった。初年度は、初めての大きなレースに不安を抱えながらも、練習をするたびに着実にタイムアップし、少しずつ自信をつけて、絶好調で決勝レースを迎えた。そのままいけば、自分の走る番をしっかりとこなし、次のドライバーにバトンを渡すことができるはずだった。ところが、猛烈な暑さと緊張からくる体力の限界、ドライビングスキルの至らなさ、経験不足といった数々の要因から、ついにクラッシュをしてしまう。一時はトップを走っていたチームを、奈落の底に突き落としてしまったのだった。

メカニックたちが懸命にマシンを修復してくれ、なんとかチェッカーフラッグは受けたものの、不本意な結果に沈むチームメイトたちの悔しそうな表情を、私は今でも忘れられない。でも、誰ひとりとして、私に怒ったり文句を言ったりする人はいなかった。怒らないかわりに言われたひと言は、「これでレースを辞めるのは許さないからな。来年も必ず走るんだぞ」。

実はそのクラッシュの後、私はサーキット恐怖症になっていた。マシンのハンドルを握ると手は震え、現場にさしかかるとクラッシュの瞬間が脳裏に蘇って、アクセルが踏めなくなる。心臓は早打ちし、息苦しくなってくる。別人のように、まったく走れなくなってしまった自分に失望して、もう無理だと逃げ出す口実ばかり考えていた。そんな状態からの再チャレンジだったから、無事に走り切れた時の嬉しさ、安堵、チームへの感謝はあふれるほどだった。

あれからもう10年ほど、私の夏は、ツインリンクもてぎで開催されるアマチュア最高峰の7時間耐久レース「Joy耐」や、カートによる7時間耐久レース「K―TAI」といったイベントに、仲間たちとチャレンジするのが恒例になっている。チームメイトは自動車メディアに携わる人たちが中心だが、年齢も性別も立場も様々な顔ぶれだ。日本を代表する往年のレーサーから、20代の編集者、自動車メーカーの若手エンジニア、OB、ラジオDJの女性など、本当にバラエティに富んでいる。そんなメンバーにただひとつ、共通点があるとしたら、それは「やってみたい」と思ったこと。集まるきっかけはたったそれだけだ。

毎年、5月くらいにその年のメンバーが揃って、キックオフという名の飲み会を開く。初対面の人もいるし、サーキットを初めて走る人、何十年ぶりに復帰する人、走らないけどマネージャーをやりたい人なんてのもいる。でも、飲みながら話すうちに、そこにいる全員が同じゴールに向かって、同じ夏を夢見て、一歩を踏み出す。そんな一体感を感じるのが面白い。そこから、ドライバーは練習や体力づくりやダイエットをはじめ、マネージャーはエントリー書類を準備したり、規則を読み込んで7時間の作戦を立てたり、それぞれの役割でゴールを目指しはじめる。壁にぶち当たると、みんなでああでもない、こうでもないと相談し合い、ひとつひとつ解決して前に進んでいく。プレッシャーに負けそうなメンバーがいたら、バカを言い合ってほぐし、失敗したら誰かがカバーし、うまくいった時には思い切り笑う。そうやってチームは大きなチャレンジを乗り越え、夏が終わる頃には「仲間」になっている。

まさか大人になってから、こんなにキラキラとした夏を過ごせるとは、思ってもみなかった。チャレンジのおかげで毎年、私の夏はとても濃密で、熱くて、胸がキュンとするくらい輝いている。もし今、そんな夏を忘れてしまっているのなら、友だちや家族やご近所を誘って、チャレンジしてみたらどうだろう。カートなら10歳から走れて、年齢制限はない。いくつになってからでも、キラキラした夏はやってくる。

カートだったら、すぐにレースを楽しめる!

アヘッド もう少し夏

本文にあるような本格的なレースにいきなり参戦するのは難しいが、カートレース、中でもレンタルカートであれば仲間を誘ってレースにも参加しやすい。全国各地のレンタルカート場では、種類やレベルに応じたものが開催されているので、この夏、思い切って体験してみてはいかがだろう。

カートレースのイベントの中で、国内最大規模となるのが毎年夏の2日間にわたりツインリンクもてぎで開催されるカート耐久レース「K-TAI」だ。延べ240台もが参加するお祭りのような大会で、1チームあたりドライバー3〜10人+ピットクルーで参加する。仲間を集めたり、車両や装備を自分たちで用意したりという課題はあるが、10歳から参加できるため、3世代に渡って参戦するチームもいるそうだ。(今年はすでに募集終了)

このほかに、全国のレンタルカート場から挑戦者が集まる「レンタルカートフェスティバル」(ツインリンクもてぎ主催、毎年2月開催)、プロ・アマ混走のオトナのためのお遊びレース「KART de GO!」(富士スピードウェイ カートコース主催、今年は年8回開催)なども開かれている。

ただし、普段からカートに乗り慣れている人ならともかく、いきなりこれらの大会に挑むとなるとハードルは高い。車両や装備の問題もある。そこでお勧めしたいのが、まずはカートレースの醍醐味を味わうため、地域のレンタルカート場主催のレースを体験してみること。

例えば、今回撮影で訪れた「F.ドリーム平塚」の場合、参加者のレベルに応じ4種類の耐久レースをシーズンを通じ開催している。

“超速い方は絶対にお断り!!”の超初心者向け「40分耐久レース」は装備不要なので、「まずは試してみたい」という気軽な気持ちで体験できる。勝負への欲が出てきたら「60分耐久」に、本格的に腕を磨くなら「90分耐久」にと、少しずつステップアップしていくことも可能だ。同カート場の最高峰「ダンロップ杯120分耐久レース」では、シリーズランキング上位チームに、先ほど紹介した「レンタルカートフェスティバル」への出場資格が与えられる。

カート場の大会に足を運ぶうちに、本格的なレースへの出場が見えてきたり、チームを組む仲間に出会えたりするなど、思ってもみなかった世界が広がることもある。

各施設によりシステムや内容は異なるものの、ほとんどが初心者向け講習会や装備レンタルの有無、レースのレベルといった情報をホームページで発信しているので、まずはネットで調べてほしい。

同じ目標を持った仲間同士、子どものように夢中で泣いたり笑ったり汗を流す。過去の思い出だと思っていたあの気持ちが、再び湧き上がってくるきっかけになるかもしれない。

F.ドリーム平塚
神奈川県平塚市長瀞1-13 Tel:0463(24)3786
www.f-dream.jp/index.shtml
営業時間:平日12:00〜22:00、土日祝10:00〜22:00年中無休(1・2月は21:00まで)
*平日、コース貸し切りの場合のみ営業時間外も予約可能。

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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。
ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

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