現実と折り合いをつける 

家族持ちのためのスポーツカー

アヘッド 現実

text:嶋田智之

性格悪いなコノヤロー。まぁそう思っていただいて構わない。たぶんハズレてない。だから……言おう。あのさ、そのチョイスって短絡的すぎないか?〝好きで選んだんだ〟とおっしゃるなら素直にお詫びする。お気に入りのクルマと暮らせるのは素晴らしいことだから。けれど〝おもしろくないのは判ってるけど家族のためだからしょうがない〟と内心不満タラタラなのであれば、それはある意味「ギルティ!」だ。

だって、そうじゃないか? ニコリと微笑みかけられたら知らず知らずニコリと返しているように、楽しそうに笑ってる人のそばにいると連られて笑ってしまうのと同じように、不機嫌だって確実に伝染するのだ。愛せないクルマを走らせる→おもしろくない→運転するのメンドクサイ→だから疲れたっつーの……と次第に負の連鎖に陥っていき、それはあなたの表情を徐々に奪っていく。あなたが大切に思いやっているはずの家族の笑顔を道連れにして……。どうだろう、身に覚えはないだろうか?

そんなのが幸せのカタチだとはどうしても思えない。クルマは皆の幸せを乗せるために生まれてきたものであり、皆の幸せを運ぶために買うもの、ということを忘れてはいけない。もしやあなたは〝家族のため〟の〝家族〟の中に、自分自身をカウントするのを忘れていたりはしないだろうか。

いや、選ばれたクルマにはひとつも罪はない。選ぶ側の気持ちの問題なのだ。例えば備わってるシートの数だけフル乗車して長い時間と距離を走る日が、今、年に何回あるだろう。例えば誰かを迎えに行って自転車ごと載せて帰ってくるような日が、今、年に何回あるだろう。そうしたそれほど多くはない機会を優先させたクルマ選びをするか、日々の瞬間ひとつひとつに確かな喜びがじわりと湧いてくるような御機嫌優先のクルマ選びをするか。そういうこと。どっちがダメでどっちがいいということじゃなくて、あなたはどっちが幸せ? ということなのだ。

そうはいっても走らせて楽しいスポーツカーみたいなクルマは実用に向かないし値段も高いし、現実的じゃないだろ! という反論も聞こえてきそうだ。ならば、値段控えめでスポーツカーみたいに楽しい走りの味わえる実用車、を探せばいいじゃないか、と思う。端からそんなクルマはあるわけないと思われてるからか、何なのか、意外とスルーされがちなのだけど、その範疇にあるクルマって、実はそれなりの数が存在するのである。

その中で1台オススメをあげろといわれたら、今なら僕はルノー・ルーテシアを選ぶだろう。税込み205万5000円から買えるこの小型大衆車のどこがいいのか。

まず前提として、フランスはこのクラスが圧倒的なメインストリームだからクルマ作りに手が抜けないということがあるのだけど、完成度が高い。家族4人がちゃんと乗れて小旅行に出るくらいの荷物を積み込めて、という日常的な実用性は当然ながらしっかり満たしてる。石畳の国で生まれたのだから、乗り心地が快適なのもいうまでもない。そのうえでルーテシアには、走らせる楽しさというものが見事に備わっているのだ。

たかだか1・2リッターの直噴ターボエンジンは、発進の段階から2リッター並の豊かなトルクを沸々と生み出しつつ、滑らかに軽々と吹け上がっていく。その力強さ、生み出すスピードの乗り具合は、必要にして充分という言葉を軽々超えたレベルにある。それを2ペダルのデュアルクラッチトランスミッションで切り替えていく。日頃はオートマチックとして楽々使えるのに、手動で操作をして積極的に走ってみると、間髪入れずに作業を完了させるその変速スピードの速さはかなり爽快だ。

しかも足腰の出来映えがまた格別にいい。ターンは軽やか。みっちりと芯のつまったような感触を伴って、どこまでも足を地面に踏ん張り続け、粘り強く、そして素早くコーナーを駆け抜けていく。嬉しくなるくらいのフットワーク。ちょっとしたスポーツカーを走らせてるかのようだ。しかもそれらは高性能スポーツカーのように飛ばさないと伝わってこないようなものじゃなく、例えば買い物にいく道すがらに交差点を曲がって加速していくような場面ですらニンマリできるくらいのもの。クルマを知らない奥さんでも「何か楽しい」と感じられるんじゃないだろうか。

〝折り合いをつける〟とは〝諦める〟ことでも〝放り投げる〟ことでもない。家族がニコやかでいるためにはあなた自身がいつだってニコやかでいなければならない。それを念頭において、奥さんの手を握りながらマジメに相談してみるといい。……心から健闘を祈る。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada

1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。

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