海とクルマと本と街…

アヘッド 海と本
アヘッド 海と本

少し時間に余裕ができたとき、ふとドライブに出かけようと思い立つ。煩雑な日常のあれこれを振り切り、ルーティンにまみれた生活に再生の風穴を通すために。そんなとき、都内在住の私はいつも海を目指すことにしている。そうなったらどうしたって、行先は湘南から茅ヶ崎方面がベストだ。

都内からわずか1時間と少し、気分転換には最高のディスティネーション。かつてサーフィンに夢中だったころは、この距離のあいだじゅう不安に駆られたものだ。いくら朝はやく海を目指したって、ハンドルを握っているあいだに波が去ってしまうんじゃないか、凪がやってくるんじゃないか。少しサーフィンから距離を置いてしまった今なら、もう少し道程を楽しめる。だって実際にたどり着いてみればそこにはいつもと変わらない海があって、ひたすら変わらずたぷたぷと浜を洗っているのだから。

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そのころからずっと憧れていることがある。海の傍に移住することだ。海まで徒歩10分、夜明け。起きたらまず海におはようと言いに行く生活。まだ眠い目をこすりながら、朝焼けに全身を浄化してもらう。なにかと貧弱なうちのワンコだって、きっともっと健康になるだろう。

休日には茅ヶ崎のビーチウォークあたりを、タイヤの太い自転車ビーチクルーザーで流す。強い日差しに肌はさらされ、きっともっと日焼けしちゃうな。でも心も潮に洗いざらしになって、すっきりと人生の行く先を見つめられるようになるだろう。悩んだときは砂浜に座ろう。怒りに心を乗っ取られて、グラグラ鬱屈してきたら海に入ろう。

だけど何かと人生そうはいかず、都内をベースに仕事をする私にとって、湘南は近くて遠い理想郷。打ち合わせや会食、友人との気楽な宴会なんかを思えば、湘南に住むことを躊躇してしまうのだ。しかしそんな臆病者の私の心を思いっきりユサユサ揺さぶる、素敵な場所が誕生した。湘南T―SITEである。

すでに東京のオシャレエリア代官山でただならぬ存在感を示し、一躍代官山エリアを代表するスポットに躍り出た代官山T―SITEの第二弾だ。T―SITEは書店からスタートし、レンタルビデオで事業を拡大したTSUTAYAを擁するカルチュア・コンビニエンス・クラブ㈱が展開する、ライフスタイル型複合商業施設。

その中心になるのがTSUTAYAの原点である書店である。街にある通常の店舗とはコンセプトを明確に分け、『書をとりまくライフスタイル全般』をプロデュースするコンセプトになっていて、それが見事に本好き活字好きの心をこれでもかとくすぐる設定になっている。

場所は海岸沿いを走る国道134号線から少し入ったところ、JR東海道本線の辻堂駅と藤沢駅のちょうどまんなかくらいに位置する。このエリア自体が『Fujisawa SST(サスティナブル・スマート・タウン)』という、次世代に向けたコンセプティブなスマートタウンであり、湘南T―SITEはその広告塔的フラッグシップの役割も担う場所になる。

いや難しいハナシはもう止めよう。そこを初めて訪れて以来、私はこの場所に恋をしてしまった。代官山のそれはやはり代官山らしく、流行の最先端を行く高感度すぎるオシャレピープルたちが集いに集っているため、仕事帰りに優雅な気分で本を選んで活字に一縷の癒しを見出す……というよりは、隣でマックをすまし顔で叩いているあのノマドワーカー青年に負けてはいけない! みたいなヘンな闘争心が生まれるため、そうリラックスできないのが現状のナサケナイ私であるが、湘南はちょっと違う。

まだ誕生したばかりで訪れる人も少なく、湘南ならではのゆとりある空間の取り方が心地よいパーソナルスペースを生んでいるため、呼吸がラク。まるでそこにいるだけで、本来の自分を取り戻していけるかのようなゆったりした気分になれるのである。

広大な敷地内の建物は二階建て。その一階のほとんどが書店になっているのだが、そのあちこちにカフェがあり、本を買わずしてもカフェに本を持ち込んで、立ち読みならぬ座り読みが出来るのは代官山と同じだ。

だがここ湘南T―SITEでは、さらにカフェ以外の専門店も充実している。カメラショップ、ステーショナリーショップ、そしてなんと自転車屋さんやコンビニまである。しかし、それらがそれぞれの店舗に区切られておらず、微妙にそれぞれの輪郭を溶け合わせるようにして共存しているのが大きな特徴。本屋がカフェに、そしてその本を読んで美しい写真を撮りたくなったらカメラ屋へ、と、自然に心の振り幅を拡げられるようになっているのだ。

書籍のチョイスもどことなく湘南のユルさを反映したオーガニックなもの。この辺で生活をすることの豊かさ人間らしさに、ホワンとイマジネーションが刺激される。二階にはレストランや美容室など店舗の他にイベントやワークショップが開催される『湘南ラウンジ』なるコミュニティスペースもあり、今後ココが街の中心になった時の発展も楽しみだ。

さらにクルマ好きとしてはこの書店エリアの別棟にある『カーライフラボ 湘南マガジンテラス』も必見だ。A棟とB棟、ふたつの建屋からなるこのエリアでは、片方が電気自動車などの次世代モビリティの展示と試乗の基地に、もう片方がカーライフを中心にしたライフスタイル提案の展示になっている(取材当時。カーライフラボでの展示企画は常設展示ではなく時期によって異なる)。

その絶妙なイマっぽいチョイスもさることながら、圧倒的に感激したのはクルマに関する書籍が読み放題なこと! 部屋の三方にうず高く展示されたクルマや旅、食に関する本たち。その絶妙のセンスには感激してしまった。かゆいところに手が届くような本を選んでソファにうずくまる。日がな一日クルマと本にまみれて時間を過ごすことが出来るなんて、これ以上の贅沢があるだろうか。

湘南は海のほかにとんでもないカードを手に入れてしまった。このあたりがますます魅力的なエリアになることに間違いはない。

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text:今井優杏/Yuki Imai
レースクィーン、広告代理店勤務を経て自動車ジャーナリスト。WEB、自動車専門誌に寄稿する傍らモータースポーツMCとしての肩書も持ち、サーキットや各種レース、自動車イベント等で活躍している。バイク乗りでもあり、最近はオートバイ誌にも活動の場を広げている。

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