かわいいorカッコイイ

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HUSTLERが売れている本当の理由

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text:竹岡 圭 photo:山岡和正

軽自動車保有率が47都道府県で一番少ないと言われる東京都でも、最近、実によく見かけるのがスズキ『ハスラー』だ。台数が出ているのも間違いないが、それだけルックスが目立つクルマなんだとも思う。

どんな方が乗っているのだろうと、運転席をチラリと覗き込んでみると、ドライバーは見事にまちまち。鮮やかなパッションオレンジ ホワイトツートーンルーフボディには元気いっぱいの若者が、クールカーキパールメタリックボディにはシブイオジサマがといった具合で、ひと口に老若男女と言っても、かなり幅広い層に選ばれているのが見て取れる。

それだけ多くの人に愛されているのは、まずはデザイン。フェンダー部分に流れるような水平のキャラクターラインや、丸型のヘッドランプ&すぐ側に位置するウインカー、縦型のリアコンビランプなど、歴代スズキSUVの伝統のモチーフを上手く取り入れながらの、甘すぎず、道具っぽすぎずのカッコカワイイあふれるルックス。それと共に、ハスラーが選ばれているのは、このクルマの本物感がきちんと伝わっているからこそだろう。

そもそもハスラーが生まれた理由は「SUVってどこでも行けちゃいそうな頼もしさはあるけれど、荷室は意外と狭い。オマケに荷室高も高いから、荷物の積み下ろしも大変だったりする。だったら、荷室が広くて開口部も低いワゴンと融合させたら、便利なんじゃない?」という発想からだったと聞いている。結果「'93年にワゴンRが登場したときのような、なんだか新しいジャンルのクルマが出てきたゾ、というときの感覚なんですよ」と、スズキの社内がワクワクと沸き立つくらいのクルマが出来上がったそうだ。

とはいえ、そうそう単純に出来たわけではなく、開発はそうとう大変だったらしい。それは「ワゴンRとプラットフォームもパワートレインも、まったく同じものを使わなければいけない状況の中での開発だったので、触れるのはタイヤとダンパーとパワーステアリングだけ。このチューニングだけで、ハスラーらしさを作り上げなきゃいけなかった…」から。

ワゴンRが市街地でのキビキビした走りを特徴とするなら、ハスラーに求められたのは、SUV的なゆったり感としなやかなバネの動き。「ダンパーを緩めるだけでは、高さが上がった分だけヨロヨロになってしまうので、逆にサスペンションは全体的なグラグラ感をなくすために固めてあるんです。ところが、ただ固めるだけではSUVらしい乗り味は失われてしまうので、ピストンスピードの低い動き出しの部分はソフトに、ピストンが動き出したら抑えてやろうというセッティングをチョイスしたんですよ」とのこと。

これが見事に功を奏し、乗り心地はしなやかに。ステアフィールはSUVっぽく重さを持たせ、ゆったり感を演出。しかしハンドルを切ったら切った分だけ動き、ドライバーが意図したラインにスッと乗せられるという、スズキらしいシャキッと感はきちんと確保。見事な本物のクロスオーバーSUVの乗り味と走破性が出来上がった。

そしてほどなく、私自身がこの本物感を体感することになる。それは関東地方が、高速道路が数日間通行止めになるほどの大雪に見舞われた日のこと。スタッドレスタイヤを履かせてあるとはいえ、本当に無事に帰れるのか? と不安になるほどの悪天候の中、軽自動車初のグリップコントロール、ヒルディセントコントロール等々の装備を搭載したAWDモデルのハスラーは、ドライバーを一時も不安にさせることなく、走り切ってくれたのだ。

あれから早くも1年半が過ぎたが、未だハスラーの人気は衰えを見せない。本格派クロカン軽のジムニーと、マルチワゴン軽のパイオニアであるワゴンRを送り出したスズキだからこそ生み出せた本物感と伝統と遊び心。軽自動車に馴染みのない都会人の心までをも虜にした人気の秘密はここにある。本物だからこそカッコよく、それをひけらかさないからカワイイのだ。

チンクとベスパとイタリアと

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●FIAT 500C 1.2Pop
車両本体価格:¥2,505,600(税込)
総排気量:1,240cc
最高出力:51kW(69PS)/5,500rpm
最大トルク:102Nm(10.4kgm)/3,000rpm

text:松本 葉 photo:渕本智信

もっともイタリアらしいものを3つ、挙げよと言われたら、私は迷うことなくフィアットの『チンクエチェント』とピアッジオのスクーター『ベスパ』とチョコレート風味のスプレッド『ヌテラ』を選ぶ。フェラーリもあればドゥカティもこの国生まれ、アルマーニからパルマの生ハムまで、それこそイタリア産を挙げたらきりがないが、イタリアらしさが押し合いへし合い、ぎゅうぎゅうに詰まっている、そういう意味でチンクエチェントとベスパとヌテラが私にとってのイタリアなのである。

この3つに共通するのはまずは歴史だが、歩けばローマの遺跡にぶち当たる国にあっては〝らしさ〟に長さを挙げるときりがない。いや、歴史はすべての前提。築30年のアパートはイタリアでは新築だ。だったらこの国の人間のごとく、憎めないかわいらしさかと言えばそれも違う。

イタリアでは〝かわいい〟は誉め言葉ではなくて〝美しい 〟とか〝かっこいい〟に入らなかったときの受け皿。男友達のカノジョを語るとき「かわいい」といったら、それはブスじゃないけど美人じゃないってこと。

唯一、かわいいが許されるのは子供だが、子供はみんなかわいく、かわいい子供のなかに 将来、〝美人になりそうな女の子〟と〝かっこよくなりそうな男の子〟がいる。ちなみにかわいいの下に控えるのは〝性格がいい 〟という言い方で、そういえば私は何度もこう言われた。イタリアの皆さん、ありがとう。

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●VESPA Primavera 125
車両本体価格:¥428,000(税込)
総排気量:124.5cc
最高出力:7.2kW(9.6ps)/7,750rpm
最大トルク:9.5Nm(0.96kgm)/6,000rpm

特に工業製品にかわいいはタブーだ。なぜってかわいさは未熟さであり、ガジェットであり、時が経てばしらける。とどのつまり一発もの、歴史を生み出すことがない。工業製品は使い捨てであってはならず、キャラクター製品であってもならない。こういうコンセンサスがしっかり根付いている。カワイイ日本車を見ると10年後に乗っていられるものがどのくらいあるだろうかと私はいつも考えてしまう。

単純なことを複雑に仕上げるより、複雑なことをシンプルに見せる方がよほど難しい。技術からデザインから味から制作方法まで、考え抜いたことを見せずに、まるでひらめきで作ったかのように仕上げたモノ、それがイタリアらしさだ。初めはポップなレトロに見えた現行チンクエチェントだが、今では欧州の街にスタイリッシュに浸透している。デザインに力があるのだろう。1964年に販売が開始されたヌテラは未だ欧州全体のチョコレート・スプレッド市場を独占する。

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原材料がはっきりしている、ただの、チョコレート味のスプレッドなのに誰にも作れないのである。戦後すぐに登場したベスパは海辺で風を受けて走ったり、街中をすり抜けるのがピッタリのスクーターだが、メカは航空技術を多用している。『ローマの休日』を見て、このスクーターにそんな複雑な技術が使われているなんて誰が想うだろう。

チンクエチェントを生み出したのはダンテ・ジアコーザ。ベスパはコラッディーノ・ダスカニオで、ヌテラはピエトロ・フェレロ。いずれも天才と言われた人物。1000人の凡人よりひとりの天才。1000回の(結論の出ぬ)会議よりひとりが下す決定。職場で天才はひとり、黙々、図面を引き、凡人は天才を置いて定時に家に帰り、家族と食卓を囲み、バカンスの話をする。これがイタリア。天才のひらめきを凡人が気楽に楽しめるのもまた、イタリアである。

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text:松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。


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