イメージについて

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アヘッド_映画とクルマ

また、ひとが何かに挑戦するときもイメージが必要になってくる。具体的なイメージが掴めれば実行に移せるが、イメージが湧かないことを実践することは難しい。今回はクルマやバイクを取り巻くさまざまなイメージについて考えてみたい。

“ネオクラシック”の デザインとイメージ

アヘッド_映画とクルマ

▶︎ニュービートルが日本に導入された当時は、本国ドイツz「ザ・ビートル」と名付けられて、デザインもリニューアル。さらに初代のビートルに近いフォルムとなっている。

text:嶋田智之

ホントにうんざり、だった。気分が悪かった。何がって? いや、例のデザインにまつわる一連の盗用疑惑問題である。渦中にあった人物を庇う気持ちなんてこれっぽっちもないけれど、それがデザインであれ絵であれ写真であれ音楽であれ文であれ、パクるヤツはパクるし、逆に無意識に似ちゃうことだってある。何より苛立たしいのは、それが魅力的であるかどうかという最も大切なところが置き去りにされたまま、糾弾と言い訳だけが延々と繰り返され続けたことだ。

アヘッド_映画とクルマ

僕はデザインも絵もできない傍観者にすぎないが、これはないな、と思った。〝日本発〟がコレであって欲しくはない、と思っていた。心に訴えかけてくるものが何ひとつなくて空っぽな印象だったし、そもそも誰かに説明されなきゃ意図がちんぷんかんぷんなモノに、世界に向けて何かを発信するチカラなんてあるはずないからだ。話題絶頂の頃、クルマ好きの友達のひとりが面白いことを言った。

アヘッド_映画とクルマ

「そういえば、ちょっと似たような出来事がクルマの世界でも時々あったよな。レトロ・デザイン、これでいいのか? なんて」あったあった。確かにあった。1998年発売のニュー・ビートル、2001年発売のニュー・ミニ、そして2004年に原形となるプロトタイプが公開された2007年発売のチンクエチェント。

自動車の歴史に深く刻まれた世界的な名車が偉大な名前とともにニュー・モデルとして蘇ったとき、そのたびにスタイリング・デザインの是非を問う声が聞こえてきたものだ。それらのスタイリング・デザインは、パッと見た瞬間にかつて一世を風靡した御先祖様を誰もがありありとイメージできる、モチーフがどこにあるのかが即座に理解できるものだったからだ。

アヘッド_映画とクルマ

▶︎クラシック・ミニは、1969年に公開された映画「ミニミニ大作戦」で迫力あるカーチェイスを繰り広げて一躍有名になった。一方、今月12日に公開したコメディ映画「ピクセル」では地球を守る秘密兵器として最新型のニューミニが大活躍する。

ビートルのときもミニのときもチンクのときも、マニアックなクルマ好き達を中心として、「元ネタの方がいい」「新しい提案がない」「過去を振り返ってどうする?」みたいな議論めいたものが、実にあちこちでなされたものだった。

後になって海外の同業の友人達に訊ねたら、どの国も似たり寄ったりだったようだ。しかも、これまた面白いことに見事に共通していたのは、頑なに認めたがらなかったのはカチコチの原理主義者的なマニアだけで、ほとんどのクルマ好きは和やかなトーンで議論を楽しみ、クルマ好きでもなんでもないフツーの人々はストレートに歓迎していた、ということである。

そして今、もはやそんなことをクチにするヒトは見当たらない。御存知のとおり世界中でヒットし、様々な街のあちこちをたくさん走っている。愛されてるのだ。

アヘッド_映画と車

この3車がすんなりと受け入れられたのは、それぞれのスタイリングが、見る人を自然と笑顔にさせるような雰囲気を持っていることが大きい。どこか人懐っこくて、和ませてくれる癒し系。その辺り、まさしく御先祖様と一緒だ。

ところが、その〝元ネタ〟とそれらのクルマを並べてみると、イメージとしてはとてもよく似てるのだけど、実は様々な部分がかなり異なっていて、カタチをそのままなぞったものではないということがよく判る。

過去の名作をモチーフにしたことは確かであっても、それは造形そのものを過去から持ってきたというより、オリジナルのスタイリング・デザインが生み出した世界観、与えてくれたエモーションを時を経て新たに再現するために、一度全てをゼロに戻して再解釈、再定義し、最初からデザインを組み立てなおしたような、そういうプロセスで作られているのだ。

しかも、ミニはともかくビートルは4代目ゴルフ、チンクエチェントは2代目パンダのプラットフォームを基礎に作られていて、ホイールベースとトレッドの比率をはじめ、元ネタのそれとは明らかに異なった逃れられない前提条件をクリアしつつ、同じイメージを持つスタイリングを成立させている。デザイナー達は、実はかなり高度なことをしてるのである。だから、過去作品の劣化コピーに見えたりすることがない。

アヘッド_映画とクルマ

▶︎ニューチンクは2007年の登場以降、カラーや意匠の異なる限定モデルを数多く輩出して、チンクのオシャレで個性的な世界観を演出している。今年7月に発表された新型モデル(下)は、約1,800箇所もの改良が施されたが、評判の良いルックスは、ほぼ同じイメージをキープした。

昔のビートルとミニとチンクエチェントは、人々を幸せな気持ちにさせた乗り物だった。今はその世界観を受け継いだ新しいビートルとミニとチンクエチェントが、人々を幸せな気持ちにさせている。デザインとは人々を幸せな気持ちにさせるためのものであって、そこにこそ真の価値がある。不愉快な気持ちにさせるために存在してはならないのだ。僕はそう思う。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。

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