特集 取り戻しに行く 2012

アヘッド 取り戻しに行く 2012

クルマの選択眼を持つと その先の人生観までもが変わる

アヘッド 株式会社カーグラフィック 代表 加藤哲也さん

株式会社カーグラフィック 代表 加藤哲也さん

text:桜間 潤

クルマ離れの本質

「クルマ離れの時代と言われて久しいけれど、皆クルマそのものに興味を失ってしまったのではないと個人的には思ってるんです。昔と変わらず今でもクルマファンは熱い想いを持ち続けている。でも、その気持ちに応えてくれるような『欲しいクルマ』が売られていないだけなんじゃないでしょうか」。

“カーグラ”の加藤哲也さんは、クルマ離れの理由ついて語り始めた。

「僕がクルマに乗り始めた頃は、いろいろなメーカーがファン心理をくすぐるクルマをたくさん出していました。シトロエンはシトロエンの、フォルクスワーゲンはフォルクスワーゲンの個性溢れる魅力的なクルマを作っていた。だから、シトロエンファンでもフォルクスワーゲンが気になったし、またそれとは別に、ポルシェの911が欲しくなったりしたんですよ。現代は自動車に正義ばかりが求められるけど、僕個人は反社会的な要素も少しは許容する懐の深さがもう少しあってもいいじゃないかと思っています」。

かつては、メーカーごとに明らかなアイデンティティが存在していたと加藤さんは言う。クルマメーカーは、根ざしてきた地域のカルチャーやそこに住む人々のメンタリティ、そして製品を育む“道”からクルマの個性を醸成していた。たとえばイタリア車が総じて敏捷なのは、半島の真ん中をアペニン山脈が走り、タイトな山道が多いからだという。

つまり本拠地のローカル性を色濃く反映するプロダクトだった。しかし一時クルマメーカーは、グローバル化を目指しすぎて均一化してしまい、個々の魅力を失っている時代があったと主張するのだ。加藤さんは、自動車メーカーが本当の意味での魅力を備えるためには、もう一度原点、すなわち「グローバルよりローカル」の精神に立ち返ることが必要なのだと考えている。

アイデンティティは、 日本車にも存在する

欧州車でも個性が希薄になってきたといわれる中、日本車に個性を求められるのだろうか。 

「個性に乏しいと言われる日本車だけど、僕から言えば『スマート・バイ』という魅力をちゃんと備えている。高品質でありながら価格に見合った、あるいはそれ以上のバリューがあるのが日本車なんですよ。例えば、日産GT-Rやランサー・エボリューションなんかがそう。あの価格であそこまでの性能は日本車でなければ出せないでしょう。それにデザインだって見るべきものがある。たとえば日産キューブのスタイルは海外でも注目を集めていました。ロンドンの街角にキューブを停めたら人だかりになったっていう話も現地で聞きましたし。それにエコカーに関しても先陣を切っている。だから日本車には日本車の個性があると断言できますよ。ただ、その個性が上手く表現されているか、 あるいはこれまで自動車が長年描いてきた文脈に則っているか、 というと疑問があるのも否めないですけどね」。

また、アイデンティティという点では、内外を問わずどのクルマメーカーも独自の魅力をアピールできるクルマを作り続ける姿勢が必要だと加藤さんはいう。

「例えばフェアレディZというクルマがありますよね。僕もしばらく乗っていた。正直言って許せない部分もあります。けれどこれはまさに日産を代表するクルマ。ほんの一時期を除けばもう40年以上も作り続けられている。『もう終わり』というのがありません。いや、あってほしくない。メーカーのブランドを支えるのはこういうフェアレディZみたいなクルマなんですから」。 
 
一人のクルマファンとして、自身の経験を振り返りながら、加藤さんは続ける。

「単に車種ラインアップだけを見て『好き』とか『嫌い』を判断するんじゃなくて、実際に見に行って試乗して欲しいですね。写真だけでは伝わらないものがありますから。そのクルマのデザインに魅力を感じなくても、運転してみると琴線に触れるクルマっていうのが必ずあります。そうなると、『ヤバい、このクルマ、カッコ良く見えてきた』っていうことにもなるんですよ」。

クルマにはいろんなアスペクト(側面)があるのだと加藤さんは言う。見た目では惹かれないクルマでも、別の面からは、全く違う魅力を発見できたりするのだと。またメーカーのイメージや、そのクルマのヒストリーからもクルマを選ぶ楽しみを見つけてもらいたいとも提案する。

「クルマは、世界に通じる窓なんです。外国車を持てば、そのクルマが生まれた国の一面が見える。クルマがきっかけになって、その国の他のプロダクトが気になり始めたり、文化に興味を抱いたりもします。クルマを楽しむって大きな広がりを持てるってことなんだと思うんですよ」。

アヘッド 株式会社カーグラフィック 代表 加藤哲也さん
アヘッド 株式会社カーグラフィック 代表 加藤哲也さん

1959年生まれ。『カーグラフィック』編集長、『NAVI』編集長を歴任。現在は『株式会社カーグラフィック』の代表取締役社長を務める。『NAVI』時代の09年には、「NAVI TEAM GOH」の監督としてル・マン24時間レースに挑んだ経験がある。(写真・宇留野潤)

成熟したクルマ社会 といえる現在の日本

クルマがステータスシンボルだった時代は終り、高級車とプリウスを同じまな板に乗せる話も珍しくない。クルマという物の価値が見えにくい時代になったのだろうか。

「ある意味では、自由にクルマを選べる成熟したクルマ社会になってきたともいえます。例えば大排気量のスポーツセダンから小柄なスポーツハッチに乗り換えたら自分のオリジナリティが表現できたりすることもあるでしょう」。

いま、エコカーが全盛の時代になっている。愛車選びをするにあたって、とりあえずエコカーを選んでおけば後ろ指をさされないという潮流に加藤さんは異論を唱える。

「エコカーを選ぶことに反対するわけじゃありません。でも、エコだからこれが正しいと単純に考えずに、自分が欲しいと思えるクルマ、長く付き合えるクルマを選ぶことが実は求められているんじゃないでしょうか。エコカーが本当に好きならエコカーを買えばいいけど、他に興味のあるクルマがあるのなら、それを素直に選択すればいい。クルママニアが『自分の好きなブランド』を支持して、そのクルマを買うという、いわばタニマチ的な精神がクルマを面白くするには必要なんだと思っていますから」。

最後に、加藤さんはこう語った。

「クルマ選びに関しては、個人の選択眼を身につけて欲しいんです。時流や値段に流されずに、自分が惚れられるクルマを手に入れれば、その先の物を選ぶ基準が変わるし、生活も変わってくるはずです。クルマは、それまで以上の心の豊かさを、きっと持たらしてくれると思いますよ」。

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