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ウイークエンド・ジャーニー

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ここ数年でレンタルバイクがずいぶんと普及してきた。レンタカーに比べると料金が高いのでちょっと気軽に使えるレベルとは言いがたいものの、車種はそこそこ揃っているし、ハードケース類やETCがついているものもあってなかなか便利だ。

北海道から沖縄まで、各エリアの主要都市にはたいていレンタルバイクショップがあるし、なかには空港に隣接しているショップもあるから、土曜日の早朝便に乗れば正午あたりから北海道でバイクを走らせることだって簡単にできてしまう。

レンタルショップが空港から遠いなら、金曜夜に飛行機に乗って手頃なところで一泊すればいいし、プレミアムフライデーなら夜を待たずとも飛べるからちょっとした夜の観光もできるだろう。

飛行機+レンタカー(バイク)の組み合わせは最強だ。いつもの週末という限られた時間で、遥か遠くの地を旅できてしまうメリットは計り知れない。北海道をはじめとする国内だけでなく、海外だって同じやり方で旅することができる。ロサンゼルスへ飛んで現地でハーレーを借りてルート66を走る、なんてのも簡単だ。

さすがに太平洋の往復に時間がかかるから連休や有給休暇をからめないとムリだし、万が一の事故に対して保険を考慮する必要があるから、北海道へ行くのとまったく同じとはいわない。とはいえ、どちらもインターネットで予約できるのだから、その手間にそれほどの違いはない。

しかし、この方法ににはデメリットがふたつある。ひとつは航空運賃とレンタル代がかかることだが、これについては「時間を金で買う」ものだと考えれば解決できる。しかしもうひとつがむずかしい。「自分のクルマ(バイク)でやらなきゃつまらない」ことだ。

正直なところ、そう考えてる人に向かって「いや、そんなことないからとにかくレンタルで旅してみようよ」と言ってうなずいてもらえる気はまったくしない。

私自身はレンタカーでもレンタルバイクでも旅は旅だし、手段が多少変わろうとも目的に大きな違いはないと考えていて、実際にアメリカやイギリスでレンタルバイクのツーリングをしているし、できることなら世界のあちこちでレンタルバイクを走らせて分割式に世界一周したいとも考えている。

またアメリカのダルトンハイウェイという北極圏の油田を往復するための1600キロをレンタカーで走ってみたいとも思っている。

しかしいっぽうで、自分のモトグッチに乗ってユーラシア大陸を横断してイタリアのコモ湖畔にあるモトグッチ本社工場を訪ねたいという妄想もある。

だから愛車でなければ旅の価値が半減するとか、長期間に渡る壮大な旅でなければとか、レンタルバイクでちょこっと走ってもおもしろくない、と考える気持ちもわかっているつもりだ。

ただひとつ言えることがある。私は二十歳の頃に200万円貯めて渡米してバイクを買って北米大陸を横断しようと企んでいたものだが、結局それを実現させることもなく、もうアメリカをバイクで走ることなんてないと思っていたし、そもそもこの先海外に出ることすらないと思っていた。

それが20年も経ってからひょんなことで海外へ行くことになり、次の機会もそうそうないだろうからとレンタルバイクを借りて現地をツーリングしたら、これがめっぽう楽しかったのだ。

そのときは若い頃の企みもすっかり忘れていて、走り出して数日後に思い出したほどだったが、あのとき実現できなかったのは予算設定を多めにしたせいだし、それは未知の世界へ飛び込むための担保でもあった。

しかし年月を経てそこを意識せず不意に飛び越えてしまったら、いったいあのときは何をためらっていたのかとバカらしくなったし、つまりは未知の世界へ踏み込む恐怖心に負けたときの言い訳としてハードルを高くしていただけのことだったと気づかされた。

さすがに齢四十を越えているとそのへんに対する図々しさがあるから卑小なオノレを恥じるのは3秒で済ませ、アメリカ大陸をバイクで走る快感にさっさと身を委ねた。その気持ちよさったらない。バイクが自分のものだろうが他人のものだろうがどうでもいい。

かつて憧れた大地をバイクで走っている。その事実だけで十分すぎた。あまりのエクスタシーに、私はほぼ衝動的に着ている服をすべて脱ぎ、全裸になってワイオミングの高原に立ち尽くしたほどだった。

もっとも三脚を立ててセルフタイマーで写真を撮ったり、路面の砂利が痛いからと靴だけは履いたりしたから、エクスタシーで脳みそが溶け切っていたわけでもなかったが、私のなかで何かが弾け、解き放たれたことはたしかなのだろう。

全裸になることの是非はさておき、何らかの理由であきらめたり忘れていたりしたかつての望みを叶えたときのエクスタシーは、すでに折り返し地点を越えた人生におけるオアシスである。オアシスはいくつあってもいいし、自分だけが知っていて独り占めできるオアシスがあるに越したことはないと思うのだ。

しかしこうして公にしてしまったからには、私はまた自分だけのオアシスを探しにいかねばなるまい。

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text:山下 剛/Takeshi Yamashita
1970年生まれ。東京都出身。新聞社写真部アルバイト、編集プロダクションを経てネコ・パブリッシングに入社。BMW BIKES、クラブマン編集部などで経験を積む。2011年マン島TT取材のために会社を辞め、現在はフリーランスライター&カメラマン。

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