DUCATI japan interview 後編 DUCATIを男のたしなみにしたい

アヘッド DUCATI japan interview 後編 DUCATIを男のたしなみにしたい

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厳しい状況を迎えているかのような日本の二輪業界にあって、新たな試みで躍進を続けているのがドゥカティだ。それは、加藤 稔社長の感覚とセンスが、もっと広い世界へと向かうドゥカティの突破口を着実に拓いたことを物語っている。これまでにない、「夜」をキーワードとしたイベント戦略や、SNSの活用などによる、感度の高い業界人たちや若者とのコミュニケーション。そうした華やかな活動が目立っているが、一方で加藤社長は、二輪業界のPR手法というものを根本から変えようと思い切った決断をしていた。

text: まるも亜希子 [aheadアーカイブス vol.139 2014年6月号]
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DUCATI japan interview 後編 DUCATIを男のたしなみにしたい

DUCATI japan interview 後編 DUCATIを男のたしなみにしたい

約8ヵ月前に広報・マーケティング部部長として迎えた菊井直人氏は、それまで海外コスメブランドやアパレルといった、バイクとはまったく別世界の商品PRを手がけてきた人物だ。二輪業界の広報担当といえば、知識と経験が豊富でマニアックな人物を置くのが当然のこととされてきたが、加藤社長は菊井氏を迎えた経緯をこう語っている。

「私が二輪業界にきてまず感じたのが、バイクには会話があり、その会話が温かいものであるということでした。あるクラブイベントを開催したときのことなのですが、フォトシューティングコーナーを見ていたら、まず近寄ってくるのは女性たちで、男性は少し引いて見ているんですよ。でも乗り方がわからない女性がいると、男性が手を貸して『こうやるんだよ』なんて教えてあげたりして、ちょっと男らしさが見えたりする。そんなコミュニケーションが生まれて、そこには男も女も居場所があって、とてもいいなぁと思えました。バイクとは無縁だったところに、ドゥカティという存在を置いてみると、それを介した会話がちゃんと生まれることに気付いたのです。今、我々がやらなければいけないのは、他のジャンルの世界に食い込んでいくこと。そのためには、広告でお金を使ってマーケティングしていく人ではなく、こうしたコミュニケーションを理解できて、PRマンとしての力量がある人であり、ライフスタイル系のメディアに強いパワーのある人が必要だと考えたのです」
とはいえ、まったく別の世界から二輪業界に飛び込むには、よほどの理由がなければ躊躇するのではないだろうか。菊井氏にそう尋ねると、答えはとても明快だった。

「ドゥカティの持つブランド力に惹かれたんです。これまでずっとブランドビジネスをやってきましたが、やはりいいブランドは伸びます。世界的に見ると、ドゥカティの認知度は高いですし、私も元々バイクに乗らないわけではなかったので、憧れのようなものがありました。日本ではまだまだこれから『伸びる』と思いましたし、二輪業界もやり方次第で広がる可能性がありそうな気がしたのです」
その菊井氏の「やり方」は、これまでの二輪業界のセオリーとは違ったものだった。ひとつの情報をすべての媒体に一律に流し、それが記事になるのをただ待つのではなく、ひとつひとつの媒体の特色に合わせて、アレンジした情報を提供していこうとしたのだ。
「初めて接した二輪業界のメディアの皆様でしたが、とても優しくていろいろなことを話していただけました。その中で感じたのは、いい記事を書きたいし、いい写真を載せたいと常に思ってくれているということです。ですから私の仕事は、そのための素材を提供していくこと。媒体ごとに表現して欲しいことは違いますから、それをサポートできたらと思っているのです」

それぞれのメディアの特色を把握し、それに合った情報、素材を用意するには、メディアをしっかりと読み込み、全体の状況やバランスを見極めることができなければ、的確な判断ができない。それができた上で、この媒体にはこういう露出をされたい、こう書いて欲しいということを先に想定しておく必要がある。これはまさに、菊井氏のPR力が問われるところだが、このやり方が功を奏するには、ドゥカティというブランドをどう育てていきたいのか、加藤社長との認識が合致していることも重要だ。

しかし菊井氏のドゥカティに対する眼差しには、加藤社長とは別の視点があるように思えた。それは、まずドゥカティという存在があり、それを軸として遊びや生活をデザインしていこうとする加藤社長に対し、菊井氏はまずライフスタイルというものがあり、その中に自然なカタチでドゥカティを溶け込ませようとしているのだ。この視点の違いは、アプローチの入口は別でありながら、結果としてはどちらも同じゴール地点、ドゥカティとともに人生があるというところに辿り着く。現在のドゥカティの躍進は、この二面性がPR手法にしっかりと活かされているからなのではないだろうか。そんな印象を受けたのだった。

加藤社長は常に、「バイクを持つ」ことがまず大事だと語る。「男たるもの、バイクくらい乗れるよ」という感覚。それは、ゴルフでありウイスキーであり、ギター、麻雀、ボートといったものたちと並ぶ、男のたしなみのようなものだ。バイク、そしてドゥカティを、それと同じ感覚にまで持っていきたい。加藤社長の闘いは、まだまだ続いていく。

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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。
ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。
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