2つの岬を巡る一日旅 東京湾フェリーで海を渡る

2つの岬を巡る一日旅 東京湾フェリーで海を渡る

アヘッド 2つの岬を巡る一日旅
アヘッド 2つの岬を巡る一日旅

誰もが呆れるほどの方向音痴のわりに地図を眺めるのは好きな方だ。普段とは違う場所へ出かけた時には、後から自分が走ったルートを確認してみたり、ふと時間ができた時には地図を開いてみたりする。

この前も何気なく関東の地図を広げていたら、ふいに三浦半島と房総半島が気になり出した。2つの岬があと少しでぶつかりそうなくらい鼻と鼻を突き合わせている。観音崎と富津岬。調べてみたら約6.5㎞しかない。何だか手を伸ばせば届きそうな距離ではないか。だけど実際にクルマで行けば、高速道路と東京湾アクアラインを使っても、ぐるっと約1周、ざっと100㎞。近くて遠いとはこのことだ。そんなことを考えながら、さらに地図を凝視してみると、フェリーがある。久里浜と金谷を結ぶ東京湾フェリー。こうなるともうすでに気持ちは海の上…なのである。



この仕事を始めてから、フェリーは随分身近になった。それ以前は、本州から離れるにしても、基本はやはり飛行機。飛行機を降りた先でレンタカーを借りるというのが普通だった。でも、撮影であれば、撮影車両そのものを運ばなければならないから、フェリーを使う。それからまたラリーという競技に関わってみると、競技の開催場所が北海道であれ九州であれ、全国から参加者が競技車両とともに集まってくる。多くの人がフェリーに乗って海を渡るのである。

それらの場合は当然、船の中で一晩を過ごす長距離フェリーだ。例えば九州へ行く場合には、ほぼノンストップで大阪まで高速道路を飛ばしていくから、フェリーは良い休養の場所となる。しっかり眠って、次の朝元気にまた走り出す。旅のかたちとしてそれはそれでありだなと思うようになったが、でもちょっと気軽にというわけにはいかない。

そう考えると遊覧船のように同じ場所にまた戻るのではなくて、短い距離でも違った場所に運んでくれるフェリーは気軽で、ロマンもあって、何だかとても楽しいプチ旅ではないだろうか。

東京湾フェリーは神奈川県横須賀市の久里浜港、千葉県富津市の金谷港を起点とし、三浦半島と房総半島を結んでいる。距離にして約11.5㎞。所要時間約40分。12月の一時期を除いては、それぞれの港から毎日1時間に1本運行されており、予約もいらないので、フレキシブルに動けるのも利点だ。

私はよく知らなかったけれど、三浦半島と房総半島に挟まれた東京湾口は大きく2つに分けられ、北は観音崎と富津岬を結ぶ線、南は劔崎と州崎を結ぶ線に囲まれた水域が浦賀水道と呼ばれている。東京湾フェリーが行くのは、その浦賀水道だ。

ここは言うまでもなく海上交通の要衝であり、東京湾に出入りする多くの船舶や漁船などが頻繁に行き交っている。そのわりには前述したとおり、最も狭いところで6.5㎞しかなく、潮流も早いことから、日本の海域の中でも有数の航海の難所として知られているそうである。穏やかな内海、という勝手なイメージはどうやら全く当たっていなかったようだ。

とにかく知らなかったことばかりで、そんなひとつひとつがとても興味深い。

その日のルートは、編集部のある横浜市を出発して、第三京浜から横浜横須賀道路を通って三浦半島へ。

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まずは三浦半島の地形や海を辿ってから、対岸の房総半島へ渡るという計画。

空いていれば1時間も掛からない三浦半島は私にとってはとても身近なドライブルートだ。城ヶ島の突端からはぐるっと海が見渡せる。空は晴れ渡っているが、風が強く、波が岩に当たっては割れ、当たっては割れている。朝昼兼用の食事に三崎マグロの丼と、この辺りで取れたという金目鯛の煮付けをいただいたら、のんびりドライブしながら久里浜港を目指す。

途中、毘沙門湾の辺りにある大根畑に立ち寄ってみる。これもまた三浦半島ならではの風景だ。遠くに富士山がうっすらと見えている。三浦大根と言えばこの辺りの特産ではあるが、今では青首大根が主力らしい。品種は何であれ、冬晴れの空に青々と葉が茂り、清々しい。

久里浜港へ着いたのは手続きリミットの10分前ぎりぎり。車検証を手に窓口へ行くと、すぐにチケットが購入できた。クルマに戻ったら大して待つ間もなく、乗船のために並んでいたクルマの列が動き出す。時間のロスが少ないのもいい。

客室にあがって海を眺めてみると、対岸に房総半島が見えている。フェリーに乗ると、航路によっては見渡す限り海しか見えなくなることがあるが、やはりどこかに島影や船などが見えるとホッとするものだ。

思っていたよりも近くに船が行き交い……行き交う船が大きく揺れている。やはり今日は風が強いのだ。まっすぐ歩くのが難しい。酔いにはめっぽう強い私がちょっと居眠りしている間に、もう到着予告の放送が流れている。ゆっくりできて、かつ退屈しないちょうどよい頃合い。

さぁ海から上陸する房総半島はどんなところなのだろう。期待を胸に地下のデッキに降りて行く。クルマに乗り込み、いつでもエンジンをかけられるように準備をしていると、鉄の扉が左右に開かれ、暗かったデッキに眩しいほどの光が差し込む。その光に向かって次々とクルマの列が進んで行く。船から渡された鉄板を通って、いよいよ上陸した。

●NISSAN JUKE (日産ジューク)
好き嫌いの意見がはっきり分かれる個性的、かつ潔いデザインが最大の魅力。このクルマなら決して他に埋没することはないだろう。アイポイントが高めなので、女性でも"見やすい”印象を持つはず。ドライブフィールは静かでスムーズ。

15RX Personalize Package
(パッションレッド)
価格:¥1,943,550
総排気量:1,498ℓ
最高出力:84kW(114ps)/6,000rpm
最大トルク:150Nm(15.3kgm)/4,000rpm
燃費(JC08モード):18.0km/ℓ

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上陸してみると金谷港はとても小さな港だった。ちょっと拍子抜けしてしまったのだけれど、でもそういうことも含めて、小さなフェリーの旅は、目に映った風景、耳に届いた音、肌に当たった風、頭に思い浮かんだことなどがしっかりと記憶に刻まれていく気がする。それはクルマで東京湾アクアラインを飛ばして対岸に到達したときには感じられなかったこと。

パソコンで文字を打つのと、手書きで文字を書くくらいの違いと言えば通じるだろうか。時間がとても丁寧に流れて行く。波に揺られている時間がそのまま自分と場所との対話になる。時間や手間を短縮することによって得られるものと、時間と手間を掛けることによって得られるものが、人生にはやはりあるのだとつくづく思う。



金谷港から16号線を行くと、トンネルを抜けてすぐ蘇鉄の並木が出現する。トンネルを抜けた先、というのが驚きがあって、何だか気が利いている。そのままずっと海岸線沿いを、ひょっとしたらと、房総フラワーラインを目指したのだが、やはり季節が早すぎたようでどこにも菜の花の姿は見つけられなかった。でも、もう少し先までと走ってゆくと、視界が黄土色に染まっていく。その正体は砂。道を塞ぐようにこんもりと道路の真ん中にまで砂の吹きだまりができている。それもそのはず、海側の土手はちょっとした砂丘になっている。潮風と砂が容赦なく吹き付け、窓を開けるのもはばかられた。どおりでこの辺りには人もクルマも通らないはずである。。
 
撮影しながらの旅は案外に時間がなく、夕暮れに間に合うようにとカメラマンと私はここからまた金谷港に戻った。1月、いや2月にもなれば確実にこの辺りにも菜の花やポピーが咲き乱れることだろうと想像しながら…。



房総半島と三浦半島。それに伊豆半島も加えれば、思い出されるのは私の場合、源 頼朝である。鎌倉あたりをしょっちゅう行き来していれば、自然にそうなってしまうのかも知れない。司馬遼太郎の『三浦半島記』(朝日文庫)は何度か読み返しているが、こんな一説がある。
 
——頼朝の初期の成功は、地形論として単純だった。この3つの半島が連動したのである。

頼朝は流人として20年の歳月を伊豆半島で過ごす。北条氏に擁せられて、1180年に挙兵するも、現在の小田原市あたりで平家に破れ、敗走。海に逃れて房総半島を目指すが、途中、三浦半島の洋上で、味方である三浦氏の船艇群に出会い、ともに房総半島に上陸したという。当時、この3つの半島の中で最も勢力があったのは房総半島だった。頼朝はこの地で曲折の末、上総介広常と千葉常胤という一大勢力を得て、再び三浦半島に戻り、やがて鎌倉に幕府を開いたのだった。

そんな歴史を想いながら、三浦半島を走り、浦賀水道を渡り、房総半島を巡って、再びフェリーで三浦半島に戻ると、想像の翼はゆたかに羽を広げる。先人たちはどんな気持ちでこの海を渡ったか、どんな気持ちで対岸の島を見つめていたのか。



この東京湾フェリーの航路は、面白いことに、東京湾岸を環状に結ぶ国道16号線の実質的な海上区間として位置づけられているらしく、浦賀水道を海底トンネルまたは吊り橋で結ぶ東京湾口道路の計画もあったらしい(現在は凍結)。もし実現していれば、東京湾アクアラインによって、川崎・木更津間のフェリーがそうであったように、東京湾フェリーも恐らくその役割を終えてしまっていたことだろう。

先々のことは分からないけれど、2つの半島を結ぶこの小さな船の旅がいつまでも私たちに開かれていますようにと祈らずにはいられない。


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●東京湾フェリー
横須賀市(久里浜港)と南房総(金谷港)を結び、東京湾を横断する約40分のクルージングが楽しめる。
乗用車の積載台数は約10台、バイクは約30台。予約不要。先着順。自動車航走運賃は、車両の長さ3.0m未満で片道¥2,300、往復¥4,140(運転者1名分の旅客運賃含む)。旅客運賃は大人1名片道¥700、往復¥1,280。小人1名片道¥350、往復¥640。
運航ダイヤその他詳しくはHPヘ。 www.tokyowanferry.com

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。

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