おしゃべりなクルマたち Vol.67 自動車小僧の分かれ道

Vol.67 自動車小僧の分かれ道

アヘッド おしゃべりなクルマたち

それでも試験をしくじったらクルマは遠のく、これは確認済みで、ゆえに私は結構、安心している。人参のかわりにクルマをぶらさげて馬を走らせている、こんな気分だ。

若葉マークのドライバーが排気量の大きいクルマを購入すると保険料が跳ね上がるフランスでは若者はみな、最初は小型車に乗る。

もちろん親の名義にして保険料を下げる手もあるが、事故防止を目的にしたこういう決め事には従順なのがフランス人で、贅沢は親の特権、ガキはボロに乗ればよろしい、こういうスタンスも徹底している。ここがイタリアとは大いに異なる。

たいてい母親が日常の足とするクルマを子供に譲り、親が買い替える、もしくは40万円ほどを予算として中古の小型車を子に与えるのが一般的で、我が家は私が愛車のパンダを気に入っていることもあって、この40万円コースをとることにした。

息子が狙うのは初代のVWゴルフかビートル。不思議に感じられる選択かも知れないけれど、欧州ではこれが典型的な自動車小僧のセレクトで、この2台が彼らのイコンなのだ。

どうしてイコンになったのか、その理由を挙げればキリがないが、最終的には数の多さ、値段の安さ、そして遊びの雰囲気に溢れていること、これが大きい。携帯やパソコンやゲームには最新を求め、クルマにはレトロを追求するのが私には不思議。

実際、サイトをのぞくとオリジナルに忠実にレストアしたゴルフから、レストアを待つゴルフから、朽ち果てる寸前のビートルから、ピカピカのそれまで、ブツには事欠かず、いずれも40万円で充分まかなえる。なによりパーツが豊富で、ドア・ハンドルからシート生地(オリジナル ! )までなんでも有り。

バンパーはクロームにするかプラスチックか、小僧がおらぬ昼間にサイトを眺めていると、こんなことを真面目に考えてしまう。それにしてもネットの発達は部品調達をなんと身近にしたのかと思わずにはいられない。

昔、フィアット・チンクエチェントに乗っていた時代には部品探しにいつも泣かされた。猛犬がいるような解体業者に出向いて自分で探すか、電話をかけまくって有無を尋ねた。部品のタイプが複雑になるとファックスを使ったが、ファックスを送る前には「これからファックスを送ります」と電話を掛けた。

それが、あなた、今じゃ…。

我が家の小僧の、現在の悩みはボロを20万円弱で買って残りの予算で徐々にレストアするか、ある程度、整ったモノを40万円で手に入れてまずは運転の楽しみを味わうか、彼いわく人生の分かれ道に立たされている、そうだ。お幸せなこと。それでも私ならどちらを選ぶかとふと、思ってしまう。

あなたなら、どうします?

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text:松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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