埋もれちゃいけない名車たち VOL.20 日本に導入された最後の上級セダン「ルノー 25」

アヘッド ルノー 25

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今、ルノーがかなり熱い。去年の秋口から導入が始まった4代目ルーテシアはスタンダード版もスポーツ版も評価がすこぶる高く、今年の2月からデリバリーがスタートしたキャプチャーも、受注は好調らしい。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.136 2014年3月号]
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VOL.20 日本に導入された最後の上級セダン「ルノー 25」

VOL.20 日本に導入された最後の上級セダン「ルノー 25」

〝サイクル・オブ・ライフ〟というルノーの最新デザイン戦略は、人の一生を6つの連続するステージに分け、ひとつひとつにテーマを設けてコンセプトカーを作り、それを具現化した市販車を世に送り出すもの。第1弾は〝恋に落ちる〟のテーマでルーテシア、第2弾は〝冒険に出る〟のテーマでキャプチャー。どちらも素晴らしい結果を生んでいる。

第3弾以降のコンセプトカーも出揃っているが、気になるのはその中に1台としてセダンが存在しないこと。ルノーは過去に数多くの質のいいセダンを生み出しており、とりわけ上級セダンは、派手さはないが抜群の居住性と素晴らしい乗り心地を兼ね備えたモデルであることが多かった。

考えてみたら、今も本国ではラティテュードという上級サルーンを販売しているが、それは傘下にある韓国のルノー・サムスン製のセダンをベースにしているせいか、今ひとつルノーらしさに欠けている。ルノーはもう、こうしたセダンには見切りをつけようとしているのか。

日本に〝本格的に導入された〟といえる最後の上級セダンは、おそらく「25(ヴァンサンク)」だったといえるだろう。無駄に排気量を大きくしないクルマ作りに関しては世界屈指といえるフランスだが、25は戦後初のルノーのオーバー2リッター車となった30(トラント)の後継として1983年にデビューしたフラッグシップ。

でありながら後ろに5枚目のドアを持つハッチバックボディとされたのは先代の30から継承されたもので、いかなるクルマにも最大限の実用性を持たせるルノーらしい考え方だった。トップグレードは2・7リッターV6を搭載しており、意外やCd値0・28と空力特性に優れていたこともあって、高速巡航時の望外の速さと滑らかな走りのフィールは賞賛に値するレベルだった。

特筆すべきはその乗り心地の良さで、何の変哲もないサスペンションなのに夢のようにフラットでしなやか。シートが絶品といえる座り心地だったこともあって、自宅のリビングルームにいるより快適に思えたものだ。本当に素晴らしいクルマだった。

が、日本ではさっぱり売れなかった。導入がちょうどバブルに湧き始めた時期。同じ価格帯には他にメジャーなモデルがたくさん存在した。
今では熱意あるオーナーが維持する数えるほどの個体が残るのみの絶滅危惧車だが、その乗り味はマニアの間では伝説になっているほどだ。

再びこんなセダンがルノーから生まれたらいいのに、と心から思う。また売れないかも知れないけど……。

ルノー 25

1983年にデビューしたルノーのフラッグシップ、25(ヴァンサンク)。全長4,640㎜、全幅1,770㎜という当時のフランス車にしてはかなりゆったりしたサイズを持っており、とにかく居住性と乗り心地のよさに優れたモデルだった。ホイールベースが延長されたリムジンも生産され、フランスの大統領専用車に採用されたほどだ。

途中からシートなどを本皮であつらえた豪華な内装や荷室上部に同じく本革製のコートケースを備える“Baccara(バカラ)”がラインアップされるなど、当時のフランスで随一といえる高級車であった。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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