特集 元『Tipo』編集長 嶋田智之 推薦!これからはじめる趣味的クルマ生活

prologue

これからはじめる趣味的クルマ生活

アヘッド クルマ生活

のっけから極めて私的な話をさせていただくけれど、つい最近、思いがけず昔の仲間が顔を合わせる機会があった。ハナタレ小僧だった頃からの幼馴染だったり中学校から一緒だったりと様々だが、とりわけ10代の後半を一緒に笑ったり不貞腐れたりしながら濃く過ごした連中で、有り体にいってしまうなら学校の先生方からはありがたがられなかった類の、残念なタイプの元少年達だ。

40代も半ばを過ぎた男達が数年ぶりにグラスを傾ければ、話は嫌でも過去に転がっていく。誰かのヘマを囲んで笑ったり、別の誰かの秘密が今さら露になって仰天したり。他愛ないそうした時間の流れの中で、楽しい気分を感じながらも、ふと酔いが醒めそうになる瞬間というのが僕にはある。若い頃に乗ってたクルマの話がどこかから出たりすると、少し身構える。どこか座りが悪くなる。

中古のフェアレディZをチューンナップして公道ゼロヨンにトライしてたヤツ。当時“ハイソカー”などと呼ばれたおっさんセダンをシャコタンにして、踏切で腹を打ち付けてマフラーを落としたヤツ。軽自動車で普通車を追い落とすことに情熱を捧げたヤツ。最新鋭のナンパ車を頑張って手に入れたのに全く報われなかったヤツ。正統派FRクーペを夜ごと峠に向けてレース出場を夢見てたヤツ。方向性は見事バラバラだったけど、みんなクルマが好きだった。

楽しかったよなぁ、あの頃は…。

そう、想い出話なのである。記憶はあやふやだけど、10年くらい前か、いや、15年くらい前だったか。結婚をし、子供が生まれ、仕事にも追われ─。そんな歳まわりに差し掛かった辺りからだと思うけど、気づいたときにはそんな感じになっていた。そのくせこんな仕事をしてる僕と久しぶりに会ったりすると、デビューしたばかりの話題のニューモデルや昔から憧れてるブランドの現行モデルについて尋ねてくる。

子供が手を離れたら昔みたいにスポーツカーに乗りたい、歳をとったらベンツのオープンに乗りたい、金ができたらGT|Rかポルシェが欲しい…。関心らしきものは持っている。希望らしきものは持っている。過去形じゃなく、今でもクルマが好きなのだ。ただ、半ば諦めちゃってるだけで。停まっちゃってるだけで。それが言葉に変換されるとこうなる。

昔は金がなければないなりに、好き勝手に選べたからなぁ…。

でもさ──とノドまで出かかった言葉を、僕は飲み込むことにしてる。それぞれに社会に向けての顔があり、それぞれに家庭があり、それぞれに事情があるのだから、何もかも独りで日々を気ままにやってる僕がクチダシすることじゃない。けれど、胸の中ではいつだって「でもさ、解らないわけじゃないんだけどさ」という言葉が渦巻いてる。だからちょっとばかり気持ちの座りが悪いのだ。

僕が実家に乗って帰ったくたびれ果てる寸前の古いメルセデスのステーション・ワゴンを見て、迎えに来た下戸の友達は言ったものだ。

「うわ、お前、ベンツかよ。いいなぁ。儲かってんなぁ」。

「俺に言わせれば、儲かってるのはお前の方だよ。このエルグランド1台分で、俺のクルマ、10台買えるぞ」。

「わはは。ふざけるなよ馬鹿」。

利口じゃないことは認めるけれど、ふざけてなんかいない。エルグランドは特殊なモデルを除けば310万8000円から554万4000円。僕の20年も前のメルセデス・ベンツ300TEは、その気になれば楽に10分の1の価格で見つけられる。

さすがにここまで古いと手に入れてからのリスクは大なり小なりあるが、もっとリスクの少ない領域で、コストもそれほど莫大じゃない範囲内で、いろんなタイプの好みだとか趣味心だとかを満たせるチョイスが意外とたくさんあるものなのだ。

みんな、意外とそれに気づいてない。あるいは端から「無理!」と思い込んじゃって、見ないでいるのかも知れない。といったところで、僕の私的な話はにわかに一般的な話に繋がるわけだ。実はよくある話なのである。

本当は結構なクルマ好きで自分の趣味や好みに近いクルマに乗りたいのに、あるいは個性的なクルマや趣味的なクルマに憧れを持っているのに、自分にとっては味も素っ気も感じられないようなクルマしか選べないと思い込んで退屈なクルマ生活を送ってるケースの何と多いことか。

考え方をちょっとシフトして、一歩踏み出してみれば、人生をもっと楽しくするチャンスがそこにあるというのに。“もう終わっちゃった人”でもないだろうに、それはとってももったいないことだと思うのだ。

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