素晴らしき「多重人格」─ドゥカティ ムルティストラーダ1200S

アヘッド 素晴らしき「多重人格」 ─ ドゥカティ ムルティストラーダ1200S

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バイク乗りだけは、どうしてか最先端のことを全て受け入れない傾向がある。四輪の世界でも一部そういう趣向はあるが、良きにつけ悪しきにつけ、全体からすると二輪の割合には及ばない。懐古的というよりも、バイクのコントロールがマシンのポテンシャルより、ライダーの技術や感性に依存する割合が多いからだ。

text:大鶴義丹 photo:渕本智信 [aheadアーカイブス vol.124 2013年3月号]


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素晴らしき「多重人格」─ ドゥカティ ムルティストラーダ1200S

素晴らしき「多重人格」─ ドゥカティ ムルティストラーダ1200S

●最高出力:77.2kW(105hp)/6,000rpm ●最大トルク:116.6Nm(11.9kgm)/6,000rpm。 ●価格:ムルティストラーダ 1200 ¥1,850,000 /ムルティストラーダ 1200 S ツーリング ¥2,190,000 /ムルティストラーダ 1200 S パイクスピーク ¥2,475,000 /ムルティストラーダ 1200 S グランツーリズモ ¥2,390,000


しかし、そのように言われてきたのは既に過去の話で、ここ数年はその方程式も大きく変わってきている。とくにバイクレースの最高峰であるモトGPなどでは、電子制御を使いこなせるか否かが焦点になっており、結果に大きく関わる。

それをモトGPテクノロジーというのだが、正直私のような'80年代バイクブームを原風景に持つバイク羅漢は、バイクを己のコントロール下におくのが羅漢だという偏狭な教義を持っている。

そんな私が現在市販車としては、最先端の電制御機能を最も盛り込んでいると言われる、ドゥカティ ムルティストラーダと対面した。その名はイタリア語で「多様な道」という意味だ(英語ではマルチストリート)。

つまりどんな道でも最適に走れると宣言しているような訳だが、四輪に比べてバイクは二輪という不安定な構造上、多様な走行性能を同時に持たせることが難しい。

「未舗装路・街中・ツーリング・スポーツ走行」。

しかしこのマシンは四種類の走行性能を一瞬で可変できるという。それもエンジン出力特性だけではない、サスペンションの特性に加え、ABSの効き方、さらにはトラクションコントロールの介入の仕方、それらを全て同時に複雑にコントロールするという。他にも色々なコントロール機能があり、本当にハイテク化の天井が見えないくらいだ。

果たしてそんな四つの番組をいっぺんに見ることが出来るのだろうか。ある種の疑念を持ちながら走り出すと、30年近いバイク歴の中で初めて感じた感覚が目の前に現れた。

今回は「未舗装路」だけは試す場所に恵まれなかったが、ハッキリ理解したことは、エンジン特性から、サスペンションが生み出すコントロール感、それら全てがそれぞれの「チャンネル」で見事なまでにとても分かりやすく表現されているということだった。

ちょっと変わったかなということではなく「ガラリ」とマシンそのものが別の車体に変わったように、エンジンの性格や車体の振る舞いが一瞬にして変わる。だから色々と試していると、自分がどんなバイクに乗っているのか、嬉しい混乱を起こすくらいだ。性能や特性の天井が全く見えない。

数日乗り回していると、このマシンは四つの性能を持たせようとしているのではなく、四つのバイクを一つの車体に詰め込もうとしていることが分かった。だから車体の性能を変化させるのではなく、車体自体を乗り替えたのだと思うようにすると、その不可思議さがとても心地良いものに変わってきた。
▶︎4つのライディングモードの選択は、ウインカーのキャンセルスイッチで走行中でも変更が可能。グリップヒーターは3段階の調節ができる。電子制御式サスペンション(DSS)は、減衰力を走行中に自動的にコントロールする。パニアケースの荷物量の増減やタンデム時の荷重の変化も感知する(Sモデルのみ装備)。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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