ひこうき雲を追いかけて vol.39 片道5キロ

vol.39 片道5キロ

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まず環境が大きく変わった。クルマを手に入れたころ、編集部は中目黒にあった。駐車場はなく、コインパーキングは1日停めると3,000円近くも掛かる、というわけでクルマ通勤というわけにはいかなかった。仕事以外でクルマに乗るのは必然的に週末だけということになる。

それにまだクルマに乗り初めて1、2年の私は、運転するたび大きな緊張感にとらわれてもいたが、それと同じくらいクルマがもたらしてくれる喜びを全身で感じていた。

その喜びの半分以上は、ルーテシアというクルマのおかげだったかも知れない。癖があって、お世辞にも乗りやすいとは言えなかったが、特に高速道路やワインディングではルーテシアは、ときに快感とさえ言いたくなるほどのフィーリングを感じさせてくれるクルマだった。

今は。運転にも随分慣れて、クルマもルーテシアからポロに変わった。2年半ほど前には、編集部は横浜に移転し、駐車スペースも確保され、ほぼ毎日クルマで通っている。

自宅から編集部までの距離、わずか5㎞。時間にして約20分。でもこれが単なる移動にあらず。“道”として見れば、深夜ドライブには比べるべくもない。自宅からほぼ真っ直ぐ。片側1車線。日中はほぼつねに渋滞。路線バスも走る。自転車やバイクのすり抜け、歩行者の道路の横断当たり前。初めのころはけっこうなストレスだった。でも今は諦めている。

前のクルマがとろくても、片側1車線じゃ、どんなに頑張っても追い抜きは無理。東横線に並行して走る道ゆえ、自転車や歩行者が多いのもやむを得ない。とにかく安全第一。

そう思ったころから逆に、この20分が楽しくなった。20分がときに30分になっても。出発前に流す曲を決めてCDを入れ替える。片道でだいたい3曲から4曲。歌をくちずさみながら、クルマの流れに自分を同化させて、たまにすーっと加速したり、緩やかにカーブしたり。片道5㎞の小さなドライブにも、ちゃんとクルマの愉しさは詰まっている。

そう、多分、私はとても満足しているのだ。わざわざ大きな喜びを掴みに出かけなくても良くなったということなのだと思う。でも、ま、本当は歳を取って落ち着いちゃったってだけのことかも知れないのだけれど…。

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。

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