DUCATI japan interview 前編 DUCATIは夜も美しい

アヘッド DUCATI japan interview 前編 DUCATIは夜も美しい

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レーシングレッドと呼ばれる情熱の赤が、ドゥカティのイメージカラーとなったのは'80年代初頭のことだった。当時、経営危機に陥っていたドゥカティには、経営者に欠けているものがあったという。才能あるエンジニアたちによる技術革新と、数々の施策が実を結び、ドゥカティは見事に蘇るのだが、それらを一言で表現するならば、真っ赤な色に投影されるような「情熱」だったとドゥカティ史は語っている。

text:まるも亜希子 [aheadアーカイブス vol.138 2014年5月号]

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DUCATI japan interview 前編 DUCATIは夜も美しい

DUCATI japan interview 前編 DUCATIは夜も美しい

▶︎表参道のクラブ「ORIGAMI」での展示


現状を打破しようとした時、多くの人は過去の否定から始めてしまいがちだ。しかし本当に必要なのは、どこまでその対象物の本質を見抜けるか。そこから、それまで誰も気づかなかった価値を見い出すことができるか。

そしてさらに、その価値を最大限に活かす方法をどれだけ実行できるか。こうした能力なのではないだろうか。そして、その能力を発揮する原動力となるものは何かと問えば、やはり「情熱」となるのだろう。
加藤 稔 社長


ドゥカティ・ジャパンの加藤 稔社長は、日本におけるドゥカティのさらなる飛躍を期待され、大きなプレッシャーとともに四輪業界から突然、大抜擢されて約5年になる。その間、他のメーカーが伸び悩む中でも業績は右肩上がり。収益は約130%アップを達成しており、その勢いはまだまだ留まる気配がない。

そんな加藤社長がとった方針こそが、それまでのドゥカティが見せることのなかった新しい価値を見い出し、人・場所・ファッション・ライフスタイルといったものとの新たな出逢いを生み出すことだった。

とくにインパクトが強かったのは、2012年の夏に第一弾を開催した、クラブイベントだ。常に新しい刺激に飢えた若者たちで溢れかえる夜のクラブで、スポットライトを浴びたドゥカティとトレンドファッションに身を包むモデルたちが、ステージを妖しく盛り上げる。

別のスペースではメディアボードの前にドゥカティを置き、自由に跨がって写真を撮ることができる、フォトシューティングコーナーを設けた。ステージでの斬新な光景は間違いなくドゥカティの新境地を開拓。女性たちが予想以上の興味を示し、その夜、SNSはドゥカティに跨がる若者たちの楽しげな写真で彩られた。
▶︎渋谷のエンターテイメントスペース「T2 SHIBUYA」での展示


加藤社長はそのクラブイベント開催への動機をこう振り返る。

「若者のクルマ離れ、バイク離れと言われて久しいですが、実際に聞いてみるとそれほど興味がないわけではないんですね。ただ、気軽に触れたり好きなだけ眺めたり、ちょっと乗ってみたりできる場というのがまったくない。それはこちらも悪いんじゃないかと。うちの倉庫、本社の駐輪場には、それこそ売るほどバイクが停まっているわけですよ。それなら、どんどん外に出していこう。いろんな人に見てもらって、触れてもらうこと。まずそこからだと考えたんです」

いつの間にか、サーキットや峠道など、ドゥカティの姿があるのは普通の人たちが近寄り難い場所に偏り、イメージはテクニカルで若者の感覚では受け付けにくいものになっていた。アンケート調査でドゥカティの知名度を調べてみると、30%と低い結果が出たという。

そこからの転換には、人が集う場所にこちらから出かけていき、バイクについてまわる既存のイメージとは違う切り口で見てもらうこと。それが第一歩だという加藤社長の思い切った判断は、試行錯誤でのスタートながらも大きな反響を呼び、好循環が起こり始めている。

「若者たちに知ってもらいたい、という目的のほかに、やはり感度の高い人たちが多く回遊している業界ですから、そういう人たちのアンテナにバイク、ドゥカティをキャッチしてもらいたいという目的もあったのです。その後、たくさんのクラブからオファーをいただくようになって、おかげさまでその目的はクリアしたのかなと思っています」
▶︎表参道のクラブ「ORIGAMI」での展示


加藤社長が最初にクラブという場所を選んだのには、「夜」がひとつのキーワードだと考えたからでもあった。イタリア本社のCEO、クラウディオ・ドメニカーリ氏は、見ているだけでアドレナリンが湧き出るような、極めて美しいモーターサイクルをデザインし製造することが自らに課した使命だと語っている。

そのデザインを加藤社長は「できれば、夜に見せたいと思った」のだという。昼間でもいいが、夜、スポットライトを当てると、ドゥカティの造形が最も美しく見えるからだ。

そして、バイクの世界のみで理解されるカッコ良さではなく、世間一般でいうカッコ良さ、遊びのイメージを創るには、感度の高い人が活動している夜にドゥカティのステージを創るしかない。こうした加藤社長の感覚、センスが正しかったことは、ドゥカティに乗り換える著名人が増えている事実からも窺える。

「こうした活動はメインではないですし、やったからといって即、販売に結びつくとも思っていません。それでも、やっていくことでバイクを取り巻くイメージも変えていけると思うのです」

加藤社長のこの言葉は、のちにまた新たな感性でドゥカティへ情熱を注ぐ人物との出会いによって、現実のものとなっていくのだった。

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text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。
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