忘れられないこの1台 vol.39 HONDA CT110

vol.39 HONDA CT110

アヘッド 忘れられないこの1台 vol.39



▶︎先代のCT90に続くカブ系レジャーバイク。同時期に発売されたシルクロード、TL125と並んで、ホンダ トレッキングバイクのジャンルを築いた。各種装備が充実していた海外向けに比べ、国内版はサブミッションなどが省かれて貧弱感は否めなかった。83年に販売終了。海外仕様は現在も根強い人気がある。


そのころ近所のホンダ専門店でバイトをしていた僕は、そんな政治的裏側を知る由もなく、ただ、その個性的なスタイリングに魅入られてしまっていた。そして、一年前に手に入れた250Vツインを、オフロード指向に傾き出した事情もあったとはいえ、躊躇することなくて下取りに出す事にした。

既に限定解除も取得していたので、バイク仲間からは「なぜわざわざマイナーな原付二種を」といぶかしがられたりもしたが、その時のCTには、当時主流だったレプリカ達にはない特別なオーラを感じていたのである。

特に気に入っていたのが、カブの面影を残しつつ、より実用性と趣味性を強調した装備の数々と、大径化したホイールだった。ある日の台風に見舞われた通勤路では、膝辺りまで増水した用水路脇を嬉々として走り抜け、不謹慎ながらもお気に入りポイントの特性を十二分に発揮できた状況に感謝した。

カブ譲りの取り回しの良さと、必要充分な動力性能がもたらす走行感も痛快で、クセを掴めば遠心クラッチでのフロントリフトも容易に行えた。とはいえ、不満もないわけではなかった。

海外仕様に比べて、国内版は装備が簡素な造りだった。パーツリストを取り寄せて、販売店勤務のコネも生かして次々とパーツを付け足していった。

アヘッド 忘れられないこの1台 vol.39

そんな蜜月の時を一年余り過ごした僕は、夢であった現在の仕事に就くために東京に出ることを決めた。もちろん、CTも一緒に、である。母に見送られながら福岡の実家を後にして、見慣れた街並みの中を門司港に向けてひた走る。軽快な排気音を奏でながら進むCTの鼓動は、期待に満ち溢れた心をさらに昂ぶらせた。

だが、翌々日早朝、晴海の埠頭にCTと共に降り立った僕は、大都会東京が醸し出す澱んだ雰囲気と不慣れな道路に、直前まで持っていた高揚感をすっかり奪われてしまう。未来や仕事への不安、それ以前に新居の在る世田谷まで無事に辿り着けるのか。ともかく動き出さなければ話にならない。気持ちをまぎわらす様にエンジンに火を入れた。

いつもどおりに一発で始動したCTは、曇天の春空に例の軽快な排気音を響かせた。その音色を聴いた瞬間、僕は全身に安堵が広がって行くのを感じた。「オレが一緒だろ」あの時のCTは、間違いなく唯一無二の相棒だった。

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text:渕本智信/Tomonobu Fuchimoto
1960年福岡生まれのフォトグラファー。 日本版サイクルワールド誌編集部や出版社勤務を経て、現在はフリーとして他分野の撮影も行う。歴代のバイクは何故かホンダばかり。不動車に成りつつあるアフリカツインを尻目に密かにKTMオーナーを夢見るも、カメラの新調に迫られる今日この頃。

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