埋もれちゃいけない名車たち VOL.1 官能的に奏でるエンジン「Alfa Romeo Spider」

アヘッド Alfa Romeo Spider

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何かすごく嬉しいことがあって、ひとり叫び出したくなるようなハッピーな夜。心の奥の方がチクチクと痛んで、自分が澱になってしまいそうな重たい夜。まぁ、生きてるのだから色々な夜があっていい。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.117 2012年8月号]
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VOL.1 官能的に奏でるエンジン「Alfa Romeo Spider」

VOL.1 官能的に奏でるエンジン「Alfa Romeo Spider」

だけど、いつもとちょっと違うそんな夜の中にいるとき、意味もなくクルマで走り出したくなったりすることはないだろうか? 僕にはある。それも比較的しばしば、わりと衝動的にクルマのキーを握りしめて家から飛び出したりする。というか、原稿書きにつまったり倦怠を感じたりする程度のことで、さっさと腰を上げてしまうようなところがある。

ほとんどの場合は目指す先があってそこに行きたいわけではなく、決めごとなしに何となくただ彷徨っていたいだけ、クルマを走らせたいだけ。クルマという魔法のカプセルの中に身を置いて、何にも束縛されない時間を、気のまま想いのままどこへでも行ける自由な感覚とともに満喫して、また戻ってくるだけ。

目黒のはずれにある僕の自宅からは、それこそ第三京浜を往復するくらいがちょうどいい。行きは少し飛ばして。帰りはゆっくり流して。たったそれだけのことで、気分はだいぶ変わる。…でしょ?

そんなときに最も相応しいクルマとして、近頃「ああ、欲しいなぁ…」と願っているのが、アルファ・ロメオのスパイダー。1995年から2006年にかけて生産された2代目であるタイプ916の、V6ユニット搭載車である。

主流と言えた2リッターのツインスパーク・ユニットも過去に「4気筒のフェラーリみたい」と記したことがあるくらいでもちろん素晴らしいのだけれど、3リッターもしくは3.2リッターの排気量を持つこのV6のシリーズは別格だと思う。

なぜにそこまで絶賛するか、それは「フェラーリ、いらないんじゃない?」と感じられるほどの音色の美しさで駆る者を魅了してくれるからである。

サウンドを文字で表現するのは極めて困難なのだが、1979年デビューの〝アルファ6〟というクルマに初めて搭載されて以来ちょっとずつ発展を続けてきたこの古めかしいV6は、低回転域ではゴロゴロと少々ドスの効いたビートを奏で、回転の上昇とともにルルルルルとリズミカルなミュージックへと変化し、トップエンドに近づくに従ってクォーンという、ちょっとだけ濡れたような官能的なメゾソプラノで高らかに楽章を歌い上げるようになる。ボンヤリしてると鳥肌を立ててしまうことがあるくらいドラマティックなのだ。

しかもスパイダーは、その名のとおりオープンカーである。屋根を閉じているとき、開け放ったときの2種類の、微妙に、けれどハッキリと異なるドラマを、ドライビングシートという特等席で楽しめる。

誰もこのクルマを大声で「名車だ!」と喧伝したりはしないけど、これほどドライバーの気持ちに、いや人生そのものに鮮やかな彩りを与えてくれるクルマというのは、そうあるもんじゃない。

Alfa Romeo Spider

1966年から93年まで生産された初代アルファ・スパイダーの跡目を継ぐかたちで1994年にデビューした、2代目スパイダー。ピニンファリーナ時代のエンリコ・フミアがデザインしたスタイリングは、大胆なキャラクターラインが特徴的な妖艶な雰囲気。

搭載エンジンは150psの2リッター直4が主流でハンドリング性能ではそちらに軍配が上がるが、V6ユニットは2003年以前の3リッターが220ps、それ以降の3.2リッターが240psと速さ的には文句なしにこちら。またフィールの気持ちよさでもこちらを推す声が高い。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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