F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.29 フェルナンド・アロンソ

アヘッド vol.29 フェルナンド・アロンソ

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F1ドライバーは腕自慢ばかりである。ただし、マシンの良し悪しが速さに大きな影響を与えるのが特徴でもある。1年前、2年前にチャンピオンを獲得したドライバーの走りがいきなり精彩を欠くのは、ドライバーとしての技量の衰えではなく、その年のマシンの仕上がりが競合チームより劣っているからと考えていい。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.117 2012年8月号]
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Vol.29 フェルナンド・アロンソ

Vol.29 フェルナンド・アロンソ

だが、そんな一般論が当てはまらないドライバーがいる。フェラーリのフェルナンド・アロンソだ。シーズン中盤戦に入ってマシンのパフォーマンスが上がってきているとはいえ、ナンバーワンの実力ではない。チームの総合力を表すコンストラクターズチャンピオンシップで、フェラーリは第8戦終了時にレッドブル、マクラーレン、ロータスに続く4位につけていた。

だが、ドライバーの序列を表すドライバーズチャンピオンシップのトップには、アロンソが立っていた。実力では4番目のマシンなのに、である。第2戦マレーシアで今季初優勝を遂げると、地元開催の第5戦スペインで2位、第6戦モナコで3位、そして、年に2回目の地元開催となる第8戦ヨーロッパでも優勝を遂げた。11番手からスタートして、である。

腕自慢ばかりに囲まれているのに、道具にハンデのあるアロンソだけがなぜ上位に進出できるのか。その理由は、チェッカードフラッグを受けるまで絶対に諦めない粘り強さである。

アロンソ以外のドライバーが追い上げてきたとしても、前を走るドライバーは特段プレッシャーを感じず、運転を続けることだろう。ところが相手がアロンソの場合はそうはいかない。彼は事を成し遂げるまで一切引かない。しつこく食らいついてはミスを誘い出し、最後には必ず前に出る。
バレンシアで開催された第8戦ヨーロッパで11番手からスタートしたアロンソは、「後で難しくなる」からと1周目から攻撃的に仕掛け、追い抜きが難しいコースで3台を立て続けに追い抜いて8番手まで浮上した。仕掛けるべきタイミングで仕掛け、狙いどおりの結果を手に入れるところが「強さ」である。

レース中盤、アロンソは3番手を走っていた。コース上の破片を取り除くためにセーフティカーが導入されたが、そのセーフティカーが離れ、再スタートが切られた直後には、目前の1台をやや強引に追い抜いて2番手に浮上した。

ここでも、仕掛けるべきタイミングでの仕掛けを実行。その直後、トップを走っていたベッテル(レッドブル)がトラブルでリタイヤしたために、トップの座が転がり込んだ。

国が置かれた経済的に困難な状況にもめげずサーキットに足を運び、自身に声援を送ってくれたファンの気持ちを汲み取ったアロンソは、表彰台の頂点でひと目をはばからず涙を流した。

勝利にこだわる執念だけでなく、ファンを思う気持ちも人一倍強い。F1がヒューマンスポーツである理由を、アロンソの走りとファンとの濃密な関係が示している。
▶︎アロンソは第9戦イギリスで2位に入り、ドライバーズチャンピオンシップで2位との差をさらに広げた。安定感も抜群で、開幕戦から連続してポイントを獲得しているのはアロンソただ一人である。混乱に巻き込まれることの多い中団からスタートすることも珍しくないが、当てられずに生き残る技術に長けているのもまた、強さの秘訣。写真・Ferrari

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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