おしゃべりなクルマたち vol.41 寂しくないか

vol.41 寂しくないか

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たいへんなクルマ好きでおしゃべり、ちょっと慌て者、ここまではウチの息子にそっくりなのだが、豚児と異なるのは繊細さを備えているところ。いつだったか、一緒にテレビを見ていたときにニホンのニュースが流れた。満開のサクラの映像に「わあ、きれい」と歓声を上げた彼が、突然、私の手を握り、低い声でこう尋ねた。「寂しくないか」。生まれかわったら彼と結婚したいとしみじみ思う。
 
年があけてすぐ、甥っ子一家が住むミラノに出掛ける用事ができた。グッドタイミング。帰りに寄りたいと電話をかけると受話器の向こうで、弾んだ声がする。

「それで今回はどんなクルマで来るの?」
 
彼の家に寄るときは仕事帰りのことが多いから、足は必然的に試乗車やらレンタカーとなる。これを甥っ子はとても楽しみにしていて、泊まった翌日はいつも学校まで私が送っていく、これが習慣となった。楽しそうに窓を開けたり、シートに何度もストンと腰を落としたり、スイッチをいじったりする姿がかわいくて、おまけに学校に着くと友達を見つけては自慢する。

「ウチのおばちゃん、また新しいクルマ、買ったんだよ」。豚児が言ったら「嘘をつくんじゃない」と叱りとばすところだが、彼が言うといじらしい。

「今回はね、ハイブリッドカーで行くよ。みんな感心するんじゃない?」
 ニホン人のおばちゃんは時代の先端を行く。そういうつもりで張り切って答えたのだが、しかし――。うーんと唸った彼が困った声を出した。
「ハイブリッドカーはデザインが地味だし、エンジン音が静かでしょ。目立たないからボクたちの世代には人気、ないんだよ。自慢できないなあ」。
 
予想外の返事に言葉を失う。ウチの息子が小学生だった頃、手に入れたばかりのプリウスで送って行くと友達が集まってきた。「すげえ、ハイブリッドだ」、大騒ぎになってこちらが当惑したのだが、この話をすると甥っ子がぼそぼそ答える。

「フランスの子は進んでるなあ。ボクたちイタリアの子は田舎者だから、いまだにエンジン音のでっかい赤いスポーツカーが好きなんだ」。
 
田舎者という言い方がおかしくて思わず吹き出すと彼もつられて笑い声をたてる。そうしながら照れた声で言ったのだった。

「ハイブリッドにはふたりで乗ろう。二人っきりで夜のミラノをドライブしよう」。

 今度は私が照れる番。お気に入りの男の子にデートに誘われた気分になって、私はそそくさと旅の支度を始めた。

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text : 松本 葉  / Yo Matsumoto
コラムニスト。鎌倉生まれ鎌倉育ち。『NAVI』(二玄社)の編集者を経て、80年代の終わりに、単身イタリアへ渡る。イタリア在住中に、クルマのデザイナーであるご主人と出会い、現在は南仏の海辺の町で、一男一女の子育てと執筆活動に勤しんでいる。著書:『愛しのティーナ』『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)など。

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