ひこうき雲を追いかけて vol.40 こどもだねえ

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確かあれは大学受験のときのことだった。
いくつかの大学の入試を受けたのだが、風邪をひいて、医務室にお世話になった方がいいかもと思うほどに、どうにも体調の優れない日があった。

その日の試験が終わって、当時付き合っていた年上の彼氏に「どうだった?」と聞かれ、体調が悪くて云々とぐずぐず報告したら、「こどもだねぇ」と呆れたようにそう言われた。

text:若林葉子 [aheadアーカイブス vol.111 2012年2月号]
Chapter
vol.40 こどもだねえ

vol.40 こどもだねえ

あれから20年が過ぎた今でも、どうしてだか、ときどきそのことを思い出す。
 
今はもちろん、その人の言いたかったことはよく分かる。体調が悪いことを結果の言い訳にできるほど世の中甘くはない。大事な日に体調が整えられなかったことを恥じるどころか、言い訳を並べ立てるなんて、本当にみっともない。だけど、高校生の私は、そんな当たり前のことさえ分からなかったのだ。
      *
今月号、femmeの特集では1月に行われたダカールラリーを取り上げた。

出場者はみな、1年に1度のこの14日間に的を絞って、あらゆる準備を進める。マシンなどのハード面はもちろんだけれど、
でもやはり、一番難しいのは、スタートのその日に向けて体調をベストな状態に持っていくことだろう。

さらには14日間という決して短くはない期間中ずっと、その体調を維持し続けることだって簡単ではない。
 
もし今、「一か月後のこの日に向けて体調をベストな状態に整えてください」と言われたら、私にそれができるだろうか。いや、まったく自信がない。
 
その日に向けて何か特別な、いつもと違うことをしたら、却ってマイナスの結果を生みそうだ。かと言って、いつもの生活のままだと、上がったり下がったりでお話にならない。
 
ということは多分、“その日のために”体調を整えるというのは、――トレーニングなどは別として、1年間“いつも”いい状態を維持することとイコールだということだ。
 
人間だから体調のいい時も悪い時もあるのはふつうのこと。
でも優秀なアスリートというのはやはりふつうではなれないわけで、彼らは体調管理も含めたスペシャリストなのだ。
 
ダカールラリーの日本人選手の活躍を前に、かつてこどもだと言われた高校生は、20年の月日を経て、果たしてちゃんと大人になれたのだろうかとやはり自信のない私である。
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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。
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