キアヌ・リーブスがプロデュースした量産バイク ARCH KRGT-1

キアヌ・リーブスがプロデュースした量産バイク ARCH KRGT-1

アヘッド ARCH KRGT-1

フロントフォークを大胆に寝かせたスタイルや太いリアタイヤなどを特徴とするアメリカン・カスタムが大半を占め、〝マチズモ〟をストレートに昇華させたスタイルがメインストリームだといえるだろう。

しかしここ数年、とくにロサンゼルスで活動するカスタムビルダーたちは、そうしたスタイルとは異なる、新たなアメリカン・カスタムを生み出している。

「ローランド・サンズ・デザイン」や「デウス・エクス・マキナ」は、小排気量シングルから4気筒、最新スーパースポーツなど、日本車やヨーロッパ車をベースにしてしまう。「チャボ・エンジニアリング」や「ブラット・スタイル」といった、日本からロサンゼルスへ拠点を移したビルダーたちもやはりこの文脈にいる。

今回紹介する「アーチ・モーターサイクル(カンパニー)」もそうしたビルダーのひとつだ。共同出資者の一人であるガード・ホリンガーは「(L.A.カウンティ)チョップロッズ」の主宰で、1981年からアメリカの二輪ビジネスで生きてきた男だ。

もう一人の共同出資者であるキアヌ・リーブスは言わずと知れたハリウッドのトップスターであり、モーターサイクル・エンスージアストでもある。「アーチ・モーターサイクル」のフルオーダーマシン「KRGT–1」が生まれたきっかけは、「チョップロッズ」のスタッフの紹介でキアヌがガードの元を訪れたことがきっかけだったと言う。

アヘッド ARCH KRGT-1

「シーシーバーを作ってほしい」
 
ハーレーダビッドソンの'05年式ダイナでタンデムツーリングを楽しむことがキアヌの希望だった。しかしガードの返事はこうだった。

「誰でもできるような、そんなつまらない仕事はやらない」
「……どんな仕事ならやる気になるんだ?」

そう尋ねたキアヌにガードが見せたのは、「チョップロッズ」が作り上げてきたカスタムマシン群だった。それを見たキアヌは興味をくすぐられ、自分のバイクがどんなふうに変化を遂げるのか知りたくなった。

「オーケー。ロサンゼルスからサンフランシスコまで、パシフィック・コースト・ハイウェイをタンデムで楽しく走れて、なおかつ〝美しい〟バイクを作ってほしい」
 
キアヌがガードにそう依頼したことで、「アーチ・モーターサイクル」のプロジェクトは動き出した。キアヌは多忙の合間を縫ってガードのところへやってきてはテストライドを繰り返し、バイクの方向性と具体策についてガードと話し合った。

キアヌは理想のバイク像について語り、ガードはそれを具現化するための手法を考え、そして試した。

「僕はドリーマーなんだ」
「じゃあ俺はドリームクラッシャーか」

そんなジョークを交わすキアヌとガードだが、ガードに言わせればキアヌの提案の多くは「ムチャなことばかり」で、ビルダー泣かせの妄想|いや、夢ばかりだったという。しかしガードはキアヌの夢をひとつずつ、丁寧にカタチにしていった。

「美しいだけのバイクも、走りが楽しいだけのバイクも、どっちもダメだ。美しいカタチをした楽しく走れるバイクが理想なんだ」

モーターサイクルに求める要素として、おそらく世界中のバイク乗りの多くがそう考えているだろう。しかしエレガントとライディングフィールは相反する要素が多々あり、すべてを満たすことは困難である。

なぜならどちらも非常に曖昧な要素と概念であり、すべての人を納得させるエレガントとライディングフィールを両立させることなど不可能に近い。

さらにいうと、ロサンゼルスをはじめとするアメリカ西部の道路環境にはヨーロッパや日本と異なる特殊性がある。アメリカの道路といえば地平線まで真っ直ぐに続く道を想像するが、ロッキー山脈を抱えるアメリカ西部には多くのツイスティロードも存在する。

それはヨーロッパのように大陸的なダイナミックさもあれば、日本のように箱庭的な繊細さもあるのだ。

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しかし世界中のマスプロダクトは、北米向けモーターサイクルの航続性能を特化させている。すなわち大径フロントホイールと長いホイールベースを持たせたクルーザーだ。それはビジネスの観点からは至極当然のやり方である。

もちろんマスプロダクトが作るモーターサイクルにもファンライドがないわけではないがロサンゼルスでは不満が残る。この土地には元々相反することを両立させなければならない背景があったのだ。

「僕たちが作ったバイクをツイスティロードに持ち込んでも、スーパースポーツのように速いわけではないし、ロングツーリングに出かけてもBMW–GSのようにラクチンなわけでもない。でも、こうやってスッとバイクをリーンさせてコーナーを曲がっていって、ブワっとスロットルをひねると、ぶっといトルクに背中を蹴飛ばされたみたいにドォドドドーって加速していくんだ。その瞬間ひとつひとつが楽しいし、魂を震わされるんだ」

テストライドで4万㎞以上も「KRGT–1」を走らせたというキアヌは、身振り手振りに加えて擬音と感嘆符をまじえながら、実に楽しそうに話す。

余談になるが、バイクの話をしているときの彼は、ありふれた表現ながら本当に少年のように目を輝かせ、照れることなくモーターサイクルへの愛と情熱を放出しながら語る。ハリウッドスターにありがちな衒いはなく、バイクを愛する一人の男として話すのだ。しかしその言葉は俳優という表現者らしさに満ちていて、ときに哲学的になる。

「ふたつの車輪を持つ乗り物を走らせるという行為は、僕にとって肉体的でもあり精神的でもあるんだ。バイクをコントロールしていてすべてが手の内にある感覚は楽しいし、物理的に移動をするというだけじゃなく、魂を一緒にどこかへ連れていってくれるんだ」と話し、さらにこう続ける。

「バイクに乗っていないと僕自身が消えてしまう」
 
言葉は異なるものの、ガードも同じようなことを言う。

「アーチ・モーターサイクルをビジネスとして成立させることはもちろん大事だが、それ以上に好きなこと、新しいこと、誰もやってないことをやる。それが大切なんだ。ビジネスとプライベートを切り分けることはできない。俺にとってバイクは人生そのものなんだ」

そういう二人がプロトタイプ(結果としてそうなったのであって、あくまでキアヌの要望を満たすワンオフカスタムマシン)を作るまでに4年、量産を決めてからさらに3年をかけて作り上げたモーターサイクルが「KRGT–1」だ。

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キアヌの言葉を借りれば、そのスタイルは「未来を感じさせるルックスだけど、歴史も感じさせる。たとえばタンクはノートン、テールはGPマシン、そして全体的なスタイルはアメリカン・チョッパーだが、どことなく日本的なデフォルメの影響も感じる」もので、古今東西を散りばめながらも今までになかったモーターサイクルである。「KRGT–1」は過去であり未来であり、現在の具現化とも言えるのだ。

「完成したときにいろんな人に乗ってもらったが、『KRGT–1』のコンセプトをほとんど理解してもらえなかった。それは俺たちが新しいカテゴリーを開拓したという事実なんだと思っている」

ガードのこの言葉は、ロサンゼルスで生まれている新たな潮流にもそのまま当てはまる。彼らに通じているのは、パーツを削ぎ落としていくチョッパーやボバーといったアメリカのカスタム手法を根底に持ちつつも、ヨーロッパのカフェレーサーの影響を思わせる'60〜'70年代のデザインをモチーフとしている点だ。

そしてもうひとつ重要なのは、過剰なデザインコンシャスになりがちだったこれまでのアメリカン・カスタムとは違い、彼らはライディング・パフォーマンスもしっかりとチューンアップさせているところだ。

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それらの中でもガードとキアヌが作った「KRGT–1」は、S&S製Vツインエンジンを中心に独自設計のスチール製セミダブルクレードルフレームと削り出しアルミ製スイングアーム、オーリンズ製サスペンション、ISR製ブレーキシステム、BST製カーボンホイールという高性能パーツを用いることで、ピュアなスポーツマシンともいえる走行性能を持たせている点で際立っている。

さらに彼らは、前後17インチホイールを装着してスポーツ性を高めた「KRGT–1S」を開発中で、順調にいけば今秋のミラノショーで発表するのだという。

完成当初、「KRGT–1」が「理解されなかった」のは、アメリカン・チョッパーを汲みつつもカフェレーサーやスーパースポーツの要素を採り入れ、なおかつエレガントさを徹底的に追求した、その飽くなき融合性ゆえなのではないだろうか。

「アーチ・モーターサイクル」をはじめ、ロサンゼルスで生まれている新たなアメリカン・カスタムの潮流が、今後どのようにモーターサイクル文化を発展させていくのか。興味は尽きない。

アヘッド ARCH KRGT-1

●Keanu Reeves
(キアヌ・リーブス:左)
1964年 レバノン生まれ。カナダ・トロントで育ち’86年にハリウッドへ渡る。映画「スピード」でブレイク、「マトリックス」の大ヒットにより、ハリウッドを代表するトップスターとなった。熱烈なバイク好きとして知られ、ノートンやハーレーなど複数台を所有する。キアヌが個人的に所有するハーレーが結果的にこのKRGT-1のプロトモデルとなった。

●Gard Hollinger
(ガード・ホリンガー:右)
カスタムビルダー。1959年、サンフランシスコ生まれ。8歳でバイクに乗りはじめ、22歳からシアトルで二輪ビジネスに携わる。ダートバイクやスーパーバイクのパーツメーカーでキャリアを重ね、'88年代後半よりH-Dカスタムを手がける。’02年「L.A. COUNTY CHOPRODS」主宰。

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text:山下 剛/Takeshi Yamashita
1970年生まれ。東京都出身。新聞社写真部アルバイト、編集プロダクションを経てネコ・パブリッシングに入社。BMW BIKES、クラブマン編集部などで経験を積む。2011年マン島TT取材のために会社を辞め、現在はフリーランスライター&カメラマン。

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